第68話罠

2日後、京太達は、旅立った。



この街に残ったイライザ達には

貴族達から没収した金品を渡しているので

何かをやろうとしても、資金には困らないと思う。




シラスの街を旅立ち、王都に向かっているのは

予定通り、クオン、エクス、ラゴ、ハク、フーカの5人。



このメンバーなら、いつもの様に魔獣や獣を狩りながら

王都を目指すことになる事はわかっている。



なので、その食材を、途中の村々で配りながら

情報を得ることにした。




小さな町や村に立ち寄って分かったことは

貴族の殆どが反王族派だということ。


だが、それは寄親となる貴族の命令だったりで

寄子となる貴族が、本心から従っているのかは

分からないそうだ。



そんな情報を集め乍ら進むうちに、

王都までの間にある最後の街に到着する。




「今日は、ここの街で休もう」




宿を決めた時には、既に日が暮れていた為

早めの夕食を摂り、それぞれの部屋で休む。



翌日、市場に出向いてみると、

今までの街とは違い、多くの人々で賑わっており、物価も安い。



それに、人々の顔色も良く、不安の色も無いように思えた。




──ここは、平和だな・・・・・




京太は、そんな思いを残し、この街から旅立つ。


それから2週間後、京太達は王都に辿り着いたのだが

2つある門の内、1つには行列が出来ていた。



行列を見ているとわかったことがある。


それは、並んでいるのが平民しかいないこと。




京太もシラスの街では、領主を名乗っているが

それは、貴族というわけでも、国から認められている訳ではないので

平民の列に並ばなければならないのだ。



その時、偶然、京太達の横を通り過ぎた豪華な馬車は、

誰も並んでいない門に向かって行き

何事も無く王都の中へと入った。



「向こうは、貴族とかの専用の門みたいだね」




京太のその言葉に、頬を膨らませたフーカが呟く。




「そうみたいだけど、空いているなら使わせてくれてもいいのに・・・」



そんな会話をしながら、京太達も列に並ぶ。


長い行列が出来ているが、大人しく順番が来るまで待つしかない。



そう思っていたのだが、

夕方になっても、京太達の順番は回って来なかった。



日が落ち、辺りが暗くなると、入り口の警備をしていた兵士が大声で叫んだ。




「本日は、此処まで!」




兵士はそう告げると、門を閉じた。




「え、ええっ!!」




京太達は驚いていたが、周りの人々は平然としていた。



諦めたように、荷物を枕にして横になる人や、

食事を始める者達が現れ始めた。




――これが当たり前のことなんだ・・・・・




京太が感心していると、

クオン達もその場で荷物を降ろし、夕食の準備を始めた。




「京太、お肉出して!」




「ハイハイ」




フーカが肉を切り分け始めると

京太が火を起こした。



肉を串に刺し、準備が出来た物から

次々に焼き始める。



肉が焼けてくると、周囲にその匂いが漂う。




列に並んでいた人達も、

京太達の方が気になっている様子。




「なんか、視線が集まってない?」




「うん・・・・」



視線が集まる中、出来上がった肉串を食べ始めると

1人の男が声をかけてきた。




「お食事中、申し訳ございません。


 私は、チェスター商会に勤めております【デール】と申します。


 宜しければ、代金をお支払い致しますので、

 そちらの料理を分けて頂けませんでしょうか?」



どうやら、主人が、デールに肉串の買い付けを頼んだようだ。


食材に余裕のある京太は、笑顔で答える。



「まだまだ食材はあるので、構いませんよ」




「有難う御座います。

 出来れば3人分欲しいのですが?」




「うん、大丈夫だよ」




京太は、焼けた肉串6本を渡し、代金を受け取る。



代金は、気持ちだけ頂くと言ったのだが、

商人らしく、適正価格を払ってくれた。



デールは、感謝を告げると、自分達の場所に戻って行った。




その様子を見ていた人達も、京太達の元に集まり

次々に売って欲しいと言い出した為、

アイテムボックスに収納していた肉を取り出して

次々と焼き始めた。



人々が集まる中、商人が提示してくれた金額で肉串を売っていると

貧しそうな親子が近づいて来る。




「すいません、お金は、通行税の分しか持っていないので、

これと交換して頂けませんか?」




母親が差し出したのは、女性物の服と薬草。



見るからに裕福とは思えない格好をしており

子供も連れている。



それを見た京太は首を横に振った。




「それは受け取れません。


 その代わり、手伝って貰えますか?」



「えっ!?」



「手伝っていただけるなら、手間賃と食事を支給します。

 ダメですか?」



「いえ、喜んで手伝わせていただきます!」




「なら、子供は、わらわが見てやろう」




ラゴは子供を預かると、馬車の荷台に連れて行く。



子供を見送った母親は、慣れた手つきで肉を切り始めた。




「お母さん、上手!」




クオンが褒める。




「主人と2人で、食堂をやっていましたから・・・・・」




「辞めたの?」




「はい、続けたかったのですが、

 夫が死んでから、色々ありまして・・・・・」




暗い雰囲気になりかけたが、

フーカが話題を変えた。




「さっき薬草持っていたけど、それって依頼?」




「はい。 

 近くの森で薬草を取って、商人ギルドに卸しています。


 でも、最近は街での仕事が無いので、他の方々も薬草採りを始めたので、

 近場の薬草の採れそうな場所には、もう、生えていないのです」




「それで、この時間まで」



「はい」




一段落し、京太達も、やっと食事を摂る事になった。


その時に、親子の名前を聞き

母親の名は【エレン】、娘は【カレン】とわかった。



食事を終えた2人には、

女性達と一緒に馬車で寝て貰い、

京太は火の近くで結界を張って眠る。




翌朝、門が開くと、並んでいた人達が、続々と王都の街へと入って行く。


京太達も、順番が回ってきたので、人数分の通行税を払い、門を潜る。


門を潜ると別世界のような奇麗な街並みだが、

人の姿は、殆どない。




「なんか・・・寂しい感じだね」




「1つ前の街の方が、賑やかだったのぅ」




フーカとラゴの会話を聞いていたエレンが話す。




「以前は、こんな街ではありませんでした。


 王都ですので、人通りも、活気もあったのですが

 ある時、王の命令で、商人達を取り締まる事になり

 次々と店が潰されました。


 それに、残った商会も多額の税をかけられて、

 商品の値上げに踏み切ったのです。


 その為、急激に物価が上がり、

 物があっても私共平民には買えなくなりました。



 他にも、国王は出来上がった作物にも多額の税をかけて、

 私達が、いくら働いても、生活が楽になる事は無くなりました」




此処までの話を聞き、何がしたいのだろうと思うと同時に

最近聞いたことがあるような気がした。



──まるで、シャトの街?・・・・・

  国王は、何がしたいのだろう・・・・・




値段を高くすれば、買い手は少なくなる。


それに、出来上がった物にも税をかければ、

作れば作るだけ税がかかる事になるので、多くは作らなくなる。


だが、税は圧し掛かって来る。


それを繰り返すと、生産者や収入の少ない者達は、

貧困に陥る事は、誰でも理解出来る筈。




――でも・・・・・




京太は、よくよく考えて見ると、

これを国の政策とする事で、得をする者達がいる。



反王族派の連中だ。



この様な、愚の骨頂とも言える政策の後なら、

どんな政策でも良く思えるだろうし、

王への反感を集めるには、もってこいだ。



一応、確認の為、エレンに聞く。



「その政策は、本当に国王の指示なの?」




京太の質問に、エレンは首を振る。




「分かりません、調べる手段がありませんから・・・」




――それなら・・・・・




京太は、前もって聞いていた情報通りだった事に感謝しつつ、行動を起こす。



エレン親子と別れた後、京太達は王城へと馬車で出向く。




城に辿り着くと、門兵に止められた。




「貴様達、ここは王城だ、用の無い者の来るところでは無い。


 即刻立ち去れよ」




京太は馬車から降りると、門兵に近づいた。




「私達はアトラ王国から、手紙を持って来ました。


 ですので、取り次いで頂けませんか?」




その言葉を聞き、門兵は慌てて態度を改めた。




「申し訳ございません。

 暫くお待ちください」




京太達が待っていると、

門兵が初老の男性を連れて戻って来た。




――王が、こんな所まで来ることは・・ないよな・・・・・それに・・・




京太の前に来ると、初老の男は、【モーゼス サリヴァン】と名乗った。




「この国の宰相をしております。


 申し訳ないが、その手紙とやらを見せて頂けないだろうか?」




京太は、アイテムボックスの事が分からないように、懐から手紙を取り出す。


手紙を受け取ったモーゼス サリヴァンは、

王家の封蝋が押してある事を確認した。




「確かに、アトラ王国の封蝋です。


 遠い所から、ようこそお越しくださいました。


 どうぞ、こちらに・・・」




モーゼス サリヴァンの案内に従い王城に入る。


城の中は外と違い、豪華賢覧を絵に描いたような美しさをしていた。




――これ、幾らするんだろう・・・・・




周囲の様子を見ながら進んで行くと、

とある扉の前で、モーゼスサリヴァンが立ち止まった。


扉を開けると、中は執務室のように見える。


モーゼスサリヴァンは京太達を案内しながら進み、

奥にあった扉を開けた。



「申し訳ないが、こちらでお待ちください」




扉を開けた先にあったのは、応接室。




京太達は、モーゼス サリヴァンに従い、ソファーに腰を掛けた。


京太達が、ソファーに座った事を確認すると、

モーゼス サリヴァンは黙って部屋を出る。




「え!?」




京太が驚いていると、1つしかない扉が閉められた。


ドアノブを握り、動かしてみるが、ピクリともしない。


それもその筈、魔法で封鎖されているのだ。


部屋が完全な密室になると、天井の1部が開き、

そこから殺人バチとして有名な【キラービー】と

一刺しで人を殺せる毒を持つ【デッドビー】の集団が現れた。




――ああ、やっぱりフィオナ王女のいう事は、正しかったんだ・・・・・




京太達は、完全に罠に嵌められた。




実は、廊下に飾ってあった調度品の数々も、

国王が倒れた後、悪政の全てを国王の仕業に仕立てる為に

貴族達が並べた物。



勿論、王族の反対はあったが、

反王族派の宰相が、王族からの信用が厚い事を上手く利用し、

このような状況にまで、持ち込んだのだ。



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