第70話王城制圧 2

京太とラゴは、二手に分かれた。


京太は国王の寝所を探し、ラゴは王妃や王子達を探すことにしたのだ。



ラゴが1人で探索していると、目の前の廊下を兵士達が塞ぐ。




「貴様は、何処から入ったのだ!


 此処より先は、通す訳には行かぬ」




槍先を向ける相手に、ラゴは優雅に挨拶をする。




「わらわはラゴ、主様の命により、王族を助けに来た者じゃ、


 そなた達は王を警護する者か、それとも間抜けな貴族の手下なのか?」




その独特の雰囲気に呑まれて、兵士達の動きが止まっている。


そんな状況の中、兵士達の背後から、声を張り上げ、叱咤する者がいた。




「貴様ら、何を怖気づいているのだ!

 此処から先は、いかなる理由があっても通してはならぬ」




声を張り上げながら、前に出て来た男は、ラゴに話し掛ける。




「私は、この国の騎士団長【ウォルフ カレル】だ。

 お前は何の為に、ここに来たのだ!?」



ラゴは、『はぁ~』と溜息を吐く。



「主様の命で、王族を助けに来た者だと伝えた筈だが・・・」




「王族を助けに来たと・・・・・

 貴様は、見た事が無いように思えるのだが、何処の国の者だ」




「わらわは、アトラ王国から来たのじゃ」




「アトラ王国だと・・・・・」




ウォルフ カレルは、国名を聞くと態度を軟化させる。




「フィオナ様、フィオナ王女は、ご無事なのか?」




「うむ、無事じゃ、今は王宮にて休んでおるぞ」




ウォルフ カレルは、剣を収め、謝罪を口にする。




「ご無礼の数々、どうか、お許し頂きたい。


 最近、貴族共が、良からぬ動きをしている様なので、

 警備を厳重にしていた所だったのだ」




ラゴは謝罪を受け入れた。




「構わぬ、わらわも敵でなければ、殺そうとは思わぬ」




「感謝致します」




「ところで、王妃達は無事なのか?」




「はい、只今、ご案内致します」




ラゴは、ウォルフ カレル達の後について歩く。



とある部屋の前で足を止めると、ウォルフ カレルは扉を叩いた。




暫くすると扉が開き、メイドが顔をだした。


ラゴが、アトラ王国からの客人だと伝えると、ラゴは中に通された。




部屋の中には、王妃の【エリノア アクセル】、第1王子【フリック アクセル】

第2王女【マリアベル アクセル】の3人と、メイドが2人。




メイドから話を聞いた王妃は、ソファーから立ち上がり

ラゴの元へと向かった。



正面に立ち、挨拶をする。




「私は、この国の王妃、エリノア アクセルと申します。


 このような場所で、何もご用意しておりません事を、お詫び致します」




「わらわはラゴ、主様の命により、そなた等を助けに来た者じゃ。


 なので、あまり気を使わなくて良いぞ」



ラゴの、王妃に対する物言いに、メイドが睨みつける。



「貴方、 王妃様に対して、そのような物言い失礼です。

 敬意を払いなさい!」




聞いていない様な素振りも見せるラゴに

詰め寄ろうとするメイドを、エリノア アクセルが止める。



「【キャシー】、良いのです」




「ですが・・・」



「良いのです」



メイドを制止したエリノア アクセルは、話を続けた。



「申し訳ございませんが、私は貴方の主を知りません。


 どの様なお方なのでしょうか?」




「わらわの主様は、イライザの夫じゃ」




「えっ!・・・・・イライザとは、

 アトラ王国のイライザ アトラ第1王女ですか?」




「うむ、そのイライザで間違いは無いぞ」




エリノア アクセルをはじめ、

王子フリック アクセル、第2王女マリアベル アクセルも驚いた。



フリック アクセルとマリアベル アクセルは椅子から立ち上がると、

ラゴに詰め寄る。




「あ、あの・・・イライザ様は、いつ、ご結婚なされたのですか?」




「少し前じゃ、だが式は挙げておらんぞ」




「陛下は、お許しになられたのですか?」




「なんじゃ、質問ばかり・・・・・まぁ良い、国王は許したぞ。


 そもそも、わらわ達が、ここに来たのも国王の頼みだからのぅ」




その言葉を聞き、エリノア アクセルは驚きと感謝の念を覚えた。




「この様な状態になっても私達を心配して下さるとは・・・」




子供達と喜ぶエリノア アクセルに、ラゴは告げた。




「それに、もうすぐこの城は、主様が取り戻してくれるぞ」




エリノア アクセルは、先程以上に驚きながらも、ラゴに問う。




「どういう事でしょうか!?」




「わらわの主様と仲間が、この城の中で暴れておるのじゃ。


 貴族共など、相手になる訳なかろう。


 それよりも、国王は何処におるのじゃ?」




「私が、ご案内致します」



名乗り出たのは、もう1人のメイドの【カルラ】。




「そうね。

 カルラ、お願いするわ」




「畏まりました」




ラゴは、カルラの後に続いて部屋を出た。


扉から出たところに、

騎士団長ウォルフ カレルが立っていた。




どうやら、部屋の警備をしているらしい。



「ここは、お主に任せたぞ」



ラゴはそう伝えて、メイドの後を追った。






その頃、京太は、城の中を彷徨っていた。


京太の前に現れる兵士は、剣や槍を使う者より、

魔法を使う者が多く、遠距離攻撃が殆どだった。



現に、今も京太の前には、魔法を使う多くの者たちが

立ち塞がっている。



強力な魔法を使えば、簡単に倒せるのだが、

同時に城も壊す事になるので

躊躇していた。




――城を壊す訳には、いかないしな・・・・・




そんな京太の気持ちを打ち消すかのように、

痺れを切らした魔法士達が

集団魔法の準備を始めた。


呼吸を合わせ、一斉に呪文を唱える。



「我らの願いに答えし、風の聖霊よ、今ここに集結し、

 全てを薙ぎ払え!


 『タイフーン』」




魔法士が放った『タイフーン』は、周りの全てを破壊しながら京太に迫る。


逃げ場の無い京太に『勝った』と思い、魔法士達は笑みを浮かべた。




だが、京太に焦りはない。

スッと、右手を前に突き出す。




――【大気の神シュー】の力を・・・・・




京太は、抑揚のない声で呟く。




「消えろ・・・」




一瞬にして『タイフーン』は、跡形も無く消えた。




「えっ!?」



「次は、僕の番だね」



驚いている魔法士達に対して、

同じ風の魔法を使う。




『ウインド カッター』



タイフーン以上の威力で迫るウインドカッターは

先頭に立ち、剣や槍を持っていた兵士達に襲い掛かり

次々に切り刻む。


威力は、衰えを見せず、

後方から攻撃を仕掛けていた魔法士達にも迫る。


慌てて、魔法を詠唱し、防御を試みた。



『アイス ウォール』




だが、京太の放った『ウインド カッター』は、

アイス ウォールで造った氷の壁を切り刻み、

完全に破壊すると、魔法士達に襲い掛かった。




「ぎゃぁぁぁぁ!」




魔法士達は、腕や足が切り落とされ、叫び声を上げるが

助ける者など、この場には存在しない。




京太は、ゆっくりと歩を進める。



なんとか命を繋いだ者は、先程の集団魔法が消された事や、

氷の壁を壊された事に、恐怖が抑えきれず

真横を通り過ぎる京太を、見送る事しか出来なかった。



一部、城が壊れたことで、考慮することを止めた京太の攻撃は、

凄まじい威力を放ち、道を塞ごうとする兵士達を次々に屠る。




京太が魔法を放つ度に、城が揺れると、

兵士達は恐れ慄いた。



「一体、何が起こっているんだ!?」



「段々、近づいてくるぞ!!」



慄いている兵士達の前に、京太が姿を現す。



「や、やつだ!!

 奴が来たぞ!!」


攻撃もせず、逃げ惑う兵士達。



その背後から、京太は、光の矢を放つ。



無数の光の矢が、兵士達に襲い掛かり

バタバタと倒れてゆく。




次々に倒されていく光景に、

悲鳴を上げながら逃げ惑う魔法士達だったが、

1人の女性の出現に、落ち着きを取り戻す。




「【マリオン】様」




「お前達は逃げろ、いても的にしかならん。


 ここは、私が相手をする」




マリオンは、京太に杖を向ける。




「随分、部下が世話になったようだな、この先は私が相手をしよう」




マリオンは、魔法を放った。




『ファイヤー ボール』




放たれた『ファイヤー ボール』は、1つではなく、

数えきれないほどの数だった。




――凄いな・・・・・




京太は感心しながらも、自分の周囲に結界を張り巡らせた。


轟音を響かせた『ファイヤー ボール』は、次々に京太に直撃する。




煙が立ち込める中、マリオンは杖を下げた。




「ふんっ、所詮小物か・・・・・」




そう言い放つと、背中を向けて、歩き出した。



『京太は、死んだ。』



そう思ったマリオンだったが

背後から聞こえて足音に、動きが止まった。




「なにっ!」




マリオンが振り向くと、無傷の京太が歩いていた。




「貴様! 何をした!」




マリオンは、もう一度、『ファイヤー ボール』を放つ。




京太は立ち止まり、結界を張る。


今回も、殆んどの『ファイヤー ボール』の直撃を受けた筈だったが、

京太は無傷だ。




「何故だ・・・・・」




愕然とするマリオンだったが、京太は何も答えず魔法を放つ。




『ダーク プレス』




上から襲い掛かる重力に、マリオンは耐え切れず、

杖を手放すと同時に、床に体が縛りつけられた。



マリオンの体が、『ミシミシ』と不気味な音を立て始めると、

目や鼻から血を流し始める。




「き、貴様、なにを・・・・・」




『グシャ』



鈍い音が響き、マリオンは潰れた。



京太が、再び歩みを進めていると、

目の前に、メイドを伴ったラゴが現れる。




「主様!」




ラゴは、駆け足で近寄ると、そのまま抱き着いた。




「わらわの主様」




京太の胸に顔を押し当て、満足そうにしているラゴに、

京太は話し掛ける。




「さっき、兵隊が、そっちに行かなかった?」




「ああ、それなら、わらわが、倒しておいたぞ」




「そうか、ありがとう」




「良いのじゃ、それより主様、

 今、王の寝所に向かっておるのだが、一緒に行かぬか?」




「そうだね、行こうか」




ラゴは、体勢を変えると、京太の腕に手を回し歩き始める。




「メイドよ、案内を頼むぞ」




メイドは、黙って一礼をすると、近くの部屋の扉を開ける。


部屋の中には、隠し扉があり、

そこの扉を開けると、上に続く階段が現れた。




「この先に、王の寝所が御座います」




メイドの案内に従い、階段を上ると

豪華な扉が見えた。



「こちらで御座います」



メイドは扉を叩き、部屋の中に入ると

京太達も後を追い、部屋に入る。




「陛下、アトラ王国からのお客様が、お見えです」




メイドの言葉に反応して、

アクセル国王は、ゆっくりと目を開けた。




「よくぞ来られた。


 しかし、儂はこんな状態で、何も出来ぬ」




「構いません、僕は京太と言います。


 アトラ国王からの手紙をお持ちしました」




京太は、メイドに手紙を渡す。


メイドから手紙を受け取ったアクセル王は、手紙を読み始めた。


手紙を途中まで読むと、

アクセル王は手紙を握りしめながら、京太を見る。




「この手紙には、其方なら病が治せるかもと書いてあるが、それは誠なのか?」




――アトラ王め・・・何を書いているんだ!・・・・・




京太は、ため息を吐く。




「治せない事もあります。


 ただ、陛下の病は治せますよ」




その言葉に、アクセル王は体を起こそうとした。




「そのままで構いません。


 それに陛下は病気ではなく、毒を飲まされていただけですから」




アクセル王は、目を見開く。




「それは、どういう事なのだ!」




京太は、シラスの街での事を話すと

話を聞き終えたアクセル王は、ショックを受けた。




「信じたくなかったが、やはりあの者の仕業だったのか・・・・・」




落ち込むアクセル王に、もう1つの事実を告げた。




「宰相も敵ですよ」




アクセル王は、肩を落とす。




「そうだったのか・・・・」




「陛下、それでどうされますか?


 今、王都は、酷い有様ですよ」




「わかった、儂を治してくれぬか、礼は、きちんと支払おう」




「わかりました」




京太は、アクセル王に手を伸ばした。




――【知恵、医術、魔法の神イムホテプ】、力を・・・・・




京太の周りに、可視できる程のオーラが現れる。


そのオーラが、伸ばした手から、アクセル王に流れ、体を包み込んだ。




『リカバリー』




アクセル王の全身から、光が放たれた。



その光が収まると、王の体から毒が消える。




「もう、いいですよ」




アクセル王は、目を開くと、身体を起こす。




「軽い、それに・・・・・」




「毒は完全に抜けました。

 それから悪かった所も治しておきましたから」




京太の言葉を聞き、

国王は、久し振りにベッドから出て、体を動かしてみる。




「これは、凄い・・・・・以前よりも調子が良いな」




アクセル王は、メイドに服を準備させると、

寝所から出て、家族の元へと向かった。




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