第63話 王都への途中 シラスの街

「この街は、以前は違いましたが


 今は、領主様が、御認めになった者だけが

 商人として、物を売ることが許されるようになりました。



 すると、商人たちは、一斉に値上げをし

 以前の数倍の値段がするようになり、

 我々では、買い付けることが難しくなりました。


 ですので、申し訳が座いませんが、

 食事のご用意をすることは、出来ないのです」




「その・・・値上げとかについて、誰も文句を言わないのですか?」



「勿論、抗議の声を上げた者達もおります。


 ですが、・・・・・

 その者達は、あらぬ罪を着せられて捕らえられました」


 

「あの・・・道で生活している子供達が多いのは?」




「あの子達は、親が捕らえられたり、生活が出来ない為に捨てられた子供達です」




「そうなんだ」




京太は、この街の状況を見て、

王都でも同じような事が起きているのだろうかと不安を募らせる。




――貴族達は、何がしたいのだろう・・・・・




そんな疑問を覚えつつも、もう一つ、聞いてみたい事があった。




「仕事を失った人達が多くなれば、困るのは領主だと思うけど」




「それは・・・・・領主が雇っています」




「え!?」




「奪った農地を使い、

 仕事を失った大人や子供達を、安い賃金で働かせています」




「そうなんだ」




「はい、1日、銅貨10枚と2回の食事という条件です。


 普段なら、誰もそんな賃金では働きませんが、

 この街から出ることも出来ず、

 仕事も無い状態ですので、諦めて皆が働いています」




この話を聞き、京太には、領主の考えが分かった。




――この街の人々を奴隷として扱う気だな・・・・・




京太は、この街の領主が許せない。



――そんな事・・・・・絶対にさせない!・・・・・




この宿でお世話になる事を決めると、調理場を拝借し

アイテムボックスから食材を取り出した。




「料理は、任せて下さい」




「私も手伝うわ」




サリーとセリカが、料理当番を名乗り出る。




「うん、頼んだよ」



2人に任せ、食堂に戻ると

ソニア達が聞いて来た。




「京太、私達は、どうしたらいい?」




「うん、料理は多めに作るから、店の準備をしてくれるかな」

 それから、店主のおじさん」




「はい、名乗るのが遅れましたが、私は【トム】と申しますが

 何でしょうか?」

 




「今晩、1食、銅貨1枚で食堂を開こうと思うんだけど、いいかな?」




トムは驚いた。


そんな安いお金では、利益が出ないどころか、売れば売る程赤字になるからだ。




「あの・・・宜しいのですか?


 店を貸す事は構いませんが・・・・・利益は出ないどころか、

 もしかしたら、警備の者に目を付けられるお恐れが・・・・・」




その言葉を聞いても、京太に変化は無い。




「構わないよ、この宿に迷惑をかけるつもりは無いけど、

 万が一の時は弁償するから」




「わかりました。


 どうせ、このままだといずれ潰れる運命です。


 全て、貴方にお任せします」




トムもやる気になり、夕食の準備を手伝いを申し出た。



サリーとセリカが、食事を作っている間に、

店の準備を整える者と、近所に宣伝に向かう者達に別れて行動を始める。






夕食時になると、トムの店の前には行列が出来ていた。



「結構、集まったね」



「そうね、それだけ困っているんだよね」



着々と準備を進める京太達。



店が開店すると、行列を作っていた人達が押しかけたが、

京太と、その仲間達が上手く誘導し、混乱を防いだ。



人手を割く為に、セルフサービスが基本。



店に入った者が、銅貨1枚を先に払うと、

料理が手渡される。



食事の内容は、魔物や魔獣の肉を使った焼肉丼。


タレに漬け込んだ肉を焼いて御飯に乗せただけの物だったが、

意外と評判も良い。



洗い物が多くでたが、宿の裏庭に洗い場を設置し、

お金も住むところのない子供たちを雇って回した。




営業が終了し、片付けが終わると、

子供達に給金と弁当を渡して帰らせた後

京太達は食堂に集まる。




「明日もやろうと思うけどいいかな?」




「いいと思います」




「ありがとう。

 セリカとサリーは、仕込みで大変だと思うけど、お願い出来るかな?」




「勿論です。

 手の空いている人も手伝ってくれていますから

 明日も、このままで大丈夫です」




「わかった。

 宜しく頼むよ」




セリカの言葉に感謝を伝えた後、話を終えた。




皆が席を立つと、京太が思い出したように話しかける。




「僕は、これから狩りに行って来るよ」




「えっ!

 こんな夜中に行くのですか!」



京太は、頷いた。



「僕は、夜でも関係無いから大丈夫だよ」




その言葉に納得する反面、

『1人で行かすのはどうか?』と皆が考えていると、2人が手を上げた。




「わらわが、同行しますわ」




「私も、主に同行します」




ラゴとエクスである。



2人は、剣が人化した者。



昼も夜も関係無い。



「わかったわ。

 ラゴとエクスに任せるわ」



ソニアの言葉に皆が頷く。




「あの・・・門は閉まっていますが・・・」




「大丈夫、飛んで行くから」




「わらわも飛べるので問題は無いのじゃ」




「主に、抱き着きます!」




エクスの抱き着く発言で、少々の騒ぎにはなったが、

2人が同行する事で話がついた。




「行ってきます」




宿の裏庭から、京太がエクスを抱いて飛び立つと、

ラゴが後に続く。




「それでは、わらわも行くのじゃ」




ラゴの背中からドラゴンの羽が生える。



軽く羽ばたくだけで、周囲に風を起こす。



上空に舞い上がったラゴは、京太の後を追う。




3人を見送った後、残った仲間達は、部屋へと戻って行った。




朝早くに戻って来た京太達は、

裏庭で獲物を広げ、血抜きをおこなっていると、皆も起きてきた。




「京太、戻ったんだね」




「皆、おはよう。


 今、戻った所だよ」




「でしたら後はお任せいただいて

 京太さんは、お休みください。」



「ありがとう、そうさせてもらうよ」




ミーシャの言葉に、感謝を告げると

京太とラゴ、エクスは、部屋へと向かった。




仮眠を取るつもりで寝たのだが

京太達が目覚めた時には、既に夕方になっていた。




「寝すぎたぁ!!」




慌てて2人を起こし、食堂に向かう」京太。




食堂に下りると、準備は終わっており、

裏庭には、昨日の子供達が集まり、食事をしていた。




「ごめん、寝すぎた」




申し訳なく呟いたその声に、イライザが答える。




「お気になさらず。


 京太様は、何時も頑張ってくれていますから」




イライザと話をしていると、

 起きてきた京太に気付いた仲間達が集まって来た。




「京太!おはよー」




飛びながら抱き着いて来たフーカ。




「うん、おはよう。


 頑張ってくれたんだね、ありがとう」




京太は、抱き着いた状態のフーカの頭を撫でた。




「ちょっと、他にもいるんですけど・・・・・」




ラムが、唇を尖らせながら近づく。




「ごめん、皆もありがとう!


 今日も、頑張ろう!」




「「「おー!」」」




店の扉を開けると、そこには、昨日以上の行列が出来ていた。




――相変わらず凄いな・・・・・




店の噂が、想像以上に広まっており、

昨日以上に忙しくなることが見てとれた。



その為、開店時間を早めたが

それでも、外の行列は、無くならない。




店を開けてから暫くすると、街はすっかり暗くなっていたが、

宿の食堂は、活気に満ちていた。


勿論、行列も残っている。



だが、そこへ招かざる者達が現れた。



街の警備兵である。



その姿を見て、食事をしていた者達が静まり返った。



誰も言葉を発しないが、思う所があるのか、

警備兵達を睨んでいる。




そんな人々を無視して、警備兵の中の1人が声を上げた。




「この店の主は、何処だ!」



「僕ですけど・・・」



この状況は、想定していたので、

トムとは話が付いており、京太が店主として対応することになっていた。



京太の姿を見て、警備兵が大声を上げた。




「嘘を吐くな!

 ここは、トムの経営する宿だろうが!」




「いえ、それは3日前までの事ですよ。


 この店は、僕が買い取りましたから」




「なら、証拠を見せろ!」




京太は、売買契約書を取り出す。




「こちらです」




京太は、万が一の時の為に、売買契約書を作っていたのだ。


勿論、形だけのもので、

実際には、この宿は今でもトムの持ち物。



だが、売買契約書を確認した警備兵は、

京太を店主として認めるしかない。




「そうか・・・・・わかった、貴様が店主だな」




「はい、それで何の御用でしょうか?」




「この店で喧嘩があったと聞いて来たのだ」




これは全くの出鱈目。



だが、この街の人達には、これが何を意味するのかはわかっている。




警備兵達は、金銭をたかりに来たのだ。




その事も理解している京太は、敢えて知らぬ振りをし、

何食わぬ顔で、対応する。




「何かの誤解かと思います。


 喧嘩などありませんので、お引き取り下さい」




「貴様・・・・・」




「もう一度言いますよ、喧嘩などありませんから、帰って下さい」




その態度と言葉に、警備兵は腹を立てた。




「貴様・・・どうなっても知らんぞ!」




警備兵は捨て台詞を吐き、その場から去って行った。




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