第67話王都への途中 シラスの街 5

先に街に出たクオンとエクスは、トムの宿に向かって歩いていた。


宿の近くまで行くと、行列が見える。




「お姉ちゃん、あれ」




「うん、あのおじさん、1人で頑張っていたんだね」




2人は、顔を見合わせると、急いで宿に駆け込む。




「おじさん!」




その声にトムが振り返る。




「良かった、ご無事だったのですね」




安堵の表情を浮かべるトムに、クオンが告げる。




「お兄ちゃんが領主になったから、大丈夫だよ」




クオンが笑顔で伝えると、トムは驚いていた。




「えっ、今、なんと?」




「お兄ちゃんが、新しい領主になったの!」




トムは、聞き間違いで無い事が分かると、

目に涙を浮かべて、膝から崩れ落ちる。




「良かった、良かった・・・・・

 神は、我々を見捨てておられなかった・・・」




テオドリック シラスの悪政が終った事に

心から安堵した為に出た言葉だった。



その様子を見ていたエクスが真顔になる。



「当然です、主は、見捨てておりません」



「えっ!?」 



その発言に、クオンは慌ててエクスの口を塞ぎ、ごまかした。




「お兄ちゃんは、私達にとって、神様みたいな人なの」




トムは微笑んだ。




「確かに、こんな利益にならない事をするなんて、凄いお方です」




エクスの発言が、流された事に『ホッ』としたクオンは、トムに尋ねる。




「ところで、表に行列が出来ているのは、なんで?」




「はい、皆さんが警備兵に連れて行かれた後、

 一度、店を閉めたので、

その・・・材料が余っておりましたので・・・・・」


 


「でも、1人だと無理じゃない?」




「はい、ですので仕込んだ物が終われば、その日は終りにしていました。


 それに・・・」




トムは、調理場に目を向けた。


そこには、男の子と女の子が仕事に励んでいた。




「あの子達が、手伝ってくれていますから

 ある程度の準備が出来ましたので」




「でも、お金は?」




「勿論、払えない事を伝えました。


 ですが、それでも使って欲しいと言われまして・・・」




「あれ?

 売ったお金はあるよね」




「はい、こちらにあります」




トムは、売り上げには手を付けず、残していたのだ。




「おじさん、それ、使っていいんだよ」




「えっ!」




「お兄ちゃんは、多分、そのお金をおじさんにあげるつもりだと思うから」




トムは目を見開き、驚く。



その顔を見ていた、エクス答える。




「売ったら赤字なんて商売、誰もしません。


 それに、タダだと施しを受けているように感じる人もいますから、

 建前でお金を取っていただけです」




「そうだったのですか・・・・・

 本当に神の様な方です」




その言葉を聞き、

クオンは、慌ててエクスの後ろに回り込み、口を塞いだ。




「フゴフゴ・・・・」




一生懸命話そうとするエクスを押さえ付けまま

クオンが話す。




「お兄ちゃんは、優しいからね」




エクスを押さえ付け、笑顔で話すクオンに、

トムは笑みを浮かべながら返事をした。




「そうですね・・・・・」




開店時間が迫っていた為、

クオンとエクスの2人も、店を手伝う事にした。








一方、2人に、少し遅れて街に出かけたハクとフーカは、

領主が変わったにも関わらず、

酒を飲み、食堂で好き勝手に暴れている警備兵を見つけていた。




「領主様が変わろうとも、お前達は俺達に逆らう事は出来ないんだ!


 まぁ、これまで以上に俺達に尽くすんだな」




警備兵は、そう言って豪快に笑う。


仲間の警備兵も酒を煽り、同調して笑っていた。




警備兵の間には、女性が俯いて座っている。



「おい、酌をしろ。

 俺たちを楽しませないと、どうなるかわかっているだろ?」



下卑た笑みを浮かべたまま、

嫌がる女性の服の中に手を入れる警備兵。



フーカの表情が歪む。



「こいつ等、最低!」




「フーカ様、どうしますか?」




フーカは、ハクを睨む。




「様は付けないでって言ったでしょ!


 京太より、上みたいで嫌なの!!」




「あ、ハイ・・・・」




フーカに怒られたハクだったが、気を取り直して、もう一度聞く。




「それで、どうしますか?」




「そんなの決まっているよ」




そう言うと、フーカは店の中に入っていく。



そして、警備兵達が騒ぐテーブルの前で止まった。




「あんた達、いい加減にしなさいよ!


 警備兵って領民を守るのが仕事でしょ!」




酔っていた男は、フーカ睨みつけ言い返す。




「だから、こうやって守っているんだよっ!」




警備兵は女性の服の中に、両手を突っ込んだ。




「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」




その叫び声に、フーカの怒りは限界に達し、

男の頭を蹴り飛ばした。


それでも、力の加減は出来ていたので、首が飛ぶ事は無かったが、

警備兵は鈍い音をさせて回転しながら、床に叩きつけられた。


口を半開きにさせ、涎を垂らしたまま、白目をむいている状態の仲間の姿に

酒を飲んでいた筈の警備兵達から、一瞬にして酒が抜ける。




「き、貴様は・・・・・・」




「アンタ達も同じ目に遭いたいの?」




フーカに睨まれた男達は、蛇に睨まれたカエルの様に、大人しくなった。



フーカは、8人の警備兵を立たせ、一列に並ばせる。




「アンタ達の懐にあるお金と、お金になる物を全部そのテーブルの上に出しなさい。


 少しでも残っていたら、アイツと同じ目に遭わせるわよ」




警備兵達は、慌てて懐から財布を取り出す。


倒れている警備兵の懐からも取り出させて、テーブルの上に置かせる。




「これで、全部?」




警備兵は頷く。




「ハク、調べて」




「えーー!!


 嫌よ、こんな男、触りたくないわよ!」




「私も嫌なの!」




2人は、同じやり取りを繰り返した後、

店の店主を呼び、警備兵達を探らせた。




「何もありませんでした」




店主の言葉を聞き、フーカは頷き、再び視線を警備兵達に戻した。




「いい?

 アンタ達、次も同じ事したら、殺すわよ」




警備兵達は、壊れた振り子のように何度も頷いた。




「じゃぁ、謝ってから行きなさい」




「はい!」




警備兵達は、店にいた者達に謝罪をすると、

急いで出て行った。


フーカは、店主に今後この様な事があれば、

領主の屋敷を訪ねるように伝えた後、

巻き上げた金品を、被害に遭った女性と店に渡して出て行った。




「ねぇハク、こんな事やっているヤツ、まだいると思う?」




「いると思いますよ」




「なら、今日の仕事は決りね!」




「フーカ、もしかして・・・・・」




「警備兵狩り、いいでしょ!」




その後、フーカとハクは、街中を回り、

悪さをする警備兵を殴り、金銭を強奪し、

被害にあった者達に配って回った。



後に、この街の兵舎では、白髪と白銀の髪の2人組の女が、

恐怖の象徴として噂になった。






同じくして、街に出掛けた京太とラゴは、貴族の屋敷を訪ねていた。


最初に訪れたのは、ロニー アンダーソンの屋敷。


扉を叩き、出迎えたメイドに挨拶をする。




「この度、新しく領主になった京太と申します。


 今回、こちらを訪れたのは、この屋敷の主、ロニーアンダーソンが、

 私の屋敷に兵を連れて乗り込んで来たからです」




京太の説明に、メイドは慌てて誰かを呼びに戻った。


暫くすると、メイドと共に、2人の女性が姿を見せる。




「初めまして、領主様。

 私は、ロニー アンダーソンの妻、【クラリス】と申します。


 こちらは、娘の【サーラ】で御座います」




京太は、改めて自分とラゴを紹介した後、領主の屋敷での一件を語った。


その事を聞いた親子は、京太達を屋敷の応接室に通す。




ソファーに腰を掛けると、メイドが紅茶を持って来た。




「ありがとう」




ラゴは、当然の様な素振りで、紅茶に口をつける。




――ラゴって、こうやって見ていると綺麗なんだよなぁ・・・・・

  剣だけど・・・

  でも、なんでゴスロリ服なんだろう・・・・・




京太が、全く関係の無い事を思っていると、クラリスが話を始めた。


京太も気持ちを切り替える。




「この度の事は、夫がどういう経緯で、

 領主様の屋敷に押し入ったのかは存じませんが

 何か、夫に非があったのでしょうか?」




クラリスの言い方は、

まるでロニー アンダーソンは、悪くないと言うような言い方だった。




「僕の屋敷の押し入った事は、悪くないと言いたいのですか?」




クラリスは、すました顔で答える。




「そうは言っておりませんが、何か訳があったのでしょう」



母と違い、娘は、常識があるのか、青い顔をして俯いているが

そんな様子を気にも留めず、クラリスは話を続けた。




「身内贔屓に聞こえるかもしれませんが、夫は、素晴らしく出来た方です。


 ですので、意味も無く、その様な振る舞いをするとは考えられません」




その言葉に、京太はため息を吐く。




「出来た夫ですか・・・

 僕が此処に来たのは、ロニー アンダーソンはテオドリック シラスと一緒に

 商人達から賄賂を受け取り、領民を苦しめてた事実を知ったからです。


 そして、その特権を失くすお触れを出すと、

 怒って領主の屋敷に殴り込んで来たんですよ!」




京太の言葉に、クラリスは驚きもしなかった。




「何が、いけないのでしょう、領民は貴族の為にあるのです。


 多少の苦労は致し方ないこと。


 それに、何か得るものが無ければ

 街を守っている私達には、何の得にもなりませんわ」




話をするだけ無駄だと悟った京太は、命令を下す。




「貴方の考えは、わかりました。


 ロニー アンダーソンの妻、クラリス、並びに娘、サーラ、

 現時刻を持って街から追放する。


 そして、ロニー アンダーソン男爵の財産は、

 この度の賠償金として全て没収とする」




京太は、そう宣言すると、2人を屋敷から引きずり出した。




「ちょっと待って!どうして!」




今更ながら、慌てるクラリスを無視して屋敷の庭に引きずり出すと、

京太はラゴに頼む。




「ラゴ、悪いけど街の外に捨てて来てよ」




「いいわよ」




ラゴは羽を広げ、2人を持ち上げると、そのまま飛び去った。




ラゴが戻って来た後、他の貴族の家も回ったが、

どの家も贅沢にれ、手の施しようが無かった為

屋敷を含む、全ての財産を没収した。

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