第64話王都への途中 シラスの街 2

昨日は、トラブルになりそうだったが

何とか無事に終わり、本日を迎えた。


店の外には、昨日同様、行列ができ、

開店を待っている者達の姿もあった。


だが、並んでいる者達の風貌が、おかしい。


昨日のような、親子連れや平民といった者たちの姿はなく、

冒険者崩れのような男達ばかりだったのだ。




時間になり、店を開けると、

並んでいた男達が『ゾロゾロ』と店の中に入って来た。


男達は、椅子に腰を掛けるなり、大声で叫ぶ。




「おい!早く持って来い!」




「食べに来てやったんだ早くしろ!」



殴ってやりたくなる気持ちを抑えるラムは

口々に叫ぶ男達の前に料理を運ぶ。




「お待たせしました」




料理をテーブルに置くと

ラムを舐めまわすように見ていた男が

声をかけてきた.




「おい、お前、エルフだな。


 俺の隣に座り、楽しませろよ」




男は、強引にラムの腕を掴み、引き寄せようとしたが

ラムが動く事はなかった。




「えっ!?・・・」




「汚い手を、離してくれない」




男は驚きと女性に力で負けたことが恥ずかしくなり、

今度は、両手で引き寄せようとする。



だが、びくともしない。




冷たい視線で睨みつけるラム。




「いい加減にしてくれないかな?」




ラムが引き寄せると、男は手を離し損ない、

椅子から転げ落ちた。



その様子を見ていた男の仲間達は、

一瞬にして、態度を変えた。



「貴様!何をするんだ!」



テーブルを叩を何度も叩き、大声を上げると

タイミングを見計らったかのように

警備兵が雪崩れ込んで来た。




「おい!

 これは何の騒ぎだ!」




――罠だったのか・・・・・




男達は、先程までの態度と打って変わり、

『何もしていないのに、この女に暴力を振るわれた』と証言をすると

警備隊長が、一歩前に出てくる。



「店主は、何処だ!」



「何の用ですか?

 もう営業しているんですけど・・・」



警備隊長の前に立つ京太。




「そういえば貴様が店主だったな、

 この度の件は、被害者もいる。

 言い逃れは出来ないぞ」




警備隊長は、京太達を捕らえるように命じた。




店の事や集まっている人々に迷惑をかけたくなかったので

京太達は大人しく捕らえられた。



「大人しく我らに従っていればこの様な事にはならなかったのだ」



京太の耳元でそう呟いた警備隊長だが、

口元が笑っている。




――こいつ、何か企んでいるな・・・・・




警備兵に捕らえられたのは、京太とその仲間だけで

他の者達には、被害は無かった。




領主の屋敷へと大人しく連行された京太達は、

屋敷に到着すると、そのまま牢に放り込まれる。




「暫くの間、そこで大人しくしていろ!」




警備隊長は、捨て台詞の様に言い残すと、

警備兵と共にその場を離れた。



京太は隣の牢に放り込まれた仲間達に声を掛けた。




「皆、大丈夫?」




「・・・大丈夫です」




「・・・大丈夫だよ!」



「ええ、大丈夫です・・・・・

 とっても、元気ですわ・・・フフフ・・・」




皆の明るい返事に、安堵したかったのだが

何故か、背筋に寒気が走る。




――この子達・・・絶対やる気だ・・・・・




京太は慌てた。




「皆、元気ならいいんだ。

 でもね、この街の事について、まだ聞きたい事もあるし、

 僕たちの目的地は王都なんだから、

 よく考えて行動しよう!ねっ!ねっ!」




「わかってるわよ、心配しないで」




ソニアは、明るく返事をする。




「本当に頼むよ」




皆も、それに続いて、明るく返事をした。




未だ、不安を拭い切れない京太。




――本当に、大丈夫かなぁ・・・・・

  まぁ、無茶をされなければ問題は無いか・・・・・




そんな京太の考えは、砕かれる事になる。




地下通路に足音が響くと同時に、話し声が聞こえて来た。




「今回捕らえた者達の中に、エルフが2人いました。


 宜しければ、一度見て頂きたいと思いまして・・・・・」




声の主は、先程の警備隊長。



それと、もう1人。




「そうかエルフか、ナレシュ様への献上品に良いかも知れないな」




「でしたら、魔封じの首輪を付けさせましょう。

 これさえあれば、あれらはただの人形ですから」




「うむ、そうしてくれ」




「畏まりました」




2人は、牢の前で足を止めた。




牢の中には、捕らえられている女性達の姿がある。

2人の男は、品定めを始める。




「見た目も良いな、これならナレシュ様も満足するだろう」




「有難う御座います。

 【テオドリック】様の御眼鏡に適ったのなら、

 間違いはございません。

 早速、エルフは献上品という事でご用意致します」




「ああ、そうしてくれ」




警備隊長と話をしているのは、

この街の領主【テオドリック シラス】侯爵だった。



テオドリック シラスは、その後も牢の中を眺める。




「あの胸の大きな茶髪の女と、あの金髪・・・・・・」




そこまで言うと、テオドリック シラスの言葉が止まる。




「何故だ、貴方様がどうしてここに・・・・・?」




その目は間違いなく、イライザを見ていた。



イライザは、前に進み出る。




「お久しぶりですね、テオドリック シラス侯爵様」




優雅に挨拶をするイライザに、

テオドリック シラスは、本物で在る事を確信した。


動揺するテオドリック シラスに、イライザは追い打ちをかける。




「いつまで、私を閉じ込めておくのですか!」




「申し訳御座いません」




謝罪を口にし、牢の鍵を開ける様に命令を出そうとしたテオドリック シラスに

誰かが声を掛ける。




「お待ちください!」




その声に、警備隊長とテオドリック シラスの動きが止まった。



声の主が近づいて来る。




「テオドリック様、どなたかに似た方でもおられたのですか?」




テオドリック シラスは、男の方に顔を向けた。




「【ハイドン】子爵か。

 この御方は、アトラ王国の第1王女イライザ様なのだ」




【ハイドン ポルナレフ】は、それを聞いても

驚きはない。



牢の中を覗き込む。




「見間違いでしょう。

 その様なお方がこんな所にいる筈がありません。


 それに、今は大事な時、その様な偽物に割く時間はありませんよ」




その言葉を聞き、ハイドン ポルナレフの意図を汲んだ。



テオドリックは警備隊長に告げる。




「どうやら私は、勘違いをしていたようだ。


【メルロ】、あの胸の大きな茶髪の女と

 そこの金髪の女に首輪を付け、今夜、私の部屋に連れて来い」




メルロ警備隊長は、ニヤついた顔で答える。




「畏まりました」




テオドリック シラスは、ハイドン ポルナレフにも勧めた。




「ハイドン子爵も如何ですか?


 お好きなのを選んで、お持ち帰り頂いても構いませんよ」




「おお、それは有難い、感謝致します」




ハイドン ポルナレフも、再び牢の中を見る。




「では、私は、白銀の髪の女を頂くとしましょう」




テオドリック シラスは、ハイドン ポルナレフの言葉に頷き、

メルロ警備隊長に伝えた。




「メルロ、ハイドン子爵殿の方も頼むぞ」




2人は、満足そうな笑みを浮かべて

その場を去ろうとしたが、隣の牢から聞こえてきた声が引き留めた。




「それが、お前達の判断なんだな」




その声に驚く。




「メルロ、隣に誰かいるのか!?」




テオドリック シラスの言葉に、メルロ警備隊長は答える。




「はい、一緒に捕まえたガキがいます」




テオドリック シラスとハイドン ポルナレフは、

京太が入ってる牢の前に立つ。




「ガキの癖に生意気な事だ」




「小僧、死にたくなければ、大人しくしろ!」




京太も言い返す。




「お前達こそ、命乞いでもしたらどうだ?」




その言葉に、怒りを覚えたハイドン ポルナレフは、

メルロ警備隊長に命令する。




「このガキを今すぐ牢から出せ、

 儂、自ら殺してくれるわ!」




ハイドン ポルナレフは、剣を抜いた。



メルロ警備隊長は、命令に従い、

牢の鍵を開け、京太を牢から出す。




「小僧、後悔しても遅いぞ」




ハイドン ポルナレフが、京太に剣を向けた瞬間、

ハイドン ポルナレフの剣を持つ腕が飛ぶ。



「うぎゃぁぁぁぁ!!」




地面に転がり、痛みに悲鳴をあげるハイドン ポルナレフ。



ハイドン ポルナレフの腕を切り落としたのは、

勿論、京太の仕業。




「後悔しても遅いですよ」




京太は、先程のハイドン ポルナレフの言葉をそのまま返した。



「あ、あのガキを、こ殺せぇぇぇぇぇ!!!」



テオドリック シラスが絞り出した言葉で、

呆気に取られていたメルロ警備隊長が、

正気を取り戻すと同時に、京太に襲い掛かる。



「貴様ぁぁぁぁぁ!」




だが、京太の相手にはならなかった。


一撃で首を飛ばされる。


走って来た勢いのまま、首の無くなった胴体だけが、

数歩進んでから倒れた。



「なんだ・・・・なんなんだ・・・」



テオドリック シラスは、後退る。



そんなテオドリック シラスを放置したまま

京太は、ゆっくりと牢に近づくと、鉄格子を切り裂いた。




「お待たせ」




仲間達が牢から出て来る。



その中にいたイライザは、

テオドリック シラスのもとに向かう。




「テオドリック公爵、

 この状況について、何か弁明はありますか?」



イライザは、笑みを浮かべて問いかけているが、

その目の奥には、怒りが潜んでいた。





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