第73話イライザの奮闘



~少し時が遡ります~




京太達が、王都に旅立った後、イライザは兵士達に集合をかける。


指定した屋敷前に兵士達が集まると、イライザが正面に立った。





「皆さんこんにちは、私はアトラ王国第1王女、イライザ アトラです。


 まず、初めに、この街の領主は交代しました。


 今後、今迄行っていた様な領民に対しての暴力や、

 権力を盾にした強請を禁止します。


 きちんとお給料は支払いますので、宜しくお願いします」




挨拶を終えたイライザだが、

兵士達の反応は薄く、本当に分かっているのかが不安になった。




「皆さん、分かって頂けましたでしょうか?」




もう一度聞いてみたが、1部の者達からしか返事が返って来ず、

殆どの者が、まるでどうでもいいような態度だった。


この状況に、苛立ちを覚えたソニアが声を上げる。




「アンタ達、聞いているの!?


 返事くらい、しなさいよ!」




挨拶をしたのも女性、その脇に並んでいるのも女性という事で、

兵士達は完全に舐め切っているのだ。


その為、ソニアが声を上げても無反応で

中には、無言で『ニヤニヤ』している兵士もいる。




そんな態度の兵士達にラムが問いかけた。




「あんた達、さっきから変な顔をしてるけど・・・・・

 もしかして、それが普段の顔なの?


 それなら仕方ないけど・・・・・・」




ラムの挑発に、指摘を受けた兵士達はラムを睨む。



だが、ラムの挑発するような態度は、変わらない。




「何?

 いまのそれが、普段の顔なの?


 あんた、絶対女にモテないわね。


 だから、強請ったりして憂さ晴らしをしていたの?」



その発言に、兵士は列をはみだし、ラムに迫る。




「おい姉ちゃん、調子乗るんじゃねえぞ!


 この街の領主が変わったなら、今度は俺達が治めてやるよ」




その兵士の言葉に賛同するように、1部の兵士達が騒ぎ出す。




「俺達に任せろよ。

 なんなら、姉ちゃん達の世話もしてやろうか」




イライザ達を笑う兵士達とは別に、

反対側に並んでいた兵士達の顔色が青くなっていく。




――あいつ等、知らないんだ・・・・・絶対にまずいぞ・・・・・




ここに残っている兵士の中には、

京太の仲間達が戦っている所を見ていない者も多かった為に、

ただの女性だと思い、舐めてかかっているのだ。


だが、顔色を青くする兵士達は、

ソニアとセリカの戦いを目の当たりにして自ら降伏を選択し、

生き永らえた者達だ。


その温度差は激しく、言い返さない事をいい事に、

イライザ達に対する煽りは酷くなる。




「そうだな。

 なんなら、俺の前に来て跪き、

 『お願いします』と言って見ろよ!」




その言葉で、限界を迎えたイライザ。


ラムに近づいて、煽り続ける兵士に雷を落とす。




轟音と共に、兵士は黒焦げになり、その場に倒れた。




「次に死にたい方は、誰ですか?」




笑顔で言い放つイライザに、茫然とする兵士達。




「そう言えば、あんたも言っていたわよね」




ラムに指を差された兵士は、恐怖から、股間を濡らしている。




「まだ、返事出来ないの?」




追い打ちをかけるラムの言葉に『ガタガタ』と震え出し、

何度も『ごめんなさい』と呟いている。



ラムは、震える兵士を放置して、多くの兵士の方へと向き直った。




「何か勘違いしているみたいだけど、

 私達は優しく接しようとは、全く思っていないわ。


 それよりも、前の領主みたいに我儘を言う奴を見つけ出し、

 排除しようと思っているから、正しい態度で接してね」




兵士達は、大きな声で返事を返した。




その後は、街の警備や門の警備、領主の屋敷の警備と色々決めたが、

誰も文句は言わなかった。




次にイライザは、呼びつけていた商人達と話し合いを行い、

適正価格の決定と商人ギルドを作る様に言いつけた。




「姫様、商人ギルドでは、何をするのでしょうか?」




「今後は、そこで適正価格の決定と、商人の登録をして貰うわ。


 ここに登録している者達だけが、商売をしていい事にするのよ。


 それから、登録時には登録料を貰い、

 物流に関しては商品の2割を手数料として頂く。


 そのお金で商業ギルドで働く人たちの賃金を賄うの」






「それは、良いと思いますが、何故その様な物を作るのでしょうか?」




「変な物を売らない為と、同じ商品なのに値段がバラバラだと困るでしょう。


 それと、領民達が作った物を、きちんとした価格で買い取る場所を作る為よ」




「分かりました、それで私達は何をすれば良いのでしょうか?」




「何を言っているのですか!


 建物の代金はこちらで出しますが、働く者などは、貴方達が探して下さい。


 この商業ギルドの中心になるのは、貴方達なんですよ」




「えっ、私達ですか?」




「商業の事は、商人に任せるのが一番です。


 ですが、独占や汚い事をしたら許しませんよ」



「はい、分かっております」



商人達は、話を終えると席を立ち、退出する。



商人たちが帰ると、一息つくイライザ。



「明日は、畑の視察だったわね・・・・・」




イライザは、王女なので、それなりの勉強はしているが

実務経験はない。


だが、習ったことを思い出し、京太に応えようと必死に戦っている。





そして翌日、イライザは護衛を伴って、領主の畑の視察に向かった。



近づくにつれ、畑の広大さがよくわかる。



「本当に広いわね」



「はい。

 前の領主様は、この街のほとんどの畑を所持しておりましたので

 ここは1部でしかなく、他の場所にもあります」

 

「え?

 他にもあるの?」



「はい」



「そうなんだ・・・・・」




そんな会話をしている間に、畑に到着したのだが

そこで目にしたのは、

ガリガリにやせ細った領民達が働いている姿だった。




イライザは、領民に駆け寄る




「貴方達、食事は、どうしていますか?」




「・・・・・・」




領民達は、俯いたまま答えない。




「話して下さい!


 何も言わないと分かりませんから!」




「・・・・・・」




イライザは、護衛の兵士に、ここを管理している者を呼びに行かせると

その間に、もう一度、領民たちに聞いてみたが、

やはり答えない。



仕方なく、暫く待っていると、

護衛の兵士が、厳つい男2人を連れて来た。




「貴方が、此処の管理の方ですね?」




「そうだが、あんたは?」




「私は、この街の領主です。


 この方達の食事は、どうなっていますか?」




男達は、怪訝な顔をする。




「お前が、領主だと!」




男の1人が護衛の兵士をみると、兵士は頷く。



男はイライザを舐め回す様に見ると、にやけた顔で答えた。




「そうか、あんたが新しい領主か、まぁ、これから宜しく頼むぜ」



そう言うと、男は手を差し出してきたが、イライザは、その手を放置し

先程の質問を繰り返した。




「それで、この方達の食事は、どうなっていますか?」




手を引っ込め、『チッ!』と舌打ちをすると

イライザを睨む。




「それは、こっちでちゃんとやっているから、

 気にすんな」




「それでは、分かりません。


 きちんと説明をして下さい」




しつこく食い下がるイライザに、男達はウンザリする。




「そんな事は、俺達がやっているから、

 姉ちゃんは屋敷に籠っていればいいんだよ!」




「そうだ、あんまりしつこいと泣かすぞ!」




男達の暴言は止まらない。


ついには、イライザを脅しに掛かる。




「いいか、痛い目に遭いたくなかったら口を出すな!


 それに、領主が変わったんなら、ここは俺達の物なんだよ。

 わかったら、さっさと出て行け!」



暴言を吐き続ける男達。



イライザが言い返さないことを、怯えていると勘違いし

再度、イライザを脅しにかかろうとした。



だが、そこに、街を見回っていたミーシャが姿を見せる。




「イライザ、お疲れ様」




「えっ!

 ミーシャ、1人なの?」




「そう、みんなでホームレスの子供探しているから」




イライザとミーシャが会話をしていると、男達が首を突っ込んで来る。




「おい、こいつエルフだぜ」




「やっぱり、エルフは良い女だな、


 おい、お前、俺達と付き合えよ」




ミーシャに絡んだ男達だが、全く相手にされていない。


ミーシャは、イライザに問う。



「イライザ、この人達、誰?」



イライザは、ため息を吐きながら答える。



「言う事を聞かない馬鹿2人よ」




その言葉に、男達は怒りを露にした。




「てめえ、調子乗るんじゃねえぞ!」




「ひん剥いて、攫うぞ!」




その言葉を聞いた途端、

ミーシャは剣を抜き、2人の顔を切り付けた。


男の顔には、横一線に傷がつき、血が流れて始める。


思わず『ヒィ!』っと声を上げて、尻餅をつく男達。



そんな2人に剣先を向けるミーシャ。



「次、喋ったら殺すよ」




ハイライトの無くなった目で男達に告げた後、ミーシャは振り返る。




「イライザ、時間の無駄だから我慢は必要ないよ。

 こんな奴ら、また悪い事をすると決まっているから」




そう言うと、ミーシャは、再び男達に剣を向けた。




「おまえら、働け」




「え?」




「鍬もって、畑を耕せ」




「でも・・・・」




「嫌なら、殺す」




ミーシャの容赦のない姿に、男達は逆らえず、

働いていた者達の鍬を奪って、耕し始める。



その間に、イライザは領民達を集めて

今後、食事を配給する事を伝えた。



また、この場所の管理を任されていた厳つい男達だが

ミーシャの説教暴力により、従順になったので

ここで農夫として雇う事を決めた。




畑の視察を終え、屋敷に戻ると

1人の女の子が近づいて来た。




「領主様、お客様が来てます」




――誰だろう・・・・・




そう思いながら、女の子にお礼を言うと、

客人がいるという応接室に向かった。




扉を叩き、中に入る。



すると、大声が響く。




「イライザさまぁぁぁぁ!!」




ボロボロになったメイド服を着た女性が、イライザに抱き着いた。




「【アネット】・・・・・なの?」




「はい、やっとお会いできました」




ボロボロのメイド服の女性は、イライザ専属メイドのアネットだった。




「ここで、何をしているの?」




「イライザ様を追いかけて来ました」




「シャトの街で、待っていればいいのに・・・・・」




「そんな訳には参りません。


 私は、イライザ様専属のメイドですから!」




「でも、よく此処まで来たわね」




「はい、とっても怖かったです。


 途中で、変な男達や魔獣に追いかけられるし、道に迷うしで散々でした。


 でも、そのおかげでイライザ様に会えました」




喜びを伝えるアネットだったが、

イライザが疲れているように感じると表情が変わる。




「ところで、イライザ様は、ここで何をしておられるのですか?」




「領主の真似事よ」




「え・・・・・・どういうことですか?」




イライザは、この街の事を説明すると

一応、納得したような態度をみせたのだが・・・




「そうだったのですね・・・・・それで、京太様は、どちらに?」




「王都よ」




「え?」




「本来の目的の王都に向かったわ」




アネットの目が座る。




「あの男・・・・・イライザ様をこんな目に・・・・・」




イライザは、慌ててアネットを落ち着かせると、

もう一度、説明をした。



アネットが納得するまで、小一時間かかり

イライザは、先程より、疲れた表情になった。



――なんか・・・・余計に疲れたわ・・・・・



この日、イライザは、いつもより早く就寝した。



翌日から、何処に行くにしても

イライザの隣には、当然のように従って歩く

アネットの姿が見受けられた。



その日から、農民や貴族が少しでも、イライザに対して

軽い冗談を交えたような態度を見せたり、

そのような言葉使いをすると、

背後に控えているアネットが睨みつけ、

その場の空気を凍らせるという困った状態が起きる事となり

イライザは、余計に、頭を悩ませる日々を送ることになった。



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