第69話王城制圧

京太は、直ぐに行動にでる。


まず最初に、自分たちの周りに結界を張った。


──これで奴らに刺される事は無いな。



一応確認の為、皆に声をかける京太。



「皆、刺されてない?」




「大丈夫です」




「わらわには、効かぬわ」




「主、私にも意味がありません」




確かに、エクスとラゴは剣なので、効く筈がない。



だが、他の者達は、・・・・・



クオン以外は返事が無かったので、心配そうに振り返ると・・・




ハクは、『ブリザード』の魔法で、殺人バチ達を凍らせる事に、忙しそうだった。


フーカは、その横で、ハクを応援しながら笑っていた。




――君達・・・・・・




京太は、何とも言えない感情を押し殺しつつ、自身も魔法を放つ。




『ダークプレス』




一瞬にして、蜂が押し潰される。


結界に守られながら、攻撃を仕掛ける事で、被害を出すことなく、

殺人バチを殲滅する事に成功した。




「ここを脱出したら、2人1組で王城を制圧しよう」




その言葉に、皆は騒ぎ出す。




「いつものチームだよね」




「そうだよ、それで、各所に散って、貴族がいたら捕まえて欲しい。


 生きていれば問題ないから、怪我をしないようにね」




「はい」




「はーい」




「それと、王子や姫、王妃もいるから、

 戦う時は、『国王を助けに来た』って言ってね。


 それでも、向かって来る者には、遠慮は要らない」




皆は頷く。




その後、京太は国王の寝所を探す事を伝え、

他の仲間達に王城制圧を任せる事にした。




「さぁ、行こうか」




京太は、先陣を切り歩き出す。


だが、その先は壁。


京太は、魔法のかかっている扉を無視し、廊下側の壁を殴った。


轟音と共に、壁に大きな穴が開いた。


京太達は、そこから廊下へと出る。




「京太、行ってきます!」




「お兄ちゃん、後でね!」




散歩でも行くような雰囲気で、それぞれの方向に向かって走り出した。


京太の姿が見えなくなるまで、笑顔を見せていた仲間達だったが

京太の姿が、完全に見えなくなると足を止め、怒りを露にする。




――お兄ちゃんを罠に嵌めた・・・・・・




――主が許しても、私は、許さない・・・・・




――全員、殺す!・・・・・




――京太様を罠に嵌めた報いを・・・・・・




それぞれに、怒りを抑える事無く、城内を闊歩する。


兵士達は、その姿に怯えながらも必死に声を上げた。




「敵襲!敵襲!」




怒りのオーラを隠すことなく進み出るエクスとクオンは、

襲って来る兵士達を一太刀で倒し、歩みを止めない。




「主の命により、国王を救出に来た。

 死にたくなければ道を開けよ!」



エクスの言葉を聞き、兵士達に動揺が走る。



完全に動きが止まっている兵士達だが、

その中から、1人の兵士が声を掛けて来た。




「あ、あの・・・陛下の救出ですか?」




クオンが答える。




「うん、お兄ちゃんが、みんな貴族に騙されているから、

 武器を持たない人や、王様の味方は襲うなって」




それを聞いた兵士達は、慌てて武器を捨てる。




「あれっ? 戦わないの?」




必死に頷く兵士達。




「じゃぁ、このお城の中にいる貴族の所に案内してよ」




クオンの言葉に、兵士達は、お互いの顔を見合わせた。




――どうしよう・・・・・




兵士達が迷っていると、クオンが声をかけた。




「無理なら、いいよ、 勝手に探すから。

でも、それだと貴族を庇うことになるから敵だよね」



言葉と同時に、少女とは思えないような

冷たい目で睨むクオンとエクスに兵士達の態度が一変する。




「どうぞ、こちらです!」




兵士達は、全員で2人の警護をするかのように周りを囲み

貴族の部屋へと案内を始めた。



途中で、他の兵士達に遭遇すると、

クオン達より先に兵士が話をつける。



その度に、兵士の数が、どんどん増えていき

今では、背の低いクオンとエクスは、兵士たちの中に埋もれて

姿が見えない状態になっていた。



そんな。状態の中、兵士達の足が止まった。




「こちらです」




兵士達が道を作り、扉の前にクオン達を案内をする。




「ありがとう、ここで待っていて。


 それから、誰も逃がさないように、扉を閉めておいてね」




クオンは、兵士に伝えると同時に扉を蹴り飛ばす。


部屋の中へと吹き飛んだ扉。



兵士達は驚きが隠せない。




──扉が、無いんですけど!!!




目を見開いている兵士達を無視して

クオンとエクスは部屋へと足を踏み入れる。




「あっ、さっきのお爺ちゃんだ!」




クオンが見つけたのは、宰相のモーゼス サリヴァンだった。




「お姉ちゃん、もう1人います」




エクスが指を差した男、【リオン ロヴィーノ】伯爵は、

2人の侵入者を睨んだ後、部屋の外に見えた兵士達に命令を下す。




「お前達は何をしている!

 早く、この者達を捕らえよ!」




リオン ロヴィーノは必死に叫ぶが、

兵士達は誰も動かない。




「貴様ら・・・・何故、命令に従わないのだ・・・」




唇を噛み締めながら兵士達を睨むリオン ロヴィーノに、クオンが告げる。




「無理だよ、この人達は王様の味方だから」




「貴様は何を言っているんだ、

 この国が悪いのは、全部、陛下の仕業ではないか!」




必死に取り繕おうとしているリオン ロヴィーノに、エクスが言い放つ。




「それは、無理があります。


 そこの男は、私達がアトラ王国から来たと告げると、

 部屋に押し込めて、殺そうとしましたから。


 それに、フィオナ王女からも聞いています」




エクスから、フィオナ王女の名を聞き、リオン ロヴィーノは剣を構えた。




「そう言う事か・・・貴様らは、フィオナ王女に頼まれて来たのか。


 やはり、あの娘は殺しておくべきだった。


 【ヴァン】の嫁になどと考えるから、こんな事に・・・・・」




リオン ロヴィーノが、クオンに襲い掛かるが

クオンは、睨みつけたまま動かない。


そして、振り下ろしてきた剣を弾き飛ばすと、

リオン ロヴィーノの足に剣を突き刺した。


「ウガァァァ!!」



「お兄ちゃんが、殺すなって言うから殺さないけど、

 大人しくしないと殺すよ」




冷たい目で睨み付けるクオン。


痛みに耐えているリオン ロヴィーノは、頷くしかできなかった。



その間にエクスは、モーゼス サリヴァンを切り刻み、血だらけにしていた。




「エクス!死んじゃうよ!」




「大丈夫です、全部かすり傷です」




それを聞いたクオンは後悔する。




「私も、そうすれば良かったんだ・・・」




その言葉を聞いたリオン ロヴィーノは、背筋が凍る思いをしている。


クオン達は、生きているが動けないモーゼス サリヴァンと

リオン ロヴィーノを紐で縛り上げると、

一応、仲間?となった兵士達に担がせて、城内を再び回り始めた。




その頃、フーカとハクも、襲って来る兵士達を倒しながら城内を探索していた。



フーカが『王様を助けに来た』と叫んでも、兵士達は襲って来る。




ここに居る兵士達は、城の警備兵では無く、

用心深いロイス アヴァロンの用意した私兵だったのだ。


その為、『王様を助けに来た』という言葉は、全くの逆効果でしかなく、

フーカ達を敵と認識して攻撃を仕掛けていたのだ。




次々と現れ、襲い掛かって来る兵士に、

嫌気が差したフーカはハクに命令をする。




「ハク、もう面倒だから凍らせて!」




「わかりました」




ハクは、迷いなく『ブリザード』を放った。


逃げ場の無かった兵士達は、次々に凍り付き、命を落とす。


同時に、扉も凍りついたお蔭で、部屋から出て来る事もなくなり

兵士が湧いてくることもなくなった。




2人は、氷の彫像と化した兵士を、砕きながら進み、

再び探索を開始する。


暫く進むと、少し先の扉が開き

武装した男が姿を現した。




「なんだ、侵入者か・・・・

 しかも女が2人・・・・・」




男は、ゆっくりと剣を抜き、

笑みを浮かべて、2人に舐めた態度で話しかける。




「俺と出会うとは、運が無かったな。


 私は、この国の闇ギル・・・・・・・」




話の途中で、フーカは、光の矢を眉間に打ち込んで倒した。




「フーカ・・・・・」




「知らない人だし、隙だらけだったからつい・・・

 それに、待つ必要なんかないもん!」




「それは、そうですが・・・・・」




「貴族じゃ無いから、問題無いわよ」




フーカはそう言い切ると、ズンズンと奥に進み、一番奥の扉を開けた。


扉の音に、3人の男が振り返る。


男達は、酒を酌み交わし、メイドを半裸にして横に座らせていた。




「ゲス野郎・・・・・・」




フーカとハクが睨み付ける。




男が、独り言のように呟く。




「新しい女か?


 それとも、襲撃者か?」




フーカは、その言葉が耳に届いたが、返答せずに問う。




「お前達、貴族だな」



男は立ち上がる。




「いかにも我々は貴族、選ばれし人間だ。


 その中でも、私は伯爵の地位を授かりし者。

 ロイス アヴァロン伯爵だ!」




酒に酔っているのか、自分に酔っているのか分からないが、

ロイス アヴァロンは、身振り手振りを交えながら自己紹介をした。




――気持ち悪い・・・・・




自己紹介を終えたロイス アヴァロンは、

酒の入ったグラスを持ち上げると、フーカ達の前に差し出した。




「お前達、私の物になれ。

 それなりの強さもあるようだし、なにより良い女ではないか。


 殺すのは惜しい。


 私の物になれば助けてやろう。


 さぁ、このグラスを受け取るのだ!」




拒まれると思っていないのか、2人の貴族の見守る前で、

仰々しく語ったロイス アヴァロンの両膝に、光の矢が刺さる。




「えっ・・・・・・うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」




一瞬の静寂の後、痛みに襲われ、床に倒れるロイス アヴァロン。



睨みつけるフーカ。




「気持ち悪いし、ゲスな男は嫌いです!」




その光景を見て、一瞬にして酔いが醒めた2人の貴族は慌て始めた。




「き、貴様は、何をしているのか、わ、分かっているのか!?」




「私は、【アレッサンドロ オズ】子爵だぞ、

 私を傷つけると、タダでは済まんぞ!」




2人は、それぞれに喚いていたが、

フーカは再び2本の矢を放つ。



その矢は、2人の腕を貫いた。




「ぎゃぁぁぁ!・・・腕がぁぁぁぁぁ!」




「痛い、助けて、助けて・・・・」




暴れる3人にハクが近づく。


そして、3人の足を凍らせて、身動きを取れなくした。




「フーカ、この人達、どうやって運びましょうか?」




「んーー。


 そうだ! 生き残っているヤツを探して運ばせようよ!」




フーカはそう言うと、来た道を戻り、

凍っていた扉を砕くと、中に残っていた者達に脅しをかけた。


歯向かった者達を瞬殺して、恐怖を植え付けると、

数人の兵士が武器を手放し、降参の意を示した。




その態度を見て、フーカは『ニヤリ』と笑う。




その笑顔が、より恐怖を誘い、

生き残った者達は、大人しく従うことを誓った。



フーカが男達を連れ、貴族を凍らせた部屋に戻ると、

指を差し、命令をする。




「こいつ等、運んで!」




「は、はい!」




男達は、急いでシーツで担架を作ると、

貴族達を乗せ、運ぶ準備を整えた。




「じゃぁ、行くよ!」



「はっ、はいっ!」




フーカの合図に従い、

男達は、貴族を乗せた担架を担ぎ、運び始めた。


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