第66話王都への途中 シラスの街 4

京太の提案は、至って簡単なもの。




「今後は、貴方達の独占は解く。


 同時に、適正価格での販売をお願いします」




商人達は、お互いに顔を見合わせる。




「あの・・・・・他には?」




「ないよ。

                                                                    

 でも、暴力や脅しを行った場合は、

 財産没収して 家も潰すからね」




「畏まりました」




「では、この事を街中に伝えて下さい」




「私達が、・・・でしょうか?」




「そうだよ。

 それとも、今までのおこないについて

 詳しく聞きましょうか?」



「あ、いえ・・・その・・・」



黙り込む商人達。




「聞いて貰えるかな?」




「も、勿論です」




商人達は、額から汗を流しながら頷いた。




「それから、今、店先に並べている物の値段を下げる事も忘れないで下さい」




再び何度も頷くと、商人達は帰って行った。


商人達が帰った後、京太はラゴに話し掛ける。




「ラゴ、お疲れ様、それで何か見つかった?」




「うむ、奴は小物だったようじゃ

 大した物は無かったが、

 気になったのは、これぐらいかのぅ」




そう言うと、ラゴは1通の手紙を差し出した。


手紙には、王族襲撃の決行日が記されていた。




「1ヵ月後って・・・・・」




この街から、王都までは、馬車で3週間はかかる。


その為、この街に滞在できる期日は、余裕をみても5日が限界だった。


だが、このままこの街を放っておく訳にも行かず、京太は悩んだ。




――どうしようか・・・・・




そんな京太の姿を見かねて声をかけるイライザ。




「京太様、思った通りにして下さい。


 私達は、その指示に従います」




周りの皆も頷く。




「わかった、ありがとう」




京太は、自分の考えを伝えると同時に

今後の作戦を話す。




「今回は、2組に分れる。


 1組は、この街に残って、街の改革を頼みたい。


 市の開催や警備隊の設立など色々と大変だと思けど

 頑張って欲しい。


 あとの1組は、当初の予定通り王都に向かう」




京太が話終えると、イライザが手を上げる。




「私は、此処に残ります。


 改革の為には、知識のある者が必要だと思いますから」




「ありがとう、僕もお願いしようと思っていたんだ」




「フフフ、光栄ですわ」




イライザに続き、ソニアとセリカ、サリーが手を上げた。


ソニアとセリカは、警備隊になる者達の訓練。


サリーは、イライザの手伝いと

メイドだった前職を生かして屋敷の掃除などを教え込む。



最後に手を上げたのは、ラムとミーシャだった。


2人もソニア達の手伝いをする事の傍ら、

狩りなどの指導も行う事になった。




翌日から、京太達は行動を開始する。


商人達の手により、街中に領主が変わった事が知れ渡ると、

住人達は不安を抱いたが、

今後は商売が自由に出来るようになったと聞き、

皆は希望を持つことが出来た。




だが、今まで贅の限りを尽くせていた貴族が、

黙っている筈もない。


私兵を引き連れて屋敷に乗り込んで来たのだ。



その男は、京太をみつけるなり、

大声で叫ぶ。



「この者を捕らえよ!」



男の命令に従い、剣を抜き、襲い掛かる兵士達だが、

京太に触れることも出来ずに倒された。




「ど、どういうことだ・・・お前は、いったい・・・・・」




京太は、焦る貴族の男を捕まえた。




「まずは、名前を教えて頂けますか?」




「名前だと・・・・・

 貴様は、私の事を知らないというのか?


 それに、私にこの様な事をただで済むと思っているのか!」




京太の問いに答えず、暴言を吐く。




「言葉が、理解出来ないようなので、頭を冷やして下さい」




貴族の男は、引き摺られて牢獄に連れて行かれる。


途中で、何度も抵抗したが、全く歯が立たず、

最終的に牢に放り込まれた。




放り込まれた牢の中には、先客がいた。


それは、見た事のある男。




「テオドリック様・・・・・?」




テオドリック シラスは、やつれた顔を上げた。




「【ロニー】男爵か・・・・・久しいな・・・」




彼は、【ロニー アンダーソン】男爵。


テオドリック シラスに従い、領民を苦しめていた男の1人だ。



牢の中で一人で盛り上がり、

再会を喜ぶロニー アンダーソンだったが、

テオドリック シラスは、絶望した顔をしていた。




「テオドリック様、早くここを抜け出しましょう」




「無理だ、我々は、もう出れないよ」




「何を・・・・・」




テオドリックは、この牢には結界が張ってある事を、

ロニー アンダーソンに伝えた。




「では、逃げれないと・・・・・」




「ああ、それに食事も水も運ばれて来ない」




「それでは、私達は、どうなるのですか・・・?」




ここにきて、初めて自身が最悪の状態に陥っている事に気付いた。






ロニー アンダーソンを牢に閉じ込めて戻って来ると、

面会を求めて貴族が来ているとサリーに告げられた。




「名前は?」




「【ラウル スペンサー】と申しております」




「会うよ」




サリーは、京太を連れて応接室に向かった。




「この中で、お待ちです」



「うん・・・」




扉を開けて中に入ると、中年の男性が立っていた。




「初めまして、私はラウル スペンサーと申します。

 

 この国で男爵の地位を持つ者です」




「京太です。


 単刀直入に聞きますが、どの様な用件でしょうか?」




ラウル スペンサーは、席に座り直した。




――なんだ、ガキか・・・・・




京太も向かい合うように座る。


すると、ラウル スペンサーは話を始めた。




「この街を手に入れたと仰っているようですが、

 私の様に、それを認めていない者もいると思いますよ」




京太を子供だと思ったのか、

ラウル スペンサーは態度を変え、話を続ける。




「もし、君が望むのであれば、私が力を貸してもいいと思っているんだ。


 どうだね、悪い話ではないだろう」




「力を借りるつもりはありません。


 それに、今までテオドリック シラスに尻尾を振って、

 美味しい思いをして来たと思いますが

 それが、駄目になった途端に鞍替えですか?」




「貴様!

 言っていい事と悪い事があるぞ!」




「事実ですから」




ラウル スペンサーは、怒りを露わにした。




「この私にふざけた態度を取って、タダで済むと思うなよ」




「そうですか、どっちにしろ貴方も処分するつもりでしたから」




「え!?」




京太の言葉から出た処分という言葉に、ラウル スペンサーは反応する。




「処分・・・・・だと・・・」




「はい、勝手に死ぬのを待つだけですけど」




「何を・・・・・」




ラウル スペンサーが何か言おうとしたが、

京太は遮り、声を掛けた。




「クオン、エクス」




扉を開けて入って来たのは、幼さの残る2人の少女。




「お兄ちゃん、何?」




「この人、牢に放り込んでおいてくれる?」




「うん、いいよ」




クオンとエクスは、一瞬にして間合いを詰め

ラウル スペンサーの両腕を掴むと引き摺り始めた。




「おい!」




ラウル スペンサーも、抵抗も空しく牢に放り込まれた。



牢の中で、ラウル スペンサーは、見た事のある2人と出会う。


そして、テオドリック シラスは、また、同じ説明をする羽目になった。




2人目を牢に放り込んだ後、ソニアが子供達を連れて来た。




「ソニア、子供出来たの?」




「殴るよ!」




「ごめん、それでその子達は、どうしたの?」




「食堂で働いていたホームレスの子供達だよ。


 この屋敷でも働いてもらおうと思って連れて来たの」




ソニアは、サリーを見る。




「わかりました、

 ですが一つだけ。

 子供達は理解していますか?」




「うん、『住み込みの仕事で食事付きだけど、働くか?』って聞いて

 働くと言った者だけ連れて来たよ」




「わかったわ、まず、体を洗って綺麗にさせてから、仕事を説明するわ」




サリーは、子供を連れて風呂に向かった。




「では、僕達も動こうか」




京太は、そう言うと、ラゴを連れて屋敷から出て行った。




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