第61話アクセル王国

歓迎会の翌日、国王は京太とナイトハルトを同席させ

応接室でフィオナと面会をしている。




「フィオナ殿、襲撃された件について、詳しく話してくれないか」




王の問い掛けに、フィオナは俯いていたが、

隣に座っていたナイトハルトに促され話し始める。




「私の国の事で、ご迷惑をお掛けしたことを

 先に、謝罪をさせてください」



頭を下げるフィオナ。


フィオナの手に、そっと手を重ねるナイトハルト。




「フィオナ、そんな事は気にしなくていい。

 君は俺の婚約者でもあるのだから、遠慮しないでくれ」




「ありがとうナイトハルト。」



ナイトハルトに、笑顔を向けた後、国王へと顔を向けたフィオナだが

話を始める前に、疑問に思っていたことを口にする。



「あの・・・話をする前にお聞きしたいのですが、そちらの方は?」




フィオナの視線は、京太へと向いていた。



昨日の歓迎会でも、一応顔を合わせてはいたが、

簡単な挨拶だけにとどまっていた為

フィオナは、何処の誰かを、聞いておきたかったのだ。




国王は、『そんなことか』と言わんばかりに

話始める。




「昨日も紹介したと思うが、

 こちらはイライザの夫で、シャトの街の領主、京太殿だ。」


 


「では、爵位は?」




「・・・・・それは、まだ決まっておらん。

 今後の相談という事に、なっておる」




王の言葉の裏には、

『これ以上は、聞くな』と言う意図があることに気付き、

フィオナは押し黙る。



納得するしかない。



「わかりました。


 それでは、盗賊の襲われた件について、話をさせて頂きます」





フィオナの語った内容は、想像を超えていた。



「半年程前から、貴族派閥の動きが活発となり、

 公爵であり、父の弟の【ナレシュ アクセル】様を

 国王にとの声が上がる様になりました。」




「いったい、何故そんな事になったのだ?」



問いかけるナイトハルト。



フィオナは、一息ついて、話を続ける。



「父は、民の事を想う方です。


 数年前より、民に対する貴族の横暴が、目に付く様になりました。


 以前から、大なり小なりその様な事は、あったと思うのですが、

 それでも大事になるようなことはありませんでした。


 しかし、1年程前に商人の家が取り壊しになる事件が起きました。


 あまりにも、その件数が多かった為に、

 父は、なぜその様な事になったのかを、調べるように命令を下したのですが、

 幾ら待っていても、返答が無かったのです。



 その為、父は独自で調べる事にしたのですが、

 調べて行く内に、商人達の事件には、貴族が絡んでいる事が分かったのです」





「何故、商人達は、家を取り壊される目にあったのだ?」




「それは、今でこそわかっておりますが

 一部の貴族達が、御用商人にしてやると唆し

 高額な品物を要求したことが切っ掛けでした。



 高額な品物を納め、貴族の言いなりになった商人は助かりましたが

 納めることの出来なかったり、

 身の丈に合わないと断りを入れた商人たちの店には、

 翌日から、チンピラのような男たちが現れ、店を荒らし始めたのです。



勿論、商人は、街の警備兵にそのことを訴えましたが

チンピラたちは、捕まることはあっても、

直ぐに釈放されて、再び、店を襲いました。



そうして、二度と店を開けない状態に追い込まれる者や

言われなき罪を被せられて、店を取り壊しになる者も出てきました」


 


「それなら、その貴族達を捕らえれば良いのではないか」




「はい、私もそう思います。


 ですが、いくら調べても確実な証拠が挙がらず、

 何処かで、有耶無耶にされるだけでした」




「それって・・・・・」




京太は、何か言おうとしたが、今は聞く事に専念する。


フィオナの話は続いた。




「はい、役人に賄賂を贈ったり、

 脅したりして黙らせています。


 その為、証拠があっても、取り押さえる事が出来ませんでした」




「そうか・・・・・」




王は、友好国の国の王でもあり、

友人でもある【アンドレイ アクセル】の事を憂う。




「ただ、この事件は、いつの間にか、

 王族の要求に従って、貴族たちが動いた事との噂が広まり、

 王族を非難する声が高まりました。


 すると、無関係だった貴族の間でも、王族に対する非難の声が高まり

 徐々に、『ナレシュ アクセル様を国王に』と、

 推す声が王都に広がり始めたのです。


 その頃から、父は体調を壊して、寝所にて伏せている状態です」




「なんと!・・・」




国王は、思わず立ち上がる。




「父上、落ち着いて下さい」




「ああ、ナイトハルトすまない・・・」




 ナイトハルトに促され、座り直す。




「話を続けて下さい」




「はい、それから暫くして、

 公爵の息子の【ヴァン アクセル】様と

 私との婚約の話が 持ち上がりました」


 


「でも、フィオナ様は、ナイトハルト様の婚約者ですよね」




京太の質問に、フィオナは頷く。



「今回の襲撃は、ナレシュ アクセル様の手の者の仕業だと思います。

 多分ですが、私を捕らえて、強引に妻にする為でしょう。


 そして、現王の体調不良を理由に、王の座を退かせ、息子に王の座を与え、

 ナレシュは、裏から操るつもりだと思います」




「でも、そんな事をしたら、隣国との関係が悪くなるのでは?」




「はい、それも理解しているでしょう。

 何か手があるのかも知れません」




「それは、どの様な?」




「分かりません。


 それに、全ての事に関して証拠がありませんので、

 あくまでも推測の範囲でとしか、言わざるを得ません」




フィオナは言い終えると、再び俯いてしまった。




「フィオナ・・・・・」




隣に座るナイトハルトは、心配そうにフィオナを見ている。



国王は京太へと視線を移す。




「京太殿、良ければ、手を貸して戴けないだろうか?」




――あっ・・・やっぱり・・・・・・




京太に、迷いはなかった。




「勿論です。


 近いうちに、アクセル王国に行ってみます」




「そうか!

 ならば、必要な物は、こちらで用意しよう」




「有難う御座います。


 あと、フィオナ様は、ここに居て頂く事は出来ませんか?」




「それは、構わないが・・・・・どうしてだ?」




「今度捕まれば、どういう目に合わされるか分かりませんし、

 それに、一緒にいる所を見られると、

 動きにくくなりますので、ここに残って頂いた方が有難いです」




「わかった」




国王は、ナイトハルトに目を向ける。



無言で頷くナイトハルト。




話を終え、王宮で寛いでいる仲間の元に戻った京太は

アクセル王国に行く事と、その理由を話すと

話を聞き終えた仲間達も、その場で了承し、

領地に戻ることになった。



京太達の乗ってきた馬車は、王城の裏手の馬房に停めている。



そこに向かって歩いていると

馬車の周りに、人だかりが見えた。




「あれ、何かあったのかなぁ?」



疑問に思いながらも、歩を進めていくと

馬車の周りにいる者達が

服装から、料理人だとわかった。


その中の1人が京太の元へと近づいて来る。




「この獲物は、京太様が獲られたのですか?」




「えっと・・・・・・」




「申し遅れました。

 私は、料理長の【モルド】と申します。


 突然で、申し訳ございません。


いや、これ程立派なボアを見るのは珍しい事でして・・・」



これは、ソニア達が狩った獲物。

京太が、ソニア達を見ると、頷いている。



──ああ、そういう事ですか・・・・・



徐に、京太は馬車からボアを降ろす。




「血抜きもしていないけど、良かった差し上げます。


 皆さんで召し上がって下さい」




「え!?

 宜しいのですか?

 売ればいい金になりますよ」




「いつも、お世話になっていますから」




京太の言葉に、他の料理人達は、

モルドに、『貰ってください』と言わんばかりに視線を送っている。



その視線に負けたモルドは、申し訳なさそうに京太の顔を見た。




「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」




「はい」




京太の了承を得ると、

料理人達は、口々にお礼を述べ、

急いでボアを調理場へと運び込んだ。




京太は、残った獲物をアイテムボックスに収納すると、

領地に向かって馬車を走らせた。




領地に戻った、その日の夕食時、

アクセル王国に行く事を

残っていた仲間達にも伝えると

全員が同行を希望し、夕食後には各々に準備を始めた。





それから3日後・・・

準備を整えた京太達は、アクセル王国へと旅立った。



アトラ王国から、アクセル王国の王都までは、

馬車で約2ヵ月。



結構な長旅である。



その間、京太達は、のんびりと旅を楽しむことにした。






京太達が、アトラ王国を旅立った頃、【ナレシュ アクセル】公爵は、

自身が雇った闇ギルドの者から、フィオナ強奪を失敗したとの報告を受けていた。




「失敗しただと!」




「はい、突然現れた者達に邪魔をされまして・・・・・申し訳ありません」




「ほぅ・・・・・あの国にそんな手練れがいたのか・・・・・

 まぁ仕方あるまい、今は、こちらを優先することにしよう」




「左様でございますか。

 こちらは手筈は、整えつつありますので、もうすぐかと」




そう答えたのは、【ロイス アヴァロン】伯爵。



ナレシュ アクセルと共に国家転覆を企む貴族派で、

古くから続く貴族家の1人息子だ。




両親が急死した事で、突如、後を継ぐ事になったのだが、

元々我儘で自分勝手な性格のだった為、

人に指図される事が、大の苦手なのだ。


今回の国家転覆に参加した理由も、

王家の取り締まりに嫌気が差していた事と

日頃の行いから、今回の出来事で自身の危機を感じたからに過ぎない。




同じ様に悪事を働き、自身の危機を感じた貴族達は、

次々に国家転覆の案に賛同し、保身に走ったのだ。




その為、その者に関係する者達も強制的に従わされることになり、

現在では、国の半分の貴族が、秘密裏に国家転覆を企む反王家派閥となっていた。



ナレシュ アクセルの指示に従い、

着々と仲間を増やしたロイス アヴァロンは、

次の命令に従い、動き始める。




ロイス アヴァロンへの命令とは、王国兵士の多くを取り込むこと。



農家出身の者や、名前だけの準男爵の子供達などが多くいる王国兵士達を

酒、女、金、権力で取り込み、王家の戦力を削ぎ、

貴族派閥の戦力にする為なのだ。



その作戦は、功を奏す。



農家出身の者達は金に目が眩み、準男爵や貴族の息子達は、女に溺れた。


流石に、騎士団長やそれに連なる者達への勧誘は、

王家に発覚する可能性がある為に行っていないが

悪事を働いていた隊長クラスは、見事に勧誘に成功する。



こうした出来事により、アクセル王国、王都の治安は悪くなり、

国民の生活は酷くなる一方だった。




反王家派閥の者達は、この機会を利用し、私腹を肥やしながらも

この現状は、国王の指示だと言う噂を流し、国民の不満を煽った。



王家への反発から、暴行、略奪が増え始めると

これを好機とみなした、ナレシュ アクセルは、

ロイス アヴァロンに対して新たな命令を下した。


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