第47話王宮

サリーが目を覚ますと、そこはベッドの中だった。




「ここは・・・・?」




辺りを見渡しながら、記憶を探る。




――私、気を失ったんだった・・・・・




そこに、メイドが入って来た。




「気が付かれたのですね」




「あの・・・ここは?」




「王宮ですよ、気を失われておられましたので、こちらでお休み頂きました」




「そうですか・・・それで、他の人達は?」




「お仲間の方達なら、国王と面会の最中です。

 助けられた方達は、全員、治療院に運ばれました」




「良かった・・・」




安堵すると同時に、先程の戦いを思い出す。




――私、本当に戦ったんだ・・・・・




サリーは、あの時の事を思い出すと、不思議な気持ちになった。


元々運動は得意では無い。


それに剣の修行もしたことが無かった。


だが、剣を取り、地竜と向かい合った時、相手の動きも良く見え、

ある程度の反応も出来た。




――これが、京太様の恩恵でしょうか・・・・・




まだ、使いこなせてはいないが、確かに京太の恩恵によるものなのは間違いない。


その事に気付いたサリーは、

鍛えれば足手纏いにならなくて済むことに嬉しさが込み上げる。




――頑張って、強くなりましょう・・・・・




ベッドの中で、天井を見ながらサリーは決心した。






その頃、京太達は、会議室で国王と面会していた。


国王の他には宰相が同席している。




「京太殿、此度の活躍、感謝する。

 あの街を取り返せたことも嬉しいが、

 それ以上に、この国の脅威となる竜魔人を打ち取った事に礼を言うぞ」




「お褒め頂き、光栄です」




「それでだ、まずは、これを渡そう」




国王が目で合図を送ると、宰相が綺麗な皮袋をテーブルの上に置く。




「この中には、この度の報酬として、金貨100枚が入っておる」





京太は報酬を受け取る。




「有難う御座います。

 では、失礼します」




京太達は報酬を受け取ったので、席を立つ。




「ちょっと、待って頂けないか?」




宰相が声をかけ、京太達を引き留めた。




「えっと・・・・・何か?」




「いや、まだ話は済んでおらんのだ」




その言葉を聞き、京太達は座り直した。




「そう焦るでない、陛下の話には続きがあるのだ」




宰相に促され、国王は話を続けた。




「本来なら、報酬を渡して終りかも知れんが、

 ちょっとした相談があるのだ」




「相談ですか?」




「ああ、京太殿は、どこかの国や貴族に仕えておるのか?」




「いえ、冒険者ですから、誰にも仕えておりません」




その言葉を聞き、王と宰相は、顔を見合わせると頷いた。




「それなら、この国で貴族にならんか、

 今回の功績があれば誰も文句を言わないだろう」




その言葉に驚いたのは、京太の仲間達だった。




「京太!」




「お兄ちゃん、貴族になるのですか!?」




だが、国王の言葉を聞いても、京太は冷静だった。


国王が相談を持ち掛けて来た時から、薄々そう言う事だろうと思っていたのだ。




「折角のお誘いですが、僕に貴族は務まりません。

 ですので、お断りいたします」




迷いもせずに返答した京太に、国王と宰相は驚く。




「何故だ! 

 貴族になれるのだぞ」




「申し訳ありませんが

 僕は、貴族という立場に興味がありません。


 生活も今のままで十分です」




その態度に、京太を貴族にして繋がりを持つことは不可能だとわかる。



宰相は、溜息を吐く。



「わかった、貴族になれとは言わん、だが、今夜の祝勝会には出席してくれ」




「わかりました」




京太達は会議室を出ると、

新たに王宮に用意された各自の部屋に戻っていった。


京太達が出て行った後、国王は悩む。




――あの者との繋がりを保つ方法は、無いのか・・・・・




考え込んでいる国王に宰相が声を掛けた。




「陛下、如何なさいましたか?」




「ああ、京太殿の事だ。

 あ奴は強い。

 もし、あ奴が他の国に仕える事になれば、

 その国は絶大な力を持つことになるだろう・・・、


 それだけは、塞がねばならん」




「確かに彼は強いですが、それ程とは思いません」




「どういう事だ?」




「彼の仲間には、エルフや伝承に現れる天使族の様な者がおります。

 寧ろ、それらの力があったから倒せたのではないでしょうか?」




宰相の意見を聞き、王は、そう言う事なのかと考えを改める。




「ならば、エルフの少女とその天使族の様な少女を引き入れれば、

 問題がないという事か?」




「左様かと・・・」




「ならば、我が息子に娶らせれば、良いかもしれんのぅ」




「はい、第一王子の【ナイトハルト】様にはこの国の為に、

 他国から妻を娶る必要があるかも知れませんが、

妾、若しくは、 第二、第三王子の【ハーリー】様と【ライナス】様に

嫁ぐのであれば、問題はないかと」




「いや、ナイトハルトの妻で良いだろう。

 正妻の座は、開けておけば良い。

そうすれば、エルフとの同盟も結べるかも知れないのだ」




国王の考えに、宰相も同意した。


国王は、直ぐにナイトハルトを呼んだ。




「父上、急ぎの御用と聞きましたが?」




「ああ、そうだ。

 お前に、妻を娶らせようと思ってな」




「妻ですか?」




「そうだ、正妻については、友好国からと考えておるが、

 その下の妻を決めたいと思っておるのだ」




「その娘は、何処の国の方なのでしょうか?」




「1人は、エルフだ。

 それから、もう1人は伝承に現れる天使族の娘だ」



その言葉を聞き、ナイトハルトは笑みを浮かべる。


だが、国王にその顔を見られる前に、表情を戻す。




「父上の判断に従います。

 その者達が、この国の為になるのであれば、

 私が異を唱える事はありません」




「そうか、受けてくれるのだな」




「はい」




ナイトハルトの返事に、国王と宰相は満足して、頷いた。




「今宵開かれる、祝勝会にその者達も来ておるので紹介しよう」




「はい、宜しくお願い致します」




国王に挨拶をした後、

部屋を出たナイトハルトは、下卑た笑みを浮かべた。




「最近は、人に飽きて来たところだ。

 エルフに天使か・・・・・面白そうだ」




ナイトハルトは部屋に戻り、今宵の準備に取り掛かった。




その頃、京太達はサリーの部屋に集まっていた。




「京太様、ご迷惑をお掛けしました」




「そんな事は無いよ。

 それよりも、今はゆっくり休んでね」




「はい、有難う御座います。

 ですが、もう大丈夫です。

 怪我は治して頂けましたし、体も元気になりました」




「なら、一緒にパーティーに出れる?」




クオンの問い掛けに、サリーは笑いながら答えた。




「はい、勿論です」




サリーの言葉を聞き、全員でパーティーに参加出来る事を喜んだ。


その日の夜、京太達は、王宮で借りた衣装に着替える。




「主、私のドレス、似合っていますか?」




エクスのドレスは、とても可愛らしい黄色のドレス。




「うん、凄く似合っているよ」




「お兄ちゃん、私は?」




クオンはそう言うと、京太の前で『クルリ』と回る。




「うん、可愛いよ、エクスとお揃いの色にしたんだね」




「はい、お揃いです」




2人は、デザインの違う同じ色のドレスを着、

手を繋いで皆の所に戻って行った。




「京太さん・・・・」




次に現れたのは、ミーシャ。


ミーシャのドレスの色は、エメラルドグリーン。

髪と同じ色のドレスだが、胸元が大きく開いた。




「・・・・・」




「京太さん?」




「あっ、ごめん・・・・つい見入ってしまったよ」




その言葉に、ミーシャは嬉しくなる。




「有難う御座います。

 好きなだけ見て下さい・・・」




少し、はにかみながら、

そう伝えてきたミーシャに、また目を奪われそうになる京太だったが

そこに他の仲間達が集まってきた 。




「京太! 他にもいるんですけど!」




ソニアの声に、我に返った京太は、慌てて皆を褒めた。




「皆、綺麗だよ」




「その言葉に、心は籠っているの?」




「勿論だよ、ソニアの青いドレスも、セリカの普段見る事の無い赤いドレスも

 凄く素敵だよ!」




「そ、そう・・・それならいいのよ」




言い方や態度とは裏腹にソニアは、とても嬉しそうにしていた。




「そろそろ行こうか」




時間になり、全員でパーティー会場に向かうと、

会場には、既に大勢の人々が集まっていた。




「凄い人だね」




「これは、わらわの為に集まったのか?」




ラゴの言葉に、京太は笑いながら答える。




「そうだね、

 このパーティは、竜魔人に勝ったから開かれたのだからね」




「ならば、良かろう。

 多いに楽しもうぞ」




ラゴは、ハクとフーカを連れて、

料理の並んでいるテーブルに向かって行った。




「お姉ちゃん、先を越されました」




「エクス、私達も行こう!」




クオンとエクスも、3人の後を追う。



残された6人は、飲み物を受け取ると、周りを見ていた。




「凄い視線ですね」




「そうだね、シャトの街の事が、伝わっているんだろうね」




京太達や料理を取りに行ったクオン達には、周囲の視線が集まっている。




「ここまで来ると、見世物小屋の動物になった気がしてくるよ」




ラムの例えに、京太は思わず笑ってしまう。




「確かに、そんな感じだね」




京太が笑っていると、周りのソニア達もつられて笑った。


そこに、大量の料理を皿にのせた5人が戻って来る。




「主、大変です!

 これ以上料理が、乗りません!」




「エクス、大丈夫だよ。

 食べてから取りに行けばいいから」




「わかりました、では、口を開けて下さい」




「え!?」




「あ~んです、早く口を開けて下さい」




エクスは、フォークに刺した料理を京太の口の前に差し出した。




「主、早くして下さい、次のあ~んが出来ません」




京太は仕方なく、料理を食べる。

すると、エクスの後ろに列が出来始める。




「なんで皆、並んでいるの!」




大勢の視線に晒される中、皆から『あ~ん』をされて料理を食べる事になった。




――帰りたい・・・・・・




『あ~ん』が丁度一周し終えた頃、

盛大に音楽が鳴りだし、国王が家族と共に会場に姿を見せた。

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