第75話帰還

昨日に続き、本日も、イライザはエリノア王妃と打ち合わせをしていた。


打ち合わせに参加していないマリアベルだが、

騎士団長とミーシャとソニアを護衛に付け、街の視察に出掛けている。



マリアベルが最初に視察に赴いたのは領主の畑。



そこでは、農夫達に交じって、2人の厳つい男が働いていた。




「力が強そうな方が、いますのね」




「はい、あれは【ディーノ】と【ドワイト】と申します。

 元は、この畑の管理を任せられていた者達です」



「でしたら、ご挨拶をしておきましょう」



「はっ!」




騎士団長は、ディーノとドワイドを呼びつける。




「わしらに、何か御用でしょうか?」




2人の態度は、以前とは、全く違うものになっていた。




「こちらが、新しい領主のマリアベルです」




ミーシャがマリアベルを紹介したのだが、

2人は、ミーシャの方を向いたまま固まっている。



暫くして、口を開くディーノ。



「あの・・・・・ミーシャ様、新しい領主と言う事は・・・・・・」




「ええ、私達の役目は終りましたので、見ての通り引継ぎです」




2人の男は泣き出した。




「そ、そんな・・・・俺達を置いて行かないで下さい!」




ディーノとドワイトは、土下座をして頼み込むが

ミーシャは、首を横に振る。




「私は結婚しています。


 ですので、貴方達の面倒を見る事も、見る気もありません」




2人は声を揃えて答える。




「それは分かっています。


 ですが、護衛として、お側に仕える事をお許しください」




「出来ません。

 ですが、何年かに1度は、ここの様子を見に来る事を約束します。


 その間、貴方達は、このマリアベルに仕え、この街の発展に尽くしなさい。


 それが出来ていれば、今度来た時に褒めてあげます」





「本当に、来て下さるのですね」



「嘘は言いません」



「なら、マリアベル様にお仕えします」





ディーノとドワイトは、マリアベルに仕える事を誓ったのだが

何処で間違えたのか、

2人は、農夫を辞め、マリアベル専属の執事になる事を希望した。


「あら、専属の執事が、欲しかったから、丁度いいわ。

 それに、力も強そうだから、護衛も頼めそうね」



意外と、マリアベルも乗り気だ。



「本当にいいのですか?」



ミーシャの問いかけに、マリアベルは『構わない』と答え

この時より、2人を執事として迎えることにした。



この後も、マリアベルは、ミーシャとソニアから説明を受けながら街の視察を行い、

夕方になると、厳つい執事2人を伴い、

イライザとエリノアとの会議に出席をした。



マリアベルが、椅子に腰を掛ける。


背後に控えるディーノとドワイト。



その光景を見て、最初に口を開いたのはイライザ王妃。




「マリアベル、質問をしてよろしいですか?」




「お母様、何でしょう」




「貴方の後方の2人は誰ですか?」




「私の執事です。


 田舎では、物騒な事もありますので、護衛も兼ねています」




「そうでしたか、中々、面白い方を見つけましたね」




「はい」




マリアベルが笑顔で答えた後、ディーノとドワイトに挨拶をさせた。




「ディーノと申します」




「ドワイトと申します」




2人が、緊張しながらも挨拶を終えると、

マリアベルは満足そうな笑顔を見せる。




「私の護衛よ。

 明日、2人の部屋と衣服を準備するつもりなの」




「そうですか、ですが、仕事だけは怠らないようにしなさいね」




「分かっていますわ」




親子の会話を終えると、再び、街と周辺の村について会議を行った。


その日の会議は、遅くまで続き、イライザの業務受け渡しには、

まだ、日にちが掛りそうに思える。



京太は、会議を終えたイライザを部屋に招く。


疲れ切っているイライザを労う。



「この街の事、全てを任せてしまい、本当にごめん」




「いいのよ。

 気にしていないわよ。

 ですが、どうしても、引継ぎが多くて・・・・・・」




「待つのは構わないけど、身体は大丈夫?」




「そんなに心配なら、慰めてください・・・」




イライザは、京太にそっと寄り添う。




「わかった、今日は、ゆっくり休もう・・・・・」




その日、2人は同じベッドで眠った。






翌日、イライザは、元気な姿で食堂に現れた。




「おはよう!」




「イライザ、何かいい事でもあったのですか?」




ミーシャの質問に答えたのは、ラゴだった。




「聞くまでも無かろう、昨晩はイライザの順番だった筈じゃ」




それを聞いた途端、皆の視線が京太に向く。




「さぁ、今日も一日、頑張ろう!」




誰も、答えてくれなかった。



食事を終えると、イライザは、エリノア王妃との会議に向かう。


この日の会議で全ての引継ぎを終えると、

翌日には、シラスの街を離れる事にし、それぞれが旅支度を始める。




エリノア王妃は、サリーとナンナの役目を、キャシーとカレンに任せ、

ホームレスだった子供達は、そのままメイド見習いとして雇う事を決めた。


領民や近隣の村の事は、マリアベルに一任し、

商業関係は、エリノアが受け持つ。



また、制服が届いたディーノとドワイトは、正式に執事になる事が決まり、

時間のある時は、キャシーの指導を受ける事になった。





翌日、エリノア王妃達に挨拶をし、シラスの街を旅立つ京太達。




帰宅の途に就く京太達は、何時ものように狩りをしながら、

アイテムボックスの貯蓄を増やす。


シラスの街を出てから、ひと月を超えた頃、

京太達は無事にシャトの街へと帰って来た。




街に入った途端、京太達は驚いた。


旅に出る前は、空き地が多かった筈だが、

今は建物が立ち並び、空き地の無い状態になっていた。




――街になったなぁ・・・・・




そんな事を思いつつ屋敷に戻ると、スミスが出迎えてくれた。




「お帰りなさいませ、旦那様」




「スミス、長い間、任せてしまってごめん。


 変わった事は、ありました?」




「いえ、それ程の事はありませんが、エルフの3人が到着しております。


 その他、細かい事に関しては、旦那様の執務室に書類にして置いております」




「わかった、ありがとう」




一旦、皆と別れ、それぞれの部屋に戻る。


その日は、休息を取り、食材の補充や、お土産を配る事にした。


それが終ると、街の様子を見て回る。


街を歩き、アルゴ商会の前を通りかかると、店の中にナタリーの姿を見つけた。




――そう言えば、お土産をまだ、渡していなかったな・・・・・




そう思い、京太は声を掛ける。




「こんにちわ、アルゴはいますか?」




「あ、京太様、お帰りになられたのですね」




「うん、お土産を持って来たんだけど・・・・・」




「まぁまぁ、それは有難う御座います。


 どうぞ、奥の屋敷の方へ」




ナタリーに誘われ、奥の屋敷に向かう。


京太は歩きながら、最近の店の様子を聞く。




「最近、売り上げの方は、どうですか?」




「はい、お蔭様で、良い商売をさせてもらっています」




「それは、良かった。

 ところで、アルゴは?」




「今は、農地の方へ行っています」




「何か、あったのですか?」




「いえ、収穫物の買い取りです。


 最近は、奉公人を連れて、直接農地に出向いています。


 そのほうが荷台に乗せる時から、仕分けが出来るので、

 後々楽になりますし、農家の方々も運ぶ手間が省けますから」




そんな話を聞いている内に、アルゴが戻って来た。




「京太様、お戻りでしたか、ご挨拶にお伺いせず申し訳ありません」




「そんな事は、気にしなくていいよ、それより、これ、お土産」




京太は、市場で購入した果物を渡す。


アイテムボックスで運んでいるので、

買った時と同じ状態のままなので、いい匂いがしていた。




「これは、珍しい果物ですね」




「『ような』というらしいのだけど、1つが銅貨10枚だったんだ。


 シャキシャキした歯応えと、良い感じの甘さで美味しかったよ」




「それは、良いですな。

 では、1つ、味見をしてみましょう」




ナタリーが切り分ける。


アルゴは、1つ食べてみた。




「うん!

 これは、美味しいですな!」




「良かった。

 あるだけ買って来たから、何処に置こうか?」




「それは本当ですか!」




アルゴとナタリーは、顔を見合わせた後

ナタリーは店に向かって走りだした。



店から戻って来たナタリーの横には、

木箱を持った奉公人達が、並んでいる。



「京太様、こちらに出していただけると

 有難いです。」



「うん、わかった」



京太は、アイテムボックスから、『ような』を次々に取り出すと

奉公人たちが、木箱の中に綺麗に並べる。


奉公人達は、綺麗に並べた物から倉庫に運び込んだが、

半分は直ぐに店頭に並べた。


いきなり呼び込みが始まると

興味本位で人々が集まり始める。



その様子を見ていた京太だったが、徐々に売れ始めたので

忙しくなると思い、アルゴに挨拶をする。



「そろそろ、帰るよ」




「本当に、いつも、有難う御座います」



2人は何度もお礼を述べて、京太を見送った。




街を一回りし、屋敷に戻ると、ラムとミーシャが待っていた。



「京太、里から来たエルフを紹介したいんだけどいいかな?」




「わかった、何処に行けばいいの?」




「応接室で、待たせています」




京太は、ラムとミーシャを連れて応接室に向かう。



応接室に入ると、3人のエルフがソファーに座っていた。


だが、京太の姿を見ると、慌てて立ち上がる。




京太は、エルフ達の正面に立つ。


その横には、ラムとミーシャ。



最初に口を開いたのは京太。



「長い間留守にした為に挨拶も出来なくてすまない、

 エルフの里から来たんだよね」




「はい、自己紹介をさせて頂いて宜しいですか?」




「うん、頼むよ」




エルフ達は、自己紹介を始める。




「エルフの長の1人、【レイド】の孫の【ルロ】です。


 年齢は、ラムと同じ110歳です。


 これより、京太様の屋敷の警護として、働かせて頂きます」




「私は、エルフの長の1人、【ワイル】の孫の【レイラ】です。

 110歳です。


 宜しくお願い致します」




「最後は私ですね、京太様、ミーシャと同じロウの一族です。


 ミーシャと同じ105歳で、【ヤン】と申します。


 宜しければ、貴方様のお側に置いて頂ければと・・・・・」




言い切る前に、怒りの表情をみせている

ラムとミーシャが割って入る。




「それは要らない、今すぐ里に帰れ」



「うん、京太が頼んだのは、屋敷の警護。


 それ以外は要らない。


 従わないのならば、長を呼びつける。


 覚悟しろ」




2人に攻められ、ヤンは半泣き状態で訂正し、

屋敷の護衛に付くと言い直した。




少し、拗れそうになったが、京太は、3人を受け入れた。




「これから宜しく頼むね」




その後、屋敷で、3人の歓迎会を開いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る