第79話イワの村

翌日、案内役の兵士を伴い

亜人達の襲撃を受けたスナ村の村長とイワ村の村長の元を訪ねる。


2つの村の村長と住人達は、街の一角に建てられた簡易宿で

寝泊まりをしているそうなので、

京太は、その簡易宿へと赴く。



既に話が通っていたのか、村長の2人は、

宿の入り口で、京太の到着をまっていた。




「ようこそ、お越しくださいました。

 

 私は、スナ村の村長の【イグナチウス】と申します」



「私は、イワ村の村長の【エイリーク】と申します」



「僕は、京太です。


 今回の亜人達の騒動について

 知っている事があれば、話して頂けませんか」




「は、はい・・・・・」



始めに口を開いた、イグナチウスだが、

話は、突然襲われたとか、家を壊されたとか

そんな話ばかりで、何も得ることが出来なかった。



続いて、エイリークの話を聞く。


京太が、エイリークに話しかけると

エイリークは、チラチラと案内役の兵士を見ながら、額に汗を浮かべている。



「あの・・・大丈夫?」



「あっはい、大丈夫です。


 それで、襲撃の事ですが

 わ、私には、どうしてこうなったのかわかりません・・・・・」




「本当?」




「は、はい・・・・・」




「わかりました」




その後、京太はお礼を述べ、面会を終えた。




2人の村長からは、これといった話は聞くことが出来なかったが

2人の態度から、何か知っている事を確信した京太は

仲間の元に戻ると、皆に集合をかける。




皆が集まると、セリカが話しかけてくる。



「京太さん、何かわかりましたか?」




「いや、何もわからなかった。


 だけど、イワ村の村長が何か隠しているみたいなんだ」




「隠している?」




「うん。


 もしかしたら、もう一人の村長も・・・」




「2人共、何かを隠しているということですか?」




「うん」




「吐かせますか?」




「いや、それより先に村に向かってみようと思う」




京太達は、一旦、村人の事は放置し、

亜人達に襲撃された村に向かう事に決めた。




翌朝、ツベスの街を出た京太達は、イワの村を目指す。




暫く進むと、断崖の間にある細い道に差し掛かると

誰かの気配を感じた。





「見張られているのかな?」



「!!!」



京太の言葉を聞き、全員が手に武器を持ち警戒する。



しかし、襲って来る気配がなく。


ただの監視かと思ったその時

両側の断崖の上から巨大な岩が、馬車に向かって転がって来た。




――不味い!・・・・・・




急いで結界を張り、馬車へのダメージは回避するが、

岩が道を塞いでしまった。



すると、タイミングを見計らったかのように

大勢の狼人族が姿を現す。



今迄、人を殺さなかったという話が嘘のように、

殺意を露にして、京太達に襲い掛かる。




「出来るだけ、生かして捕らえよう!」



京太は、そう告げると先陣を切り、

狼人族へと、突撃を開始した。



皆も馬車から降りると、狼人族と対峙する。


狼人族と言っても、人族に耳と尻尾が付いたような者が大半で、

稀に全身が毛に覆われている者がいる程度。


全身が毛に覆われている者は、

他の狼人よりも力が強く、戦闘に特化しているが

他の者達は、それ程でもない。




しかし、今、京太に襲いかかっているのは

その特化した者達だ。



槍と尻尾の先に取り付けている刃の様な物を使い、

縦横無尽に攻撃を仕掛けて来る狼人族。


京太は、その攻撃を避けつつ、狼人達の意識を刈っていく。


次々に倒され、動かなくなる仲間達の様子に、

狼人達は殺されたと勘違いをし、

怒りを露にして、襲いかかって来た。




京太は、その中の1人の狼人族を押さえ付ける。




「仲間は死んでないよ。


 意識を失っているだけだよ」




「嘘を吐くな!」




まだ、暴れようとする狼人。



京太は、押さえつけている腕に

少しだけ力を加える。



「がぁぁぁぁ!」



思わず、悲鳴を上げる狼人族。



その狼人族に告げる。



「嘘なら、こんな面倒くさい事はしない。

 それに、僕たちは、話を聞きに来たんだ」




「わかった・・・・・わかったから、その・・・腕を・・・」




狼人は、大人しくなり、仲間達に戦闘を止めるように指示を送った。


京太達は、武器を取り上げた後、意識を失っていた者達を起こして回る。




「おお!」




狼人達は、仲間が生きていた事に喜んでいる。




「本当だったんだな・・・・・」




「勿論だよ、嘘を吐く理由が無いからね」




改めて自己紹介をする。




「僕は京太、アトラ王の命令で此処に来た」




「そうだったのか、すまない。


 私は、狼人族の戦闘隊長【バリー】だ」




「バリー、今回の件だけど、詳しい話を聞かせてくれないかな?」




「構わないが、まずは狼人族の族長に会ってくれ」




京太は、狼人達の様子から、今回の襲撃事件の原因が人間側にあるような気がした。




バリーの案内の元、イワの村に到着すると、

その足で族長との面会に向かう。




京太達が案内された族長の屋敷には、

狼人族の族長の他に別種族の亜人族が2人並んでいた。




「初めまして、僕は京太。


 アトラ王の命令でこの件を治める為に来ました」




「儂は、狼人族の族長【ヴィクトル】と申します」




ヴィクトルの挨拶に続き、他の2人も挨拶をした。




「犬人族、族長【イサク】だ」




「虎人族、族長【アルヴァン】だ」




2人が挨拶を終えると、ヴィクトルが話し始める。




「京太殿は、今回の件、何処まで知っているのだ?」




「ツベスの街では、何も聞けませんでした」




「そうだろうな・・・・・・」




ヴィクトルは、ため息を吐く。




「一方の意見だと思ってもいいが、まずは、話を聞いてくれ」




「はい」




ヴィクトルから聞いた今回の件は、酷いものだった。




そもそもの原因は、クレイン ツベスの息子の【クラーク ツベス】にあった。


時折、クラーク ツベスは、父親の命令で各村を訪れていた。




その訪問の最中、亜人達の村に一番近いスナの村に立ち寄った際には、

ストレスを晴らすかの様に、

亜人達を見つけては、暴言や暴力を振るっていたのだ。





とある訪問時、スナの村に泊まる事になったクラーク ツベスは、

街に来ていた狼人を見つけると、突然。言いがかりをつける。


流石に、我慢の限界を迎えていた狼人族が抵抗すると

その態度に怒りを覚えたクラーク ツベスは、

護衛の兵士に命令を出し、集団で暴力を振るった後、

動けなくなった狼人族たちを、屋敷の牢に放り込む。



牢に放り込まれた狼人族のなかで男性には、暴行を加え殺し、

女性は、強姦と暴行を加えた。



そんなことになっているとは知らない、狼人族の族長は

帰って来ない者達を心配し、

他の亜人達の力を借りて、山の捜索を始めたが

いくら探しても、手懸りすら見つから無かった。




最後の手段と思い、スナの村で、聞き込みを行ったが、

誰も何も語ろうとしない。


だが、偶然にも露店の武器屋で、

行方不明になった者の槍を見つけたのだ。


狼人族は、魔獣や獣に殺された時、

身元が分かる様に槍に名前の1部を記している。


その為に、その槍が行方不明になった者の槍とわかった。




狼人は、直ぐに商人を問い詰めたが、口を割ろうとしない。


だが、殺意を込めて脅すと、

領主の息子が村長の屋敷に連れて行った事が判明した。




直ぐに里に戻った狼人は、族長にそのことを伝えると

族長を先頭に、狼人族はスナの村へとに向かった。


スナの村に到着した族長は、村長に狼人族が行方不明になっていることを話したが

『何も知らない』としか答えない。



その為、『屋敷を調べて欲しい』と申し出ると

突然態度が変わり、武力で追い返そうとして来た。


その中で、村長の護衛の1人が、狼人を斬りつける。


完全に、怒った狼人族は反撃に出た。



狼人族が暴れ回ると、村民達は慌てて村から逃げ出す。


村人が逃げた後、屋敷内を調べると、

地下牢から仲間の死体と

【エーリカ】という狼人族の娘が見つかり、エーリカに事情を聞いた。




「このままでは、許さぬ・・・・・」




怒りを露にする族長だが、直ぐには暴力に訴えず

領主のクレイン ツベスに話をする事にした。


捕らえた兵士に、領主宛の手紙を渡し、

会談を求めていたのだが、3ヵ月経っても、

何も返事も帰って来ない為、

族長はイワの村を襲撃する。



そして、村を占領した際にも、

『話がしたければ領主を呼べ』と村民達に伝えて逃がす。




だが、それから1ヵ月過ぎても、やはり返答がない。


その頃、エーリカが妊娠している事も分かり、

狼人達の怒りが頂点に達した。


それから1ヵ月後、

同じ目に遭っていた亜人達で連合を組み、

この地を奪うことに決め、その準備をしている最中、

京太達がやって来たので、

領主の送り込んだ偵察隊だと思い、襲撃をかけたらしい。




全ての概要を知った京太は、ヴィクトルに問う。




「貴方達の求める条件を教えて下さい」




「儂らは、平和に暮らしたいだけだった。


 そう思って今迄我慢してきたが、

 相手は図に乗る一方で、今回は死人も出てしまった。


 儂は、二度とこの様な事は、起きて欲しくない、

 それと同時に償いをしてもらわねば、死んだ者達に示しがつかん」




隣にいた、犬人族や虎人族の族長も頷いている。




「わかった、僕に任せてくれないかな、決して悪いようにはしないから」




「お主みたいな小僧に、何が出来ると言うのだ!」




ヴィクトルが、殺意の籠った視線を京太に向ける。



すると、後ろに控えて話を聞いていたミーシャが睨み付けた。




「誰に、向かってその様な物言いをしているのだ!」




ミーシャに殺意を向けられたヴィクトルは、京太から目を反らすが

ミーシャは、態度を緩めない。




「もう一度聞く、先程の態度は何の真似だ!」




その言葉と同時に、京太の仲間達の鋭い視線が、ヴィクトルに集中した。


余りの恐ろしさに、ヴィクトルの尻尾は、先程までは上を向いていたが、

今は完全に垂れている。




「答えろ!」




3度目の威圧に、観念したのか、ヴィクトルは謝罪を口にした。




「申し訳御座いません」




「貴様の部族など、我らとやり合えば全滅する事を理解しろ。

 それと、平和に暮らしたいと思うのならば逆らうな!」




その言葉に、3人の部族長は深々と頭を下げる。




「貴方様にお任せ致します」


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