第78話ツベスの街 

シャトの街を出発した京太達は、順調にツベス領に向かっていた。


領内に入ったが、周りの景色は、

緑が無く、乾燥した砂と岩ばかりだ。




――本当に人が住めそうに無いな・・・・・




そんな事を思いつつも馬車を走らせていると、

乾燥した地帯から変化し、緑のある渓谷に差し掛かる。



「この辺りは、綺麗ね」



セリカがそう呟きながら、川辺を見ていると

巨大な岩が動き出した。



御者をしていたソニアも気付き、馬車を止める。




「ロックゴーレムよ!」



川辺の大きな岩は、次々と動き出し

馬車に向かって歩き始めた。



「来る!!!」



京太は、馬車を降りてロックゴーレムに向かい合う。




――初めて見るけど、でかいな・・・・・




京太に続き、仲間達も、次々に馬車から降りて来た。




「本当だわ、ロックゴーレム、始めて見た・・・」




「私もです」




エルフの2人が感心していると、ロックゴーレムが襲いかかって来る。


『ドォォォォン!ドォォォォォン!』と重音を響かせながら近づき、

岩石の腕を振り回す。




ロックゴーレムの腕を躱し、京太は剣で切り付けたが

腕の岩石が、少し欠ける程度で終わった。




――剣が持ちそうにないな・・・・・・




京太は、アイテムボックスに剣を戻す。



「剣がダメなら・・・・・」



魔法を放つ。



『ウォーターカッター』




ロックゴーレムも、魔法で圧縮された水の刃には敵わず、両足を切断され、

その場に倒れ込んだ。


しかし、ロックゴーレムの自然復元能力が働き、

周囲の岩を取り込み、元の形に戻り始める。




「そんなの有りなの!?」




驚く京太に、ソニアが思い出したように告げる。




「京太、ロックゴーレムは、身体の何処かに『コア』があるって聞いた事があるよ」




「わかった」




――それなら・・・・・




京太はもう一度、『ウォーターカッター』を放った。


しかし、先程とは違う。



放った『ウォーターカッター』は、1つではなく

ロックゴーレムを囲うほどの数なのだ。



ロックゴーレムは、見るも無残に細切れにされ、

胸の部分から『コア』が露出する。



「今だ!!!」



京太は、『コア』に剣を突き刺し、破壊した。


2つに割れた『コア』を拾い上げる京太。



――なんか良い物、手に入れた気がする・・・・・




京太は、笑みを浮かべながら、アイテムボックスに収納した。


その様子に、仲間達は、心配そうに声を掛けて来る。




「大丈夫!?」




「うん、大丈夫だよ、それより・・・」



京太の視線の先には、未だロックゴーレムの姿がある。



「残りも倒すわよ」



ソニアを先頭に、ロックゴーレムに襲い掛かる京太の仲間達。



岩と化していたロックゴーレムをすべて倒したので

手元には、5つの『コア』がある。



その全てをアイテムボックスに収納し終えると、馬車に戻り

再び、ツベスの街へと向かった。



渓谷を抜けると、再び景色が変わる。


乾燥地帯。




「本当に街があるのか、不安になるわね」




「そうだね、向こうに見える山も、

 木が生えていないし、どうやって生活しているんだろうね」




京太は、ソニアと会話しつつも、不安を覚えてしまう。



しかし、暫くすると、砂漠のオアシスの様に、

突然、緑が目の前に飛び込んで来た。




「街だわ!」




ソニアの言葉に、仲間達は、馬車の荷台から顔を出す。




「ホントだ!」




「こんな所が、あるのですね」




ラムとミーシャは、この景色に感心していた。




ツベスの街は、壁で囲まれており

その周囲には、小さな川が流れていた。


ツベスの街の門に到着し、立っている警備兵に声を掛ける。



「王都から、アトラ王の指示で来ました。


 領主様にお会いできますか?」




「え? はい、ご案内致します」




警備兵が馬に乗り、京太達の馬車を先導する。


領主の屋敷は、街の中心にあるのだが

街の中心迄は、思ったよりも時間がかかり、この街の広さが伺えた。




領主の屋敷に到着すると、先導してきた兵士が

警備兵に、王都からの客人が来た事を告げると

屋敷の入り口に向かって駆け出した。




警備兵は、扉を叩き、出て来たメイドに要件を告げると

メイドと警備兵が、馬車に歩み寄る。




「旦那様から、お伺いしております。


 どうぞ、こちらに」




馬車を警備兵に任せ、京太達は、メイドの案内に従い、屋敷へと入る。




「こちらで、お待ちください」




メイドに案内された部屋で待っていると、

領主のクレイン ツベスが姿を見せた。




「待たせたようだな」




クレイン ツベスは、エルフを見つけると、その足で近づく。




「この度は、こんな辺境の地に、ようこそおいで下さいました。


 何も無い街ですが、ごゆっくりお寛ぎ下さい」




クレイン ツベスは、ラムとミーシャに、頭を下げる。




「何か、誤解しているようですが、

 私達の主人は、あちらにおります」




2人は、京太の方を向くが、

クレイン ツベスは、京太を見た後も気にせず話を始めた。




「私が、呼んだのは、あなた方2人です。


 それに貴族である私が、

 同じ人族の貴族でも無い者に、下げる頭は持ち合わせておりません」




その京太を見下す態度に、ラムとミーシャの顔つきが変わる。



同時に、空気を読んで後ろに隠れていたイライザが前に出た。




「クレイン伯爵、お久しぶりですね」




「えっ、イライザ王女様!」




クレイン ツベスは、慌てて膝をつく。


イライザも先程の発言が頭に来たのか、

冷静さを装いながらも、口調は厳しい。




「先程の発言ですが、

 私の夫に、なにかご不満があるようでしたので、

 もう一度、仰って頂けますか?」




「夫?・・・・・」




「はい、シャトの街の領主で、私やこちらのエルフ達の夫です」




「エルフが、人族に嫁いだのですか!?」




「はい、京太様は、爵位を持っておりませんが、それだけの方なのです。


 それに、爵位を望めば、直ぐに侯爵程度になれます」




「え・・・・・どうして・・・」




「お分かりになるでしょう、私の夫ですよ」




クレイン ツベスは、イライザの言っている『こう爵』は、

王の親族を現す方の『公爵』だと気が付く。




「大変失礼しました。


 先程の事は、忘れて頂けないでしょうか」




「いえ、帰ります」




答えたのはミーシャだった。




「「ええっ!」」




周囲が驚く中、ミーシャは続ける。




「相手を見て、あのような態度を取るのですから、

 今回の件も貴方達が原因なのでしょう。


 それなら、私達が力を貸すより、自身で解決した方が今後の為です」




そう言うと、京太の腕を引っ張る。




「京太さん、帰りましょう」




「お、お待ちください!」




焦るクレイン ツベスは、入り口に回り込み、再び、頭を下げた。




「先程の件を忘れて欲しいなどと、烏滸がましい事は申しません。


 ですが、今一度、チャンスを頂けないでしょうか?」




真剣な表情で、願い出るクレイン ツベス。


溜息を吐いた京太は、ミーシャに話し掛ける。




「ミーシャ、話だけでも聞いてあげようよ、

 さっきの事なら気にしていないから」




「京太さんがそう言うなら・・・お任せします」



ホッと胸を撫で下ろすクレイン ツベス。



京太達が、ソファーに腰を掛けると、お茶が運ばれてくる。



一口飲んだところで、クレイン ツベスが口を開く。




「この領地では、村々で亜人達と物々交換を行い、

 お互いに良い関係を築いて生活しておりました。


 しかし、半年程前から、亜人達の様子に変化が起こり始め

 亜人達の住処に一番近い村を襲い、そのまま占領し始めたのです」


 


「村人たちは、どうなったのですか?」




「はい、怪我人は出ましたが、死者は出ておりません」




――えっ、でていない?・・・・・




京太は、この事に疑問を持つ。


本来、亜人族と人族が争うと、

人族の方が、能力が劣っている為に負けるどころか、

大怪我を負ったり、死者も出て当たり前だった。




しかし、怪我人が出ていないという事は、亜人達に殺す気が無かったと思える。




「あの、その村から逃げ出した人達に、会わせて頂けませんか?」




「ああ、構わないが、何かあるのか?」




クレイン ツベスの質問に、京太は本心を語らず、曖昧な返事をする。




「いえ、少し話が聞きたくて・・・・・」




「それなら、明日にでも案内させよう」



クレイン ツベスの許可が下りたので

逃げ延びた住人に、翌日会わせて貰える事になった。



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