第76話報告と頼まれごと

シャトの街に戻った翌日、京太はイライザを伴い、王城に出向く。


謁見の間ではなく、応接室にてアトラ王家とフィオナに会い、

今回の依頼完了の報告をする。




「約束通りアクセル王国の件、無事に終えました」



その報告に胸を撫で下ろすフィオナとアトラ国王。



「そうか、色々とご苦労だった」




「ありがとうございます。

 それから、アクセル王から、感謝の言葉を頂いております」




「うむ。

 これで一息つけそうだな」




「はい、当分は安心しても良いかと思います」




「良かったな、フィオナ殿」




「はい、お力をお貸し頂き、有難う御座います」




フィオナは、改めてお礼を述べる。



京太の報告は続く。




「ただ、反王国派の貴族達を処分したので、当分は人手不足が続きそうです。


 その為、シラスの街を、王妃とマリアベル王女が管理しております」




「なんと!

 第2王女と王妃が領主の代行をしているのか?」




「はい」




「相当の人手不足のようだな」




「はい。

 貴族の半数近くが、反国王派に加担していましたから、

 これからが大変だと思います」




「そうか・・・・・何か力になれる事を考えておこう」






国王への報告を終えると、京太とイライザは王城を後にした。


その後、2人がシャトに戻ると、

馬車が列を作っていた。



――何があったの?・・・・・




京太とイライザは、急いで馬車の最後尾から先頭を目指す。


馬車の先頭は、アルゴ商会の前で止まっていた。



中を覗くと、ナタリーと奉公人達が忙しそうに働いている。


暫くその様子を見ていると、屋敷の方から木箱を抱えたアルゴが姿を見せた。



──あの木箱は・・・・・



アルゴ抱えている木箱は、先日、京太が渡した『ような』を詰め替えた箱。




――もしかして・・・・・




京太の思った通り、馬車が集まった原因は『ような』だった。


昨日、店頭に並べていた所、街の人だけではなく、

王都から来ていた人達の目にも留まったのが事の始まりで

そこから、噂が広がると、王都の商人達が一斉に買い付けに来ていたのだ。




『ような』は、京太の見ている前で、あっという間に売れ切れる。


その為、買えなかった商人達も多く。



次回の入荷予定を問い質す者や、予約を受け付けてくれと言う者達で

未だに混乱は、収まらなかっが、アルゴがしっかりと対応したおかげで

暫くして、馬車の列は、解消した。




店の前から、商人達が去った後、

そっと顔を覗かせる京太。




「お疲れ様」




「京太様!」




「大変だったね」




「ははは、思った以上に噂が広まるのが早くて・・・・・

 流石、王都の商人といったところでしょうか」




汗を流しながら、感心しているアルゴの顔は、満足しているように思えた。




それから数日後、王都の商人達は、

アクセル王国から『ような』を買い付ける事を検討したが

日数が掛かり過ぎる上、

アルゴ商会が販売していた状態でこの街に持ってくることは不可能だと判断した。




中には、アルゴ商会がどうやって運んだのかが気になり、

必死になってアルゴ商会を調べたが、結局、何もわからなかった。


何人かの商人は、恥を捨て、直接聞いたらしいが、

アルゴが話す訳が無い。


その後も、奉公人の買収、引き抜き、色々と手を尽くしてはみたが、

全員がどんな好条件を出されても、話しに乗る者はおらず、

結局、打つ手がなくなり、諦めるしかなかった。




結局、商人達は、アルゴ商会が、

再入荷させることを待つ他に手だてが無いことを理解した。






そんな事もありながら半年が過ぎた頃、

アトラ王国内にあるツベス領の領主が、国王に謁見を求めてきた。


ツベス領は領土は広いが、作物を作ったり、人族が生活出来る場所は少なく、

所謂、未開拓の地が多く、魔獣や魔物が多く蔓延る地域なのだ。



その為、領土の半分に亜人達が住み、独自の生活を送っているのだが

最近になって、とある問題が起きる。


その問題とは、亜人達が人族の村を襲う事件が頻繁に起こり始めた事。


勿論、領主も、手をこまねいていた訳では無く、

兵士を送り込み、襲撃を防いだり、

近くに住む亜人達の様子を観察をして、事件の原因を調べようと努力もした。




だが、、人族の相手をする者はおらず、それどころか

追い返されたり、怪我を負う者たちが続出し、

全くと言っていいほど、事件の真相を調べる事が出来なかった。




困り果てた領主は、

国王に相談という名の援助を求めに、この王都までやってきたのだ。




「陛下、ご無沙汰しております」




「【クレイン ツベス】伯爵、久しいな」




「はい、この度は謁見をお許し頂き、感謝致します」




「それで、この度は何用だ?」




「はい、実は・・・・・・」




クレイン ツベスは、領内で起こっている亜人達による襲撃事件を語る。




「そうか・・・・・それで、何を求めている」




「はい、出来ましたら、お力をお貸し頂きたいのです」




「力とな・・・・・」




クレイン ツベスは、援助の内容を語る。




「陛下のお知り合いに、エルフがいるとお聞きしました。


 そのエルフに、仲裁をお願いしたいと思っております」




アトラ王は、勝手に返事をせず、保留にする。




「確かに我が知人にエルフはいるが、その者の予定も聞かねばなるまい」




「確かにそうですね、私も事を焦っておりました」




「近いうちに連絡を取り、お主に伝えよう」




「宜しく、お願い致します」




アトラ王との謁見を終えたクレイン ツベスは、

街に宿をとり、国王からの返事を待つ。




クレイン ツベスが帰った後、

アトラ王は、シャトの街の京太に宛て手紙を送る。


京太の元に手紙が届いたのは、その日の夕方。


手紙を受け取った京太は、内容を読んだ後、ラムとミーシャを呼んだ。




「京太、どうしたの?」




「うん、これを読んでくれる?」




京太は、アトラ王の手紙を2人に見せる。



ラムとミーシャは、手紙を読み終えた後、

『考えさせて欲しい』と返事を濁す。




その日の夜、京太の寝室にはラムの姿があった。


ラムは、いつもと違い、少ししおらしい。




「あのね・・・・・あの手紙の話だけど、ああ言う話は里の承諾が必要なの。


 だから、直ぐには返事が出来なかったの」




「そうだったんだ、なら一度、クラウスに相談してみるよ」



「うん、お願い」




後日、ラムとミーシャを連れて京太はクラウスの元に向かった。


手紙でも良かったのが、

クラウスには3人のエルフを送って貰った事もあったので

直接お礼を言いたかったのだ。



今回は、珍しく3人だけの旅になる。




皆からは『ついて行く』と言われたが、

あまり全員で街を空けるのはどうかと思い、

京太は、留守を頼むことにしたので

今回は3人だけでの旅になったのだ。




数十日後、予定通り京太達は、アルの街に到着する。



アルの街に着いた京太達は、その足でギルドに向かい、

クラウスに面会を求めた。




突然やって来た事に驚きながらも、

京太達はクラウスと会うことになり

ギルドの職員に案内されて、応接室にて待つ。




暫く待っていると、仕事に一段落をつけたクラウスが入って来た。




「京太様、お待たせして申し訳ございません。

 ラムとミーシャも一緒か、元気そうだな」




『当り前よ』、『当然です』と答える2人の横に座る京太は、

苦笑いを浮かべている。



「ところで、今回はどのような御用でしょうか?」




「実は、このことなんですけど・・・」




京太は、アトラ王からの手紙をクラウスに渡す。



手紙を受け取ったクラウスは、しっかりと手紙に目を通した後

京太と向き合う。




「京太様、この件ですが、やはり里に聞いた方が良いかと思います」




「では、里に行った方がいいのかな」




クラウスは止めた。




「それはお止め下さい。


 京太様が里に行く事になったら、里は大騒ぎになります」




「あ、そうですか・・・・・」




「はい、ですので私が手紙を送りますので、

 暫くこの街に滞在して頂けませんか?」




「分かりました。


 そうさせてもらいます」




その後、3人はクラウスに紹介された宿に泊まる事を決め

手紙を待つ間、京太達は、ギルドの依頼を請け負うことにした。




するとクラウスは、ここぞとばかりに、

中々請ける人のいない難度の高い依頼ばかりを京太達に頼ん来たのだが

京太達は、その依頼を難なく熟し、次々と片付けた。




おかげでギルドは潤い、助かることになったのだ。




1週間程経った頃、里から手紙が戻って来た。



手紙には、『嫌なことがあれば断ればよい』と記されると同時に

ラムに任せるとも記されていた。



「普段と違い、結構曖昧な返事よね・・・」



「そうですね。

 普段なら、『他種族の問題に関わるな』とか言いそうですけど・・・」


エルフの里としては、他種族の問題など、関わりたくないというのが本音だが

京太の絡んでいることから、状況を見て判断する様に告げているのだ。



そんな歯切れの悪い手紙を受け取った後日、

3人はアルの街から、旅立った。




京太は、帰路の途中で思い出す。



――あっ、お礼を言うの忘れた・・・・・・




既に途中まで戻っていたので、お礼は、後日にし、そのままシャトの街に向かう。


また数十日掛けて、京太達はシャトの街に戻ると、

その翌日にはイライザと王都に向かった。


王城に到着し、応接室でアトラ王と面会を果たす。




「京太殿、わざわざ、すまないな」




「いえ、それで、ラムとミーシャから承諾を得られましたので、

 お引き受けいたします」




「助かる」




「ところで、他の皆さんは?」




応接室には、アトラ王の他に、エヴィータ王妃、

ナイトハルト第1王子に続き、婚約者のフィオナまでもが揃っていた。




「ああ、それなんだが・・・・・」




アトラ王は語る。




「アクセル王国は、まだ情勢が不安だろうから、

 フィオナには滞在して貰っているのだ」




「それは理解出来ますが、僕が聞きたいのは、この場にいる理由なんですけど」




アトラ王は、一息置いてから話を続けたる。




「それなんだが、2人をシャトの街に迎えては貰えないだろうか?」




「えっ、どういうこと?

 本気ですか?」




その問いに答えたのは、ナイトハルトだった。




「京太さん、俺達をシャトの街に住ませて下さい」




突然の提案に、京太とイライザは驚く。




「兄様、本気ですか!?」




「ああ、本気だ。


 あの街は治安もいいし、住人も優しい。


 京太さんのいない間、領主の真似事もさせてもらったけど、

 本当に、良かった。


 勿論、領主になりたいとか、そんな思いは無い、

 ただ、あの街で生活し、あの街の役に立ちたいんだ。」




「京太さん、どうしますか?」




「イライザが嫌でなければ、僕は構わないよ」



「それでしたら、問題はありません」



イライザの返事を受け、京太はナイトハルトと向き合う。



「そういう事ですので、

 明日にでも、街に来てください」




その返事を受けて、ナイトハルトとフィオナは手を取り合って喜んだ。




「イライザ有難う、明日、必ず向かうよ」




シャトの街に、新しい住人を迎える事が決まった。

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