第43話シャトの街2

シャトの街を占拠している、盗賊団の団長【ゴットフリート】のもとに報告が届く。




「報告します、王国の兵士達が、門と関係の無い所に兵を配置しております」




「壁を飛び越えようとでもいうのか?」




「わかりませんが、用心をした方が良いかと」




「わかった、王国兵が集まっている所からは、

 目を離すな。

 後、直ぐに動けるように仲間を集めておけ」




「はっ!」




盗賊の部下が、ゴットフリートに背を向けた瞬間、

大きな音が響き、地面が揺れた。


体勢を崩すゴットフリートと、その部下。




「何の音だ!

 これは、何の音だ!!!」




街に響いた音は、継続して繰り返され、地面の揺れも続いている。


盗賊達は、立ち上がる度に体制を崩して、上手く動けない。




その間も、クーパーの作戦は続いている。


クーパーの作戦とは、門には魔術結界が張られているので、突破は不可能と考え、

街を守る壁に、極大魔法を連続して叩き込む方法だった。




どんなに厚みのある壁でも極大魔法を連続で放たれたら、崩れるのは当然の事。


3ヵ所の壁は、とうとう大破し、王国軍は侵入口を開いた。




クーパーは、次の指示を出す。




「冒険者は、人質の確保を優先。

 王国兵は、盗賊の排除に向かえ!」




突入した兵士と盗賊たちの戦闘が始まり、

敵、味方乱れての混戦になった。


一進一退の攻防を繰り返す中で、負傷者を出しながらも冒険者達は、

捕らえられた街の人々を発見した。




「俺達は、王都から派遣された冒険者だ、ここから逃げるぞ」




街の住人は冒険者達の指示に従い、脱出を始める。


だが、街の外まであと少しの所で、盗賊達に道を塞がれた。



冒険者たちは、武器を構える。



「ここは俺達が守る。

 お前達は先に行け!」




Aランク冒険者チーム〈ハヤテ〉のリーダー【モーセ】は、

他の冒険者達にそう告げると、盗賊達に向かって走りだす。


モーセに続き、〈ハヤテ〉のメンバーも盗賊達に向かう。




「早く行くんだ!」




他の冒険者達は、〈ハヤテ〉のメンバーにこの場を任せ、

街の住人達の脱出を優先した。


「走るぞ!」


街の住人は多く、全員を逃がすには、まだまだ時間がかかる。


その為には、敵の攻撃を防ぐ必要があった。


だが、敵の数は多く、〈ハヤテ〉のメンバーだけで防ぐには限界がある。



圧され気味になると、他の冒険者が声を上げる。




「今度は、俺達の番だな」




「ああ、付き合うぜ」




名乗りを上げたのは、〈ハヤテ〉と同じAランク冒険者チーム〈クレナイ〉だった。


〈クレナイ〉のメンバーは、建物を魔法で崩し、通り道を限定させた。




「これで、敵の進路を絞れるな」




「ああ、そう言っている間にやって来たぜ」




〈クレナイ〉のメンバーの前には、盗賊達が迫っていた。




「全員、生きて帰るぞ!」




リーダー【ハインリヒ】の号令に、

メンバーは気合を入れ直して盗賊達に戦いを挑んだ。






その後・・・2日間に渡って繰り広げられた戦いも

住民を逃がした後、冒険者達も戦いに加わったおかげで

王国軍の勝利が見え始める。




しかし、追い詰められた盗賊の団長ゴットフリートには、

最後の手段が残っていた。




「このままで終わってたまるか。

【グラント】、お前の命、使わせてもらうぞ」




「はい、この国に仕返しが出来るなら

 命など惜しくはありません」




「そうか、感謝する。

 私も直ぐに後を追う。

 先に行って、待っていろ」




「はい、お待ちしております」




ゴットフリートは剣を抜き、懐から大きく真っ黒な宝石を取り出すと、

グラントの正面に立つ。




剣先をグラントの胸に当てると、一気に突き刺した。


『うぐっ!』


剣を抜くと、グラントの胸に開いた穴に手を突っ込み

心臓を取り出したゴットフリート。


その心臓を、黒い宝石の上で握り潰し、

流れ出る血を黒い宝石に垂らすと、呪文を唱える。


「我が願いを叶えよ、対価はこの血と贄とする命」


唱え終えると、黒い宝石は血を吸い込み、怪しく、黒く光始めた。



黒い光は徐々に広がると、その中から真っ黒な竜が姿を現す。


竜は、黒炎を吐き出し、敵、味方関係なく焼き払う。


竜は、咆哮を上げながら街の中を歩き、人も街も潰す。



その光景に、満面の笑みを浮かべるゴットフリート。




「次は、私の番だな。

 グラント、私もそちらに行こう」




そう言うと、懐から黒い宝石をもう一つ取り出した。


ゴットフリートは、その黒い宝石を飲み込むと、己の心臓に剣を突き刺す。




「我が願い・・叶えよ・・・対価は・・・・・ 血と肉と・・・・命・・・」




ゴットフリートは、唱え終えると、息を引き取った。



しかし、呪文を唱え終えたゴットフリートの体に変化が起きる。


体から、黒い霧のようなものが現れると

ゴットフリートの体を、繭のように包み込んだ。



そして、暫くすると、黒い繭から

死んだはずのゴットフリートが現れた。



しかし、ゴットフリートと思えない体つきと顔をしている。



ゴットフリートは、起き上がると、確かめる様に手を動かした。




「ふははははははぁぁ!!

 まさか、人族に召喚されるとは・・・」




ゴットフリートが召喚したのは、

この世界の最果てに住むといわれる竜魔族だった。



竜魔族は、街の上空に飛び上がると、

下に見える王国兵士達に告げた。




「我は、竜魔族【ベルナルド ギャラガー】伯爵だ。

 これより、この地は、我が領土となる。

 汝らには、贄となっていただこう!!!」



その言葉に、怒号が飛び交う。



「貴様の思い通りには、させんぞ!!!」



怒りを覚えた王国軍は、

上空から見下ろすベルナルド ギャラガーに向けて

一斉に魔法を放った。



ベルナルド ギャラガーは、全ての魔法の直撃を受けたが傷一つない。



埃を払うような素振りを見せる。



「なんだ、今のは?

 それが、人族の使う魔法か、か弱い・・・・・

 生きる価値も無いなぁ」



そう告げると、ベルナルド ギャラガーの姿が消える。


そして、1人の魔法士の前に姿を現した。




「クズめ・・・」




呟いた言葉と同時に、魔法士の胸に手を突き刺すと、心臓を取り出した。


血を吐きながら倒れる魔法士。


ベルナルド ギャラガーは、気にする素振りも見せず

取り出した心臓を飲み込んだ。




ゴクッ・・・



その味に、笑みを浮かべる。



「人族は、家畜にするといいかも知れんな」




その様子に、王国兵士達は恐怖を覚えた。




「に、逃げろ!

 撤収、撤収だ!」



叫び声にも聞こえるような命令に従い、

兵士達は、武器を放り投げて逃亡を計る。


だが、黒竜とベルナルド ギャラガーに遠慮はない。


目に付いた人々に襲いかかった。


黒竜は、人を丸呑みし、ベルナルド ギャラガーは、心臓を好んで食べた。




街の中を逃げ惑う兵士達だったが、崩壊させた壁を抜け、街から飛び出すと

黒竜とベルナルド ギャラガーは、追って来なかった。



その事が分かると、クーパーは、監視の為の兵士を残し、

生き延びた者たちと共に、王都に引き上げた。




王都に戻ったクーパーは、直ぐに王に面会を求める。


しかし、会議中につき、会う事が出来ない。


だが、至急知らせねばと思い、火急の用だと告げた。




すると、宰相の【フェルナン クロード】が姿を見せる。



「クーパーよ、火急の用とのことだが・・・・」



「はい、一大事で御座います」



クーパーは、あと少しで盗賊を殲滅できると思えた時に、

黒竜と竜魔族を召喚され、蹂躙されたことを伝えた。


あまりの出来事に、フェルナン クロードの額から汗が流れる。




「クーパーよ、それは、事実か!」




「はい、全て事実です」




宰相は、頭を抱えた。




「どうすればいいのだ・・・・・」




「至急、陛下にお伝えして欲しいのですが」




「ああ、お伝えせねばなるまい」




クーパーを伴いフェルナン クロードは国王のもとへと向かった。


会議中だったが、フェルナン クロードは、王のもとに行き

耳打ちをする。



「陛下、実は・・・」



その内容に、国王も動きが止まる。


お互いの顔を見合わせた後、

集まっていた貴族たちに説明するようにフェルナン クロードに告げた。


「たった今、そこにいるクーパーより報告があった。

 それは、現在、盗賊の壊滅をおこなっているシャトの街についてだ」


フェルナン クロードが謁見の間に集まっていた貴族達に報告すると

貴族たちは顔色を無くし、狼狽えるばかりだ。



フェルナン クロードは、国王に向き直る。



「陛下、如何なさいますか?」




王は解決策が見つからず、貴族達に問う。




「誰か、いい案は無いのか?」




貴族達は、下を向き目を合わせようとはしない。


王は、貴族たちに、明日、改めて集まる様に伝えてから

その場から離れた。



誰しもの脳裏に浮かんだ言葉は同じ。



――どうしたら良いのだ・・・・・



この事件を知った貴族達は、眠れぬ夜を過ごすことになった。



翌日、謁見の間には、宰相や貴族を始め、

知恵のある者達が集められた。


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