第48話王女の決断

音楽と共に入って来た国王の家族は、国王を中心に一列に並ぶ。




「今宵は、シャトの街を占拠していた竜魔族討伐を、祝う宴である。

 皆、多いに楽しんでくれたまえ」




国王の挨拶に、拍手が起きる。


拍手喝采の最中、国王が手を上げると、拍手が止む。



「今宵は、他にも伝えたい事がある。

 それは、ここに居る我が息子である第1王子、ナイトハルトが妻を迎えるのだ」




その言葉に、会場がどよめく。




「ナイトハルト様が、ご結婚か・・・」




「何処の国の王女なんだ?」




周囲からは、誰なのかと詮索する声が聞こえて来る。


会場が騒めく中、国王が皆を制止する様に、再び手を上げた。




「皆が驚くのも仕方がない事だが、

 これはこの国にとっても良い事なのだ」




会場は、静かに国王の次の言葉を待つ。




「では、紹介しよう。

 ナイトハルトの妻となるのは、あちらのラム殿とフーカ殿だ」




周囲の貴族は、驚きながらも、歓声と拍手を送る。


だが、突然名を呼ばれたラムとフーカは、

驚きを越して不機嫌になった。




「は!?

 なんで、あんな男と結婚しないといけないの?」




「私も嫌!

 京太さんと一緒にいます!」




ナイトハルトは、そんな二人の機嫌など気にしていない。


壇上から降りると、ラムとフーカのもとへと歩み寄る。



2人の正面に立つ。



「私が、この国の第一王子のナイトハルトだ。

 私の妻になれる事を光栄に思うが良い」



見下した態度、下卑たような笑み。


 

2人は、腕を擦るような仕草をして、京太の方を向く。




「京太さん見て、鳥肌が立ったよ」




「私も、寒気と吐き気がします。」



辛らつな言葉を返す2人の態度に

恥をかかされたと感じとなったナイトハルトの顔が

真っ赤に染まる。




「貴様ら、いい加減にしろ。

 今なら許してやる、この私の物になれ。

 従わないというなら、

 お前の仲間がどうなっても知らぬぞ」




脅しをかけるナイトハルトに、ラムは舌を出す。




「嫌だよ、べーだ!」




「私もお断り!」




「き、貴様ら・・・・・」




国王は驚いていた。

第一王子の妻なら、喜んでなると思っていたのだ。


その為、何故断るのかが理解出来なかったのだ。




――何故、嫌なのだ・・・・・




国王が悩んでいる間に、宰相はこっそり兵に合図を送っている。


元々、宰相は、王家の物にならないのであれば、

捕らえてしまえば良いと考えていた為

どちらに転んでもいいように、近くに兵を待機させていたのだ。




だが、宰相より先に、

怒りが収まらなくなったナイトハルトが叫ぶ。




「この者達を捕らえよ!」




会場内に、兵が雪崩れ込み、京太達の周りを囲む。




京太は、国王に問う。




「王よ、これが貴方のやり方ですか?

 本当に、僕たちを捕らえるつもりですか?」




念を押す様に聞く京太に、国王は、一抹の不安を覚えたが、

答えを待たずにナイトハルトが命令を下した。




「この者達を捕らえよ!

 抵抗するなら、殺しても構わぬ」




命令に従い、武装した兵が襲いかかって来たが、

何時の間にか取り出していた剣で、京太が兵士達を切り倒す。




一瞬の出来事で、何が起きたのか分からない。




「え!?」



呆気に取られていると

ナイトハルトの腕が飛ぶ。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」




会場中に響く悲鳴に、全員の顔が青褪める。




「全員動かないで下さい。

 動いたら切ります」



大きな声でもなかったが、

京太が発したその声は、会場にいる全員に届いた。



京太は、ゆっくりと国王に近づく。



待機している兵達も後退りをしながらも、

一定の距離を保ちながら、国王を守ろうとしていた。




それでも、京太は歩みを止めない。




「これは、どういうことですか?」




京太の周りに、オーラが浮かび上がる。



その雰囲気に、国王は、今更ながら後悔した。



──この少年は、ただの少年では、なかったのか・・・・・



よく考えれば、わかることだったが、

宰相の言葉を信じ、肝心なことを見逃していたのだ。



後悔してもしきれない状況。



再び、命令を下しても、あっと言う間に兵たちは倒されることは理解できる。

だが、次はそれだけでは済まないだろう。



それが、わかっているからこそ、国王は、返事に困った。




そんな状況の中、1人の女性が声を上げる。




「宜しいですか?」




 皆の視線が集まる。

 京太も、声の主に顔を向ける。



「どなたですか?」



「ご挨拶が遅れました。

 私は、イライザ アトラ、この国の第一王女で御座います」




彼女は、軽く会釈をすると、話を続ける。




「京太様、この度の事、申し訳御座いません。

 まず、妻に向かえる話は、

 お父様が、兄上に打診した事から、始まりました。


 『王家の妻にと』言われたら、断る事は無礼に当たるので、

  貴族なら、誰しもがが受け入れますから」




京太は、眉一つ動かさない。




「貴族なら、受け入れるんだ?」




「はい」




「でも、僕は貴族ではありません」




「分かっております。

 父上と兄上は、そこを間違えてしまいました。

 ラム様、フーカ様、この度は、誠に申し訳ございません。

 妻に迎えるという、今回のお話は、無かったことにしていただければと思います」



「謝ってくれれば、それでいいわ」



「私も、それで構いません」



ラムとフーカの返事を聞いた京太は、『ふぅ~』と息をつく。



「2人が、それでいいなら、僕は何も言うつもりはないけど・・・

 でも、同じことを繰り返すのなら、遠慮はしないよ」


 

 「理解しております」



京太達に頭を下げた後、イライザ王女は、

国王と向き合った。


「父上は、兄上を溺愛しているのでお分かりにならなかったと思いますが

 兄上は、権力に物を言わせて

 メイドや平民でも、気に入れば手当たり次第に手を出していますのよ。

 

 父上は、そのことを御存じでしょうか?


 それに、そんなことをしているから

 子供も何人いる事か分かりませんわ」




イライザの告発に、国王は、ナイトハルトを睨み付けた。




「お前は、何をしているのだ・・・・・」




イライザの話は続く。




「次に、京太様方にご不快を与えるために、

 兵を準備したのは、父上ではありません。


 言う事を聞かなければ、

 殺さずとも捕らえようと考えたのは、【フェルナン】、貴方ですね。」




 宰相のフェルナンは、名前を呼ばれて焦る。




――なぜ、バレているのだ・・・・・




フェルナンは、逃げることも出来ず、狼狽えるだけだった。


第1王子であるナイトハルトに、平民、メイドをあてがい

ややこしくなれば、国王に、分からないように

秘密裏に処理をしていたのも、この男である。



今回の事も、ナインハルトのご機嫌を取る為に策を練り、

国王に進言していたのだ。




イライザは、睨みつける。



「その者を捕らえなさい!」



イライザの命令に従い、国王の近衛兵が、フェルナンを捕らえる。



イライザは、京太に向き直った。




「京太様、これで許していただけるとは思っておりません。

 それに、王家の私達に責任が無いとも言いません。

 ですが、どうか、お怒りを収めて頂けませんか?

 改めて、謝罪はさせて頂きますので」




京太は、『分かった』と一言だけ告げると

パーティー会場から仲間たちと共に出て行った。



その後、パーティーは中止となった。






パーティー終了後

王は、1人、執務室に閉じ籠っていた。




――何故、こうなったのだ・・・・・




この状況になって、自身が感じた不安の意味が理解出来たのだ。




――最初に思った通りにすれば良かったのだ・・・・・

  なのにわたしは・・・・・

 


1人で悩む国王。


執務室の扉が叩かれる。



『コンッコンッ!』



「お父様、宜しいですか?」




「イライザか、入れ」




精気の抜けた顔をしている国王に、イライザが言葉を掛ける。




「お父様、しっかりしてください!」




「ああそうだな・・・・・

 イライザ、先程は助かった」




「私は、正直に申し上げただけですわ。

 お父様は、その様な事をする方ではありませんから」




「そう思ってくれておるのか・・・・・

 だが、この後は、どうすれば良いのだ?」




「はい、それについては、私に考えがあります」



イライザは、笑顔をみせる。



「考えがあるのだな」



「勿論ですわ。

 私が、あの方の所へ嫁ぎます」




「え!?」




「お父様、聞いていただけましたか?」




「すまない、私は、耳もおかしくなったようだ・・・・・」




「では、もう一度お伝え致しますわ、

 私が、あの方の所に嫁ぎますの」



国王は、混乱している。



「イライザよ、どうしてその様な結論に至ったのだ、

 儂には、理解できぬ。

 分かる様に説明してくれ」




イライザは、説明をする。




私が嫁ぐことで、この度の愚行を払拭し、

戦う意思が無い事の証明になる事。


京太を他国に取られる心配が無くなる事。


国王の親戚として繋がりが持てる事。




これ以上の策は無いと国王に告げる。




「理解は出来たが、お前は良いのか?

 京太殿は冒険者だ。

 今迄の様な生活が出来るとは思えんが・・・」




「その事は、十分に理解しております」



「本当に、良いのだな」



「はい、勿論ですわ」



「だが、京太殿が、どういうか・・・・・」



「大丈夫です。

 私、頑張りますから」



国王は、イライザの押しに負けた。

 


「そうか、ならばもう何も言うまい」



「有難う御座います」




イライザは、理解を得ると

笑みを浮かべていた。



その様子を見て、王は思う。



――もしかして、好意を抱いていたのか・・・・・







翌日、京太は、王宮の応接室で会う事になった。


京太が遅れて応接室に入ると、そこには王とイライザ以外に、

王妃、第二王子、第三王子、第二王女が待っていた。




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