第15話京太の怒り
「ここが市場?」
周囲を何度見渡しても、屋台は無く、空いている店も殆ど無い。
「取り敢えず、行ってみよう」
皆を誘い、ウーゴ商会に向かう京太。
ウーゴ商会の扉は空いていたが
中に入っても、商品は並んでいなかった。
思わず立ち尽くす京太たちに、女性店員が話しかける。
「お客様、申し訳ありません、今は売る物がありません」
「え!?」
女性の店員は、この街の現状を口にする。
「この街には、何処にも売る物はありません。
それどころか、食べる物も殆ど無いのが現状です。
ですので、この街から早く旅立たれた方が良いですよ」
「そうなんですね。
僕達は、冒険者で、依頼を受けてウーゴ商会に来ました」
京太は、手紙を渡す。
手紙に目を通した女性店員は、口元を抑えながら涙を流した。
「ありがとう、感謝します」
女性は、手紙を抱きしめた。
「荷物は、何処に置きますか?」
目元を拭った情勢店員は、京太と向き合った。
「すいません。
では、こちらにどうぞ」
向かった先は、この店の倉庫。
当然何もない。
「ここにお願いします」
女性の言葉に従い、アイテムボックスから、馬車1台分の荷物を取り出した。
「こんなに、あるなんて・・・・・」
驚きながらも、笑みを浮かべる女性に、
京太が問いかける。
「ところで、ウーゴさんは、居ないのですか?」
京太が問いに、女性は、悲しげな表情をしながらも話し始めた。
「ウーゴは、もういません」
「どういう事ですか!?」
「申し遅れました、私は、ウーゴの妻の【イルミナ】と申します。
ウーゴは、店の商品を仕入れる為に1人で旅に出ました。
ですが、数ヵ月後、盗賊に殺され、死体となって戻って来ました」
「え・・・・・」
京太は思い出す。
──この辺りは、盗賊が蔓延っていたんだった・・・・・
「嫌な事を思い出させてすいません・・・」
「いえ、もう、吹っ切れていますし、ウーゴの最後の仕事の商品が届きましたから」
ウーゴは、持って帰る商品とは別に、
アルの街で仕入れをしていたのだった。
それが、今、京太の手によって、ウーゴ商会に届いたのだ。
イルミナは、帳面を手に持ち、商品を調べ始めた。
その顔には、笑みが浮かんでいた。
荷物を渡した京太たちは、声をかける。
「イルミナさん、では、失礼しますね」
手を止めるイルミナ。
「あっ、すいません。
本当に有難う御座いました」
ウーゴ商会を出ると、京太は、市場だというこの場所を、再び、見つめていた。
──許せない・・・・・
京太の心は、抑えきれない怒りに満たされていく。
――貴族の為に平民を追い詰めて、楽しいのか・・・・・
盗賊を騙って物を奪い、命も奪って楽しいのか・・・・・
そこまでして、私腹を肥やしたいのか・・・・・
京太の思いに反応するように、京太の体を包むように、
可視化出来る程の怒りのオーラが浮かび上がっている。
それに反応するように、晴れていたサバクの街の上空に、暗雲が広がり始めた。
その頃、領主【ナハマ オルン】伯爵は、
兵士の報告を受けて下卑た笑みを浮かべていた。
「最近は、この街に来る旅人も減ったからのぅ」
「はい、ですが今回訪れた男のガキと女共は、どう見ても上玉です」
「そうか、そうか、今晩あたり攫って来るのだぞ!」
ナハマ オルンは、兵士に命令を下した。
「はい、必ず連れて参ります」
「うむ、頼んだぞ」
「はっ!」
2人の会話が終わる頃、暗雲は、完全にサバクの街を覆っていた。
日中なのに、夜の闇ように、暗く染まっている。
領主の屋敷の門番は、急いで明かりを灯してみたが、視界が悪い。
「どうなっているんだ?
こんな事が、あるのか・・・・・」
「わからねぇよ。
こんな事、はじめてだぜ」
門番の2人が会話をしていた時、一瞬、上空が光った。
すると、上空から大剣の形をした雷が、
轟音を響かせて、領主の屋敷を直撃した。
次の瞬間、地響きが起こり、
サバクの街は、目が開けれない程の光に満たされた。
光りが収まると、屋敷があった場所には、クレーターが出来ていた。
それと同時に、余波で貴族街の半数の屋敷も消滅している。
奇しくも生き残った貴族達は、この出来事に心の底から恐怖に包まれた。
「何が・・・あったんだ・・・・・」
「神の怒りにでも触れたのか・・・・」
貴族達が、口々に勝手な事を言っていた頃、各地の教会では、騒ぎが起きていた。
教会には、神の声を聞く事の出来る者がいた。
巫女である。
同日、巫女達は、恐れ慄いた。
それは、神より聞こえて来たのは、恨みを含んだ怒りの言葉だったからだ。
《己の利益の為に平民を追い詰めて、楽しいのか・・・・・
盗賊を騙って物を奪い、命も奪って楽しいのか・・・・・
そこまでして、私腹を肥やしたいのか・・・・・》
巫女達は、何処かに天罰が下るだろうことを各々の街の教会長に伝えると
教会長達は、一斉に情報を集める様に指示をだした。
その頃、サバクの街の教会の神父は、
今まで、見て見ぬ振りをして来た事を後悔していた。
巫女により伝えられた言葉は、この街の事だったからだ。
それを証明するように、この街に降り注いだ天罰の恐ろしさに畏怖していた。
――私は、何てことを・・・・・
懺悔をしようにも神の声は、巫女にしか聞こえず、
ただ、膝を付き許しを請うしかない。
「神よ、どうかお許しを・・・・・」
必死に願う神父の後ろで、サバクの街の巫女は、
他のことを考えていた。
今までも、お告げを聞いたことはある。
だが、今回ほどはっきりと聞こえたことはない。
今回のお告げは、まるで近くから発せられたように思えたのだ。
「もしかして・・・・・」
――この街に神が降りて来ているのかも・・・・・
だが、調べる手立ても無く、この場を離れる事も許されていない巫女は、
その事を心の奥にしまう。
――神様のご意思を大切にしましょう・・・
巫女は、再び祈り始めた。
この世界には、それぞれ12人の神を奉る神殿や教会がある。
祀る神が違う為に、啓示も違う。
だが、この度の神の言葉は、全ての教会の巫女に同じ時、同じように伝わっていた。
その為か、全ての神がお怒りになっておられると勘違いを招き、
各々の国々は、戦々恐々としていた。
だが、実際は、言わずもがな12人の神の力や全ての遺産を受け継いだのが
京太1人だったからだ。
そのことを知る由もない教会関係と国々は、必死に原因究明に努め始めた。
一方、怒りのまま、天罰を振るい、領主を屋敷ごと消した京太は、
自らの力に驚いていた。
――天罰怖えぇぇ・・・
今度からは、自重しよう・・・
京太から、怒りのオーラが消えると同時に、暗雲も消えた。
「一体何だったの?」
「なんか・・・凄かったですね」
「お兄ちゃん・・・何をしたの?」
「ん、ちょっとね」
不思議そうにクオンが、京太の顔を覗き込む。
笑ってごまかすが、
『今後も一緒にいるのなら話すしかない』と思い始めていた。
でも、今はそれよりも、この場所から早く立ち去りたい。
そう思った。
「あのさ、取り敢えずここから離れない?」
「そうね・・・」
京太の意見に従って、皆は移動を始める。
サバクの街を出発し、京太達が向かったのは、砦だった。
砦に辿り着くと、メイド達が集まって来た。
「旦那様、お帰りなさいませ」
――もしかして・・・僕の事かな?
自分の事だと信じ、挨拶を返す。
「ただいま、こっちは大丈夫だった?」
「はい、一度、凄い地響きがありましたが、壊れた場所もありませんでした」
「そう・・・良かった」
『ホッ』とする京太に、メイド達は、不思議そうな顔を見せる。
ソニア、セリカ、クオン、サリー、ノルン、ラムは、ジト目で京太を見ていた。
京太は、慌てて話題を変えた。
「取り敢えず、お腹が空いたかな」
「畏まりました。
それでは、直ぐにご準備致します」
メイド長のスミスは、一礼をするとメイド達に指示をだした。
食事が出来る迄の間に、京太は、皆に自分の事を話す事に決める。
「ちょっと、いいかな」
その言葉に反応したのは、ソニアだった。
「いいわよ、どこで話す?」
「僕達だけになれる場所がいいかな」
「なら、いい所があります!」
セリカは、そう言うと皆を案内した。
案内されたのは、広場に建っていた倉庫だった。
「ここなの?」
「はい、誰も来ませんよ」
「そうだね・・・・・」
京太は、倉庫に防音結界を張り、
外部に声が漏れない様にした。
「えと・・・これから話す事は、秘密にして欲しい。
もし、守れそうにないなら、ここから出て行ってくれるかな」
その言葉に、ソニアが直ぐに反応した。
「誰も出て行かないわよ、それに守るから安心してよ」
「ありがとう」
京太は、自身の事を話し始める。
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