第44話竜対策

国王が、知識ある者達を集めている頃、

シャトの街の竜魔族ベルナルド ギャラガーは、

新たな召喚を行っていた。


『出でよ、我が眷属よ』


召喚されたコモドドラゴンに似た【地竜】は、4本足で行動する事もあるが、

普段は2本足で行動し、武器も使いこなす。



地竜は数が増えると、シャトの街を飛び出し、近隣の村を襲い始めた。




その情報は、王都にも届き、王国は兵を出して討伐に向かった。


だが、想像以上に強く、

地竜10頭に対して王国兵100人でも苦戦する有様だった。



勿論、冒険者ギルドにも依頼を出したが、シャトの街での噂も広まっている為に

依頼を受ける者は、殆んどいない。



シャトの街での戦いに参戦した冒険者達は討伐に参加したが、

敵の数が多く、それだけで補える状態ではなくなっていた。




国王に命令され、謁見の間に集まっていた貴族達は、

我、関せずを貫いていたが、

自分達の領地にも危機が迫った事を知ると、態度が一変する。




「陛下、このままでは、敵の数が増えるだけです。

 兵に地竜の討伐を行わせているだけでは埒が無いと思われます。

 根本的な問題でもある、シャトの街の竜共を討伐する手段を考えましょう」




【アイゼン ヴァイス】公爵の言葉に、苛立ちを隠さずに国王は答える。




「分かっている!

 その為に毎日この様に集まっているのではないか!」




国王は、今まで参加するだけだったが、自身の領地が危険にさらされると

慌てて発言した公爵の態度が気に入らなかったのだ。


苛立ちを隠さない王の姿に、貴族達は状況をやっと理解した。




――このままでは、国が・・・いや、先に、領地が無くなるのではないか・・・・・



そう思ったが、貴族達に対抗する手段がある訳でも無く、

絶望的状況に、今迄以上に俯いてしまった。




――やはり無理なのか・・・・・




王の嘆きに答える者も無く、時間だけが過ぎて行く。


その時、1人の貴族が手を上げた。



貴族の名は【デュラン アイビス】伯爵。




「陛下、手段と言う訳ではありませんが、兵力は多いに超した事はありません。

 ですので、近郊の街の貴族やギルドにも応援を頼んでみては如何でしょうか?


 通常より、高額で依頼を出せば、集まるかも知れません」



今までも、それなりの依頼は、王都の冒険者ギルドを通して

おこなってきた。


だが、状況は芳しくない。


しかし、依頼料を高くし、報奨金も出せば、もう少し集まるかもしれないと思い、

デュラン アイビスの意見を採用する。



「そうだな、何もしないよりは、マシか・・・」




「はい、1日でも早い方が良いかと思います」




デュラン アイビス伯爵の意見を受け、王は近隣の貴族とギルドに応援を求めた。


ギルドの持つ魔道具により、その依頼は近隣のギルドに短期間で伝わった。


その中には、アルの街の冒険者ギルドも含まれている。


依頼を知ったクラウスは、この危機を救えるのは京太だけだと直感する。


しかし、京太について細かく説明する事が出来ない為に、各ギルドに、


『京太と言うエルフを連れた少年を探し、事件の内容を詳しく話せ』とだけ伝えた。




その情報を受け取ったギルドマスター達は、

疑問に思いながらも古参のクラウスを信じ、京太を探し始めた。



情報を受け取った王都のギルドも京太を探すと同時に、この事を王宮に伝えた。


謁見の間で話を聞いた王は、見つけ次第連れて来るように指示を出す。


しかし、話を聞いていた貴族達は、陰で笑った。


『この国の一大事に、子供に何が出来るのか』と・・・




だが国王は、そうは思えなかった。


ギルドの上層部が必死になって探している状況。


そんなことは、今までにはなかったことだ。


京太という少年には、それだけの理由があるのではないか。


ならば、直接会い、今回の詳細を自ら説明をすると言い放った。




「ですが陛下、この大事に陛下の御身に何かあっては、示しがつきません」




「なら、誰かを傍に置こう」




その言葉に、手柄が欲しい貴族達は、自分をと、立候補した。


しかし、王は宰相とクーパー魔法士団団長を指名した。




王宮で、その様な話が行われていた頃、

京太達は、長旅の疲れを癒す為、王都で散策を楽しんでいた。


勿論、シャトの街の事も耳には入っていたが、

あまり冒険者ギルドにも顔をだしていなかったので、

単なる討伐依頼だと思っていたのだ。


『今は、依頼より、ゆっくり休息をとろう』


その京太の考えに、賛同した仲間達もそれぞれに楽しんでい毎日を送っていた。



ただ、そうして生活を送っていても、ギルドに顔を出すことはある。




とある日、 気楽な感じでギルドに顔を出すと、

いつも以上に視線が集まる。



不思議に思いながらも、依頼ボードに向かうと、

そこに貼ってある不思議な依頼を目にした。




「京太、これ・・・・・」




依頼ボードには、『京太と言うエルフを連れた少年を探している』

という依頼が貼り付けてあった。




「これって、僕の事だよね」




「それにエルフって私とミーシャの事でしょ」




お互いに顔を見合わせた後、受付に向かった。


最近は、顔を覚えてくれていたらしく、気軽に話掛けられた。




「今日は、どうされたのですか?」




「あの、あそこの依頼の京太って、僕の事ですけど・・・・・」




それを聞いた職員は驚いていた。




「そう言えば、お名前を聞いていませんでしたね」




「そうですね、この街では、依頼を受けていませんから」




そう伝える京太に、職員はギルド証の提示を求めた。




「これです」




差し出されたギルド証には、Cランク、京太の名前があった。




「暫くお待ちください」




職員は慌てて席を立ち、ギルマスに報告に向かう。


ドカドカと足音が響く中、ギルド マスターのロバートが現れた。




「あなたが、京太さん?」




驚いたような顔で聞いて来た。




「はい、僕に御用ですか?」




ロバートは、言葉に出来ない程の衝撃を受けていた。


それは、ロバートの中の京太という少年は、もっと大人びた感じで、

強者のオーラを纏った男だと思っていたからだ。


だが、目の前の少年は、その辺りのチンピラでも倒せそうな雰囲気の子供だった。




「あの・・・・・用が無いのなら帰りますけど・・・」




京太の言葉に、現実に引き戻されたロバートは、ある事を聞いた。




「貴方は、アルの街のギルドマスターをご存知ですか?」




万が一の事を考え、出来るだけ丁寧に問う。




「アルの街?

 クラウスの事かな?」




ラムが答える。




「うん、あそこのギルマスは、クラウスだよ」




「そうだよね」




その会話を聞いていたロバートは、間違いが無い事が分かり、

急いで応接室に案内をする。


応接室に案内している間に、

王城に京太を見つけたと報告した。



その一報を聞いた国王は、ギルドに迎え馬車を送る。




――王都にいたとは・・・・・これは、吉報かもしれぬ・・・・・




ギルドの応接室で待っている京太達の元には、お菓子とお茶が運ばれていた。


運んできた職員は、

『ここでお待ちください』とそれだけを伝えると部屋から出て行った。


その為に、ここに居るのは、京太の仲間だけ。




暫く待っていると、ロバートが入って来た。




「待たせてすまない、私はギルドマスターのロバートだ。

 陛下から、君達を探す様に言われていてね」




「俺達、何か悪い事をしましたか?」




「いや、そうでは無い、国からの依頼を受けて貰う為だ」




「依頼?」




「詳しい事は後で聞く事になると思うが、

 シャトの街の事件を君達に頼みたいのだ」




――あの依頼か・・・詳しい話が聞けそうだな・・・・・




京太は、そんな事を思いながら、お茶を飲んだ。


気楽にしていると、応接室の扉が叩かれ、迎えが来た事を告げられた。


ロバートに連れられて外に出ると、立派な馬車が3台並んでいる。




「これに乗ってくれ」




ロバートに従い、馬車に乗り込むと、

馬車は、王城へと走り出す。


王城に着くと、入り口で宰相が待っていた。




「京太殿とその御一行の方々、

 お待ちしておりました。

 こちらに、どうぞ。

 ご案内いたします」




宰相に案内されたのは、謁見の間ではなく、会議室だった。




「どうぞ、お好きにお座りください」




宰相の言葉に従い、京太達は適当に席に着く。


京太の隣には、エクスとクオンが座る。




「あんた達、たまには譲りなさいよ!」



ソニアの言葉に、フーカとミーシャが頷く。



だが、クオン達は反抗する。




「早い者勝ちです」




「その通りです」




その光景に、同伴したロバートは、頭を抱えた。




――クラウス・・・・本当に、信じていいのか・・・




言い合いをしていると、扉が開き、

宰相、国王、クーパー魔法士団団長と続いた。




京太達が席を立とうとしたが、国王が止めた。




「よい、そのままで構わん」




京太達は座り直す。




「今日は、呼び立てて申し訳ない。

 私はアトラ王国国王、【エイリーク アトラ】だ。


 君達を呼んだのは他でもない、シャトの街に現れた竜魔人と黒竜についてだ」




――竜魔人? 黒竜? 




王は、事件のあらましを語った。


盗賊の占拠した街の開放に向かい、手負いになった盗賊が召喚したのが竜魔人と黒竜。


その者達を倒す事が出来ず、兵は撤退した。


また、奴らは仲間を召喚し、近隣の村を襲っていると教えてくれた。




「それで、僕達に何をしろと仰るのですか?」




「ああ、その事だが、出来る事なら、あ奴らを倒して欲しい」




――ああ・・・やっぱり・・・・・




国王は、話を続ける。




「勿論、それなりの依頼料は払おう」




「でも、村を襲っている敵は、どうするのですか?」




「それは、わが軍と冒険者達でなんとかしよう」




「わかりました。

 それで何時、向かえばいいですか?」




「それは、そちらに任せる、必要な物は準備しよう。

 王宮の宝物庫の中には剣などの武器もある。

 後で案内するので、必要な物は使ってくれ」




「有難う御座います」




京太が礼を言い、話は終ったのだが、

この提案に、納得していない者がいた。


クーパー魔法士団団長だ。



彼女は、王に直訴する。


彼女は、片膝を付き、頭を下げる。



「陛下、どうか私が彼らに同伴する事をお許しください」



 国王は京太を見るが、京太は首を横に振った。



「すまない、そなたの気持ちも分かるが、

 主が入れば、彼らの迷惑になるかも知れん。

  なので、それを許す事は出来ん」




その言葉に、唇を噛み締める。




――私が、迷惑・・・足手纏い・・・・・




クーパーは、京太を睨み付けた。




「私は貴方の力を知らない、貴方も私の力も知らない。

 それなのに、迷惑と思われるのは心外だ!


 手合わせをして頂きたい、私が負ければ大人しく引き下がろう」




王は、京太の力を見る良い機会と考え、対決を許す。




「わかった、許可しよう。

 京太殿も受けて貰えないだろうか?」




京太は、ため息を吐いた。




「勝手に呼び寄せておいて、

 力を見せろとか・・・・・

 はぁ・・・

 まぁ、陛下の御命令なら、仕方ありませんけど

 これ、別料金ですよ」



その言葉に、国王が返事をするより先に、

クーパーが突っかかる。


「ああ構わん。

 その代金は、私が払ってやる。

 ただし、貴様が私に負ければ、わかっているだろうな・・・」



クーパーの顔は、怒りに満ちていた。




京太は、クーパー魔法士団団長との対決を受ける事になった。


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