第62話アクセル王国 王都へ

ロイス アヴァロンは、ナレシュ アクセルの命令に従い、

子爵の【ジョセス マーカス】を連れて教会に出向く。




数日前、ジョセス マーカスは、教会を乗っ取る為に神父と巫女を殺害し、

代わりに、金で雇った神父と偽の巫女を用意した。



その神父は、人々に教会に集まる様にと促し、

数日後に集会を開いた。



その中に、ロイス アヴァロンとジョセス マーカスも紛れ込んでいる。



教会に集まった人々が、暫く待っていると

金で雇われた神父【イスマエル】と偽巫女の【アルシア】が壇上に姿を現す。




「皆さん、このような時に、よくぞお集まりくださいました。


 今日、此処に集まって頂いたのには、他でもありません、

 神より啓示があった事をお伝えする為です」




その言葉に、どよめきが起こる。



イスマエルは、騒ぐ信者たちを両手を前に出して制した。




「皆さん、

 これより神のお言葉をお伝えするのですから

 お静かに願います。」




イスマエルが、そう発すると、教会内が静まり返る。



一息つくと、イスマエルは、ゆっくりと語り始めた。



「数日前、神のお言葉を巫女が受け取りました。


 その内容は、我が国を指しているとしか考えのつかない内容でした」




集まった者達は、次の言葉を待った。




「神は、こうお告げになったのです。

 『かの地より南方に災いの地あり。

  その地には、神の心を失いし者達が蔓延り、

  羊の皮に騙された民は、光を闇へと沈めるだろう。

  再びこの地に平穏を求めるのなら、新たなる希望の柱を求めよ』と」




イスマエルが、啓示を伝え終えたが、信者達は黙ったままだった。




「この啓示の訳は、かの教国より南方と言えば、この国の事です。


 そして、神の心を失いし者とは、王家であり

 光とは、希望。

 希望が見いだせないほど生活が苦しくなったのは、国の圧政のせいです。


 私達は、国王の優しく接する素振りに騙され、

 この様な状態になるまで気が付きませんでした」




信者達は、俯いた顔を上げる事が出来ない。




その様子に、思わず笑みが零れそうになるイスマエル。


慌てて、襟を正して、次の言葉を投げかけた。



「だが、諦めないで下さい。

 神の掲示は最後にこう言い残しております」




信者の視線が、イスマエルに集まる。




「この国に平和を求めるのなら、

 新たなる柱、この国の王となる人物を決めよと告げているのです」




その言葉に、希望を見出した者達は、歓喜の声を上げた。


その時を待っていたかのように集団の中から、2人の男が立ち上がる。




「私は、ロイス アヴァロン。


 アヴァロン伯爵家の当主です。


 私は、貴族だが、神の啓示に従い、

 皆さんと共に在る事を誓います」




そう宣言すると、もう1人の男も続く。




「私は、ジョセス マーカス。


 マーカス子爵家の当主です。


 私も貴族だが、今日、この場にいたことを幸運に思う。


 微力だが 皆と共にあることを誓おう」




2人の言葉と態度に、イスマエルは賛辞を贈る。




「貴方方は、貴族という身分で在りながら、

 自らの生活を投げ出し、民の生活を変える為に、

 立ち上がられた事に感謝致します」



イスマエルが、2人の貴族に賛辞と拍手を送ると

集まった者達も、それに続いて拍手と、感謝の言葉を口々に述べた。




その翌日から、神から啓示があった事と

その内容が噂として広まると

一気に王族への批判が強まり、

反国王派に味方する者が増え始めた。



そして、その噂は、瞬く間に国中に広まる。




京太達も旅の最中に、王族批判をよく耳にしていた。




「ねぇ、京太、これって相当不味い状況よね・・・」




「うん、フィオナを連れて来なくて正解だったよ」




御者しているソニアと話しながら、王都に向かっているが、

王都に近づくに連れて、警備が厳重になっていた。




街に入る門を通る度に、フードを被ったり、顔が見えない女性には、

顔が見える様に命令する姿がよく見れた。


その為、警備の者達の目当ては、完全にフィオナだという事がわかる。




――ここまで、手が回っているという事は・・・・・




途中で立ち寄った街で宿を決めると、

京太は皆にお願いをする。




「夕食は、別々の店で摂ろう。


 それで、お願いなんだけど、王都に関する情報を仕入れて来て欲しい」




仲間達は、その言葉に頷き、それぞれのグループに分かれて食事に向かった。




京太とハク、フーカは、宿の食堂で食事をし、周囲の話に聞き耳を立てたが、

これと言って有意義な情報はなかった。




クオン、エクス、イライザは、近くの食堂に出行き、食事をする。



適当に料理を頼むと、店の女性にエクスが声を掛けた。




「女よ、王都について話して下さい」




「えっ!何?」




驚く店員に、イライザが慌てて訂正をする。




「ごめんなさい、私達、王都に向かっているのですが、

 あまりにも警備が厳しいので何かあったのかなと・・・」




「あっ、そう言う事ね」




イライザは、銀貨を渡す。




「何でもいいから教えて頂けませんか?」




銀貨を受け取った店員は、笑顔で話し始める。




「そうね・・・王族の危機とかかな」




「え!?」




「王都の治安が悪くなっているらしいよ。


 なんでも王族が我儘し放題で、民を苦しめていたんだって」




「そうなんですか・・・」




イライザは、『それは違う!』と叫びたい思いでいっぱいだったが、

今は情報を聞き出す事を優先させた。


その後も色々と聞いてみるが、

有意義と思える情報は無かった。




イライザ達が宿に戻ると、他の仲間達も戻っており

京太の部屋に集まっていた。



イライザが最初に口を開く。




「私達が、聞いたのは・・・・・」




イライザは、女性の店員から聞いた事を話すと

その話に、ラムが付け加える。




「私達が聞いたのも同じような事だったけど

 ちょっと違うのよ」




「違う?」




「ゴメン、違うと言うよりは、付け加えると言う方が正しいわね」




「そうなんだ、それで?」




「うん、内容はほぼ同じだけど、

 この話の始まりが、神からの啓示とのことよ」




「神からの啓示だと・・・」



京太の雰囲気が変わる。



それもその筈。



神の最後を知る京太にとっては、聞き捨てならない言葉。




「もう一度聞く。


 誰からの啓示だと・・・・・・言ったんだ・・・」




可視できる程の怒りのオーラが京太の体を包み込む。



それも、今まで見たことのないほどに濃い。



何かを察したのか、エクスが急いで京太の手を握る。


それに、ラゴが続く。



2人は、必死に京太に語りかけた。



「主、怒りを鎮めて下さい」




「主様、お怒りは尤もですが、今は鎮めて下さい!


 その怒りは、わらわがお預かり致します。


 ですので、どうか、お願いします!」




2人が必死に語りかけ続けると、

ようやく京太は落ち着きを取り戻した。




「ありがとう。

 もう、大丈夫だから」




怒りのオーラが消えたことに安堵した2人は、

繋いでいた手を離した。




落ち着きを取り戻した京太は、

ラムに話を続ける様に促す。




「えっと・・・それでね、

 王都の教会に、巫女を通じて神の啓示があったらしくて、

 その内容が、民を守る為に、

 現王族からこの国の奪えというものだったらしいのよ」




「なんだよ、その馬鹿げた啓示は!」




京太は、ため息を吐くと同時に、

怒りを覚えた自分自身に不甲斐なさを感じた。




――あの人達の最後を見ているからかな・・・・・

  もっと冷静になろう・・・・・




そう心に誓い、皆と話し合いを続けた。


最終的に、京太達が分かった事は、

アクセル王国の現国王一族の危機に瀕していることと

この国を、手中に収めようとしている貴族連中がいるという事だった。




「それで、この後はどうするの?」




「とりあえず、王都に急いで向かおう」





皆も、その意見に賛同し、その日は解散となった。




それから2日後、順調に旅を続ける京太達は

新たな街に到着する。



ここは【シラスの街】。



宿を取るために立ち寄ったのだが

街に入る者に対しては、それほど厳しい取り調べは無かったが

街を出ようとする者達には、厳しく取り調べを行っていた。





――まるで、逃がさない為みたいだな・・・・・




その様子を横目で見ながら、馬車を進めたのだが

街の中は、想像以上に荒れていた。



ボロボロの服を着て、

地面に座り込んでいる人々。



皆、やつれており、活気が無い。




「これは、酷いな・・・」




「うん・・・・・」




京太達は、そんな街中を進み、

宿を見つけて中に入ると、

店主と思われる男が歩み寄ってきた。




「申し訳ありません。

 寝所は、ご用意出来ますが、

 食事は出せないのです」




「それは構わないけど、何かあったのですか?」



「それが・・・・・」



店主は言葉を詰まらせた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る