第46話奪還

黒竜と対峙した5人は、苦戦していた。


距離を取れば炎を吐かれ、接近すれば爪と尻尾で攻撃を放ってくる。




このままだと、倒せない・・・・・




ソニアは焦りから、無謀にも単身で突撃を開始する。


ソニアは、黒竜の尻尾の攻撃を避け、懐に辿り着いた。




いける!・・・・・




ソニアは、黒竜を切り付けたが、

鱗に阻まれ、傷をつけることも出来なかった。




「え!?」




ソニアは、驚いた拍子に無防備になった。


その瞬間を狙っていたかのように、黒竜は爪で攻撃。




「グハッ!」




直撃を喰らい、防具は裂かれ、吹き飛ばされた。




「ソニア!!」




仲間の呼ぶ声にも反応できず、そのまま地面に叩きつけられる。


バウンドするように転がると、近くの壊れた家屋に衝突して止まった。


フーカは慌てて駆け寄ると、急いで『ヒール』を使う。




「ソニア、ソニア!」




フーカの呼び声に、ゆっくりと目を開く。




「フーカ?・・・わたし」




「大丈夫?」




――私、飛ばされたんだ・・・・・




自分が吹き飛ばされた事を理解し、体を確かめる。




――傷が治ってる・・・・・




「フーカ、ありがとう。

 もう大丈夫だから・・・・・」




「わかった、でも、1人で無茶をしないで!」




「わかった。

 ・・・・・ごめん」




ソニアが落ち着きを取り戻したところで、

フーカが問いかける。




「皆の所に行く?

 それとも、ここでもう少し休む?」




「ううん、もう大丈夫だから

 皆の所に戻るよ」




2人は、戦列に復帰する。




「みんな、心配かけてゴメン!」




「謝るのは後にして、今は、あの竜に集中しましょう」




ミーシャの言葉に、全員が頷き、再び黒竜と向き合った。


先程の攻撃をしたとき、

傷をつけれなかったことを、ソニアが知らせる。




「アイツ、鱗が硬くて、剣で切れなかったよ」




「でも、矢は刺さったよね」




「それは、鱗の間に刺さったのでしょう」




黒竜の背中には、フーカの放った数本の矢が刺さっている。




ミーシャは、少し考えて皆に告げた。




「鱗の部分への攻撃は避けて、

 鱗の無い、腹、喉元を狙ってみましょう」




「わかったわ」




腹、喉元への攻撃に切り替えたが、

黒竜の爪を使った攻撃に、中々腹や喉元を切り付ける事が出来なかった。




苦戦していると、突然、声が掛かった。




「みんな、離れて!」




セリカの言葉に従い、全員が黒竜から距離を取る。

全員が離れると、セリカは魔法を放つ。




「フリージア」




黒竜の足元とその周りは凍り付いたが、

黒竜自体を凍らせることは出来なかった。


だが、動きを鈍らせることには成功した。




前衛を務めているソニア、ラム、ミーシャは、

ここぞとばかりに一斉攻撃を仕掛ける。


3人の連携した攻撃を前に、

黒竜は傷を負い、叫び声を上げた。


『グギャァァァァァ』



「効いているみたいですね」



「そうね、このまま一気に・・・・・」



ソニアの話を遮り、フーカが大声で叫ぶ。




「みんな、離れて!」




フーカは、セリカと同じ魔法を放つ。




「フリージア」




セリカ以上の魔力を持つ、フーカの魔法で黒竜の足は完全に凍り付き、

体は霜が降りたような状態となった。




黒竜は、動きがとれなくなった為、

爪や尻尾での攻撃を諦め、炎で攻撃を仕掛ける。



その炎により、氷が少しずつ溶け始めたが

フーカは、既に次の攻撃の準備を終えていた。




「いっくよー『サンダーアロー』」




雷を纏った3本の矢は黒竜を狙ったが、

氷が溶け始めていた為に、手で払い落される。



だが、払い落とされた矢は、黒竜の足元に刺さると、

溶け始めた氷を伝って電流が流れた。



黒竜は、その電流の餌食となる。



感電し、全身から煙が上がり始める黒龍。




「グギャァォォ!!」




悲鳴を上げた黒竜は、体中に流れた電流により、

大きな火傷を負い、黒い煙を上げている。


通常なら死んでも仕方のないような状態だったが、

黒竜はまだ生きていた。


そして、その様な状態になっても攻撃を仕掛けて来る。



「わぁっと!!

 しぶとい」



攻撃を躱すと、透かさず反撃に出る。



先程迄は、剣を通させない強度を誇っていた鱗もひび割れて、役に立っていない。

黒龍は、蹂躙されるだけの状態になっていた。




そんな黒竜だが、最後の力を振り絞り、

叫び声を上げながら、見境なく暴れだした。



一斉に距離をとるソニア達。


フーカが皆に伝える。



「近くは危険です。

 弓と魔法での攻撃に切り替えましょう」




皆もその指示に従い、魔法や弓を持つ者達は黒竜に攻撃をし、

他の者は黒竜が弱まるのを待った。




無作為に暴れていた黒竜も、

魔法や矢を浴びせられ続けると、動きが鈍くなる。


その隙を逃さず、ソニア、ラム、ミーシャは、一斉に襲い掛かり、

黒竜の息の根を止めた。




「終わったぁぁぁ!!」




地面に腰を落とすラムに、ミーシャが言う。




「まだ、他の仲間が戦っているんです、気を抜かないで下さい」




「分かっているけど・・・・・少しは休ませてよ」




 そんな会話をしている時、

 遠くからこちらに向かって来る集団が見えた。




「あれ、クオン達じゃない?」




「そうですね、あちらも終わったみたいですね」




ソニアとセリカは、クオン達に向けて手を振る。




フーカは、仲間達との合流を上空から見ていたが、

同時に京太を探していた。




――何処にいるのかなぁ・・・・・







皆と別れた後、京太は、真っ直ぐ竜魔族の元にむかったのだが、

今現在、京太の前には、人型の地竜10体が待ち構えていた。




――リザードマン?




ラノベやアニメの知識から、そんな事を思った。




人型地竜の後ろから、竜魔族ベルナルド ギャラガーが現れる。




「なんだ、1人か・・・・・ならば私の出る幕は無さそうだな、やれ!」




命令に従い、人型地竜達は、武器を片手に京太に襲い掛かる。


京太は、倒れ込むように1歩を踏み出す。


その瞬間、姿が消えた。


次に現れた時には、人型地竜達の後方だった。


そして、そのままベルナルド ギャラガーに迫る。




「お前達! 奴は後ろだ!」




ベルナルド ギャラガーは、声を上げたが、

人型地竜達は動かなかった。




「おい・・・・・・」




ベルナルド ギャラガーがもう一度声を掛けた時、

人型地竜達の首が体から離れた。




「え!?」




思考が追い付かず、呆気に取られていると、

目の前まで京太が迫っていた。




「貴方は、竜族ですね」



言葉と同時に振り下ろされる剣。



その剣を、ベルナルド ギャラガーは、なんとか受け止める。



京太を睨み付けるベルナルド ギャラガー。




「貴様、この私を竜族などと一緒にするな!

 私は、ベルナルド ギャラガー伯爵、竜魔族だ!」




「で、その竜魔族が、何の用で此処を占拠し、近隣の村を襲ったのですか?」




「そんな事も分からぬのか、支配地域を増やし、

 この世界を竜魔族の物にする為だ!」




「では、僕の敵ですね」




そう言うと、鎬(しのぎ)を削りあっていた状態から、

剣を引くと、横凪に剣を振るう。



反応出来なかったベルナルド ギャラガーは

上半身と下半身の2つに分かれた。




「貴・様・・・」




何か喋ろうとしたが、その途中で上半身が地面にずれ落ちた。


京太は振り返り、捕らえられている者はいないかを確かめる為に、

その場から去った。




捕まっていた人達は、全員クオン達が逃がしていたので、

京太は仲間達と合流すると、街の外へと歩き始める。




その時、空を飛んでいたフーカが、

焦ったような声を上げた。




「メイドさんが戦っているよ!」




その言葉を聞き、皆は全力で街の外まで走る。


街の外に飛び出すと同時に、目の前に飛び込んで来た光景は、

地竜を相手にし、血だらけになりながらも、

捕らえられていた人達を守るサリーの姿だった。



「サリー!!!」



焦りよりも、怒りが込み上げる。


再び剣を抜き、地竜達に襲いかかる京太達。


フーカは上空から弓を放ち、

他の者達は、目に付く限りの地竜を切り伏せた。




この地竜達は、近隣の村を襲いに行っていた地竜達だった。


クオン達が、助け出した人達をサリーに預けた後、

地竜達は現れたのだ。


捕らえられていた者達は、食事を与えられておらず、

戦える状態では無かった為、

サリーは、京太から預かった剣を持ち、地竜達を相手にしていたのだ。




サリーは、初めての戦闘で、恐怖を感じると思っていたのだが、

それ以上に、この人達を守るという使命感の方が大きかった為に、

恐れたり、震える事も無かったのだ。



だが、地竜10頭を相手にするのは難しく、

尻尾での攻撃や体当たりをされて、ボロボロになっていた。


──時間を稼ぐ事しかないのね・・・・・・



そう考えたサリーは、無理に倒す事をせず、

時間を稼ぎ、仲間達の到着を待っていたのだ。



その作戦は、成功し、地竜達の殲滅の成功する。



地竜が倒されたことに安堵したサリーは、

ゆっくりと、腰を下ろす。



京太が、サリーに駆け寄る。

続いて、仲間達もサリーのもとへと駆け寄った。



「サリー大丈夫?」



京太に向き直り、笑顔を見せるサリー。



「はい、なんとか持ちこたえる事が出来ました」




「ありがとう、頑張ったね」




その言葉を聞き、微笑んだ後、サリーは気を失った。

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