第65話王都への途中 シラスの街 3

テオドリック シラスは、イライザの前で膝をつく。




「申し訳ありません、

二度とこのような事は致しませんので、どうかご容赦を」




「そんなことをして、私に、何のメリットがあるのかしら?」




その返答に、テオドリック シラスは、

 メリットを提示すれば、生き延びることが出来るかもしれないと

 期待を持つ。




「私に出来る事なら、何でも致します」




「わかりました。

 では、質問に答えて下さい。

 ナレシュとは、誰ですか?」




「・・・・・・」




テオドリック シラスは、答える事が出来なかった。




「どうかしましたか、貴方達の会話に出て来た名前ですよ」




――聞かれていたのか・・・・・




テオドリック シラスは、名前を出していた事を後悔をするが

ここで話さなければ殺されると思い、諦めて名前を告げた。




「ナレシュ アクセル公爵です」




「そうですか・・・・・わかりました」




テオドリック シラスは、助かったと胸を撫で下ろしたが

これで終わりではなかった。



質問は続く。




「では、私を偽物と決めつけたその男は?」




「そこのハイドン ポルナレフ子爵です」




「以前から、悪さをしているようですね」




テオドリック シラスは、額から汗を垂らす。




「そのような事は、全く・・・・・・」




「そうですか・・・ですが、先程の兵士は、言っていましたよ。

 『大人しく従っていればこんな目に遭わなかった』と」




テオドリック シラスは、思わず舌打ちをしそうになったが堪えた。




――あの馬鹿め・・・・・余計なことを・・・




「それから、私達が無実でここに居るという事に

 どういう意味があるとお思いですか?」




返す言葉が見つからず、俯いたまま固まっている。




「まぁ、いいわ。

 それでは、最後の質問よ」




そう告げた時、痛みで意識を失っていたと思っていた

ハイドン ポルナレフが、走り出した。




――不味い、ここから逃げなければ・・・・・・殺される・・・



入り口が近かったことが幸いし、

見事に牢の並ぶ地下を抜ける。



そして、入り口で待機していた兵達を見つけて

大声で叫んだ。




「脱獄だ!

 テオドリック様が襲われている、急いで向かえ!」




兵達は、急いで牢獄へと向かった。




――よし、今だ!

  今の内に逃げよう・・・・・




ハイドン ポルナレフは、その足で馬房に向かい、

御者をしていた男が世話をしていた馬車に乗り込んだ。



「早く馬車を出せ!

 屋敷に戻るぞ」



ハイドン ポルナレフ命令に従い

馬車を動かした。



走り出した馬車の中で、思考を巡らすハイドン ポルナレフ。


──何処だ、何処に逃げれば良いのだ・・・・・



必死に考えているが、答え見つからず、

結局屋敷に戻ることにした。



だが、ハイドン ポルナレフは気が付いていない。



このような愚行を、京太が許す筈も無いのだ。



それを証明するかのように

上空には、ハイドン ポルナレフの乗る馬車を追う影があった。







同時刻。

地下の牢獄には、テオドリック シラスを救出する為に、

武装した兵達が押しかけていた。


だが、兵達では、全く相手になっていない。



テオドリック シラスを救出しようと

突撃を繰り返すたびに、兵士の数が減る。



「クソッ、あのガキどもは何なんだ!」



兵士達の前に立ち塞がっているのは、エクスとクオン、それとフーカの3人。


エクスとクオンが前線で立ち塞がり、

突撃して来る兵士達を悉く倒す。


同時に、クオン達の後方に控えているフーカが、

魔法の矢を放ち、入り口を守っている兵士達を倒した。



しかし、数が多い。


後から後からと湧き出すように、現れる兵士達にウンザリする。



「面倒臭いです」



「主の魔法で、一緒に、抜け出せば良かったです」



「そんなこと言わないでよ。


 私だって、あの男は許せないから、

 ここを抜け出したかったんですよ」




3人が兵士を倒しながら会話をしていると

そこに、ソニアが割り込んできた。



「皆、気持ちは一緒なんだから

 さっさと倒して、追いかけたらいいでしょ」



「それは、いい考えです」



エクスは頷くと、入り口に向かって駆け出す。



「ちょっと!!」



ソニアの声を無視して、

クオンも駆け出し、エクスの後を追う。



エクスの視界にクオンの姿が映ると、笑顔を見せたエクスは

クオンに向かって手を伸ばした。



「おねぇちゃん。


 戦闘です。


 出番が参りました」



「うん、わかってる」



エクスとクオンは、兵士達の中に突撃する。



高速で襲い掛かった小さな2つの物体は、

兵士達の中に紛れ込むと、剣を振るった。


刻まれてゆく兵士達。



その不甲斐ない姿に、分隊長から檄が飛ぶ。



「貴様ら、子供相手に、何をしているんだ!

 さっさと殺せ!」



最後尾から、激を飛ばした分隊長だったが

フーカの放った光の矢に、額を射抜かれ、命を落とした。




指揮を執っていた分隊長が倒されたことに、

動揺している兵士達。



「た、分隊長が倒された!!」



その声に、我を取り戻した兵達は逃げるという選択を選んだ。



クオン達に背を向けて走り出す兵士達。



「うわぁぁぁぁ!!!」



兵達が逃亡を始めると、道が見えた。




「ちょっと行って来る」




京太にそう言い残すとソニア達も走り出した。




――みんな・・・・・




京太は、苦笑いをしながら、皆を見送った。



現在、この場に残っているのは、

京太の他には、イライザとハクだけだった。




「ハクも行っていいよ」




護衛の必要性を考え、最後まで残っていたハクだったが、

京太の許可が下りたので牢獄を抜けると、

皆と反対方向に走り出した。




残ったイライザは、取り残されているテオドリック シラスに目を向ける。




「先程の続きをしましょう。

 王都は面白い事になっているみたいだから、

 その辺りを詳しく聞かせて頂けるかしら?」



「それは・・・・・」



「これが、最後の質問よ。

 どのみち、ここまで話をした事が分かれば貴方の命は無いわ。


 それなら、私達に全部話した方が、助かる可能性は高いと思うわよ」




その脅しともとれる提案に、

テオドリック シラスは乗るしかなかった。




「・・・わかった、話そう」




テオドリック シラスは観念し、知っている事の全てを話し始める。



その内容は、今回の国家反逆の首謀者は、

王の弟のナレシュ アクセルである事。



そのナレシュ アクセルに従い、

作戦の指示などを送っている貴族の名前などを明かした。



イライザも質問が終わると、今度は京太の番。



「教会から神の啓示があったと嘘を吐いたのは誰だ」



「それは、ジョセス マーカス子爵だろう・・・・

 どうやったのかまでは、儂は知らん」




「わかった。


 なら、次だ。


 今、王族は、どうしている?」



少し間を置き、テオドリック シラスが口を開いた。



「国王は、宰相の手配した薬師に毒薬を飲まされて、寝所にいる筈だ。


 国王の親族に関しては、どこかに幽閉でもされているかもな・・・

 よくは知らん」




国王の体調不良の原因が、心労などでは無く、

毒薬のせいだとわかった。




――急がないと・・・・・・



聞きたいことを聞き終えたので、もう用は無くなった。



京太と入れ替わり、イライザが語りかける。



「約束通り、命は取らないわ」



イライザの言葉に、テオドリック シラスは安堵した表情を見せた。




――儂は、助かったのか・・・・・



『ホッ』としているテオドリック シラス。



その様子を見て、イライザが言い放つ。




「でも、無罪というわけにはいかないから

 取り敢えず、閉じ込めさせてもらうわね」




京太はテオドリック シラスを牢に放り込むと、

その牢を囲うように結界を張った。



「お前は、その中で反省していろ。


 それと、先に伝えておくけど、その結界は破れないから。


 勿論、魔法も効かないよ」




京太はそう言い残すと、イライザと一緒に出口へと向かった。



牢獄を抜け、屋敷の通路に出ると、

そこには多くの死体が転がっていたが

仲間の姿は、見当たらない。



「何処へ行ったかな?」



「屋敷を探索しているのでしょう。

 私たちも屋敷の探索に向かいませんか?」



「うん、わかった」



京太とイライザも屋敷内の探索に参加し、

暫くすると、隠し部屋を発見した。



隠し部屋は、金庫の代用にされており、

目が眩むほどの金貨や宝石などで溢れかえっている。



「すごい金貨の量だな。


 それに、装飾品も・・・・・」



宝物庫を見つけた京太とイライザは、

全ての品物をアイテムボックスに収納し

再び、探索へと戻った。



屋敷内を一通り探索した後、

城壁内にあるもう一つの建物である兵舎へと向かう。



兵舎の入り口が見えてくると、

その入り口の前に仲間達の姿が見えた。



ソニアが京太の姿を見つける。



「京太、こっちは終わったわよ」



「お疲れ様、怪我をした人は、いないよね」




「当然よ、そんな人はいないわよ。


 ところで、この後はどうするの?」




「うん、ハイドンの事は、ラゴに任せているから、

 僕たちが追うのは、商人かな」



そう伝えた時、偶然にも

1台の馬車が屋敷へと入って来た。




「丁度いい、あの馬車を使おう」




その言葉を聞き、クオンとエクスが走り出す。



当然、狙いは馬車。



その馬車は倉庫の前で止まり

中から商人らしき男が降りてきた。



商人は、いつもと違い、誰も出迎えに来ないことを疑問に思っていると

いつの間にか、目の前には、2人の少女の姿があった。




「貴方は、この屋敷の御用商人ですか?」




「は、はい、そうですが」




「なら、お教えしますが、

 この屋敷と領地は、主の物となりました」




「えっ!?」




「事実です」




そう言うと、エクスが指を差す。


その方向には、多くの死体が転がっていた。




「ひぃぃぃぃっ!」




商人は、怯えて腰を抜かした。


そんな商人にクオンは伝える。




「これは、主からの命令です。


 今すぐ、商人達を集めて下さい。


 理由は、領主が変わったとかなんとか言ってください。


 ただ、逃げたら、追いかけるからね」




商人は、何度も頷くと、その場から足早に去って行った。




それからしばらくして、屋敷の広間に、商人達が集まった。




広間に集まった商人達は、既に聞き終えている。



そのおかげか、面会はスムーズに行われ、

反抗するような素振りをみせる者は、いなかった。



商人たちが、膝を付き待っていると

壇上に上がる、京太の姿が視界の端に映る。


京太が、椅子に腰をかけると声が響く。




「顔を上げて下さい」




商人達は、顔を上げた途端驚く。


壇上の椅子に座っているのが、少年だったからだ。




「これは、どういう事か!」




「この街は、僕が貰いました。


 ただ、それだけです。


 何か問題でも?」




商人は、動揺しながらも問う。




「テオドリック様は、どうされたのでしょうか?」




「罪人として牢屋に入れています」




「左様でしたか、ですが他の貴族の手前もあります。

 勝手に決めるのは、どうかと・・・・・」




そんな会話をしていると、

羽を生やした紫の髪色をした美少女が入って来た。




「今、戻ったのじゃ」 




「ラゴ、お帰り」




「これは、土産じゃ」




ラゴは、手に持っていた大きな包みを

放り投げる。



包は、京太の方ではなく、

膝をついている商人たちの前を転がり、

正面辺りで止まった。




止まると同時に包の結びが解けると、

中からハイドン ポルナレフの首が現れた。




「ひぃぃぃ!」




叫び声を上げる者、顔色を無くす者、

それぞれの反応を示したが

最終的には、1つに纏まる。




――逆らえば殺される・・・・・




そう理解した商人達の思考は、

恐怖に染まり、逆らう気力を失った。


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