第14話サバクの街

アジトからサバクの街迄は、1日半の距離。


途中で一度、野宿をする事になったが、それなりのメンバーが揃っていたので、

京太は狩りをする事にした。


同行者は、エルフのラムだ。




日が落ちて来て、暗くなった森を京太は、何でもない様に進む。


その姿に、ラムは、不思議に思う。




――この男は、見えているのか?




ラムは、京太に遅れないように付いて歩く。


ラムは、森の住人エルフ、森を歩く事なんて当たり前の事だが、


人族の京太が、暗い森の中をスイスイと歩く姿に、

何とも言えない違和感を感じずにはいられなかった。




――本当に何なんだこの男は・・・・・




暗闇の中に潜んでいる獲物を見つけると、

京太は、市場で購入していた短剣を投げた。


その剣は、獲物の頭部に命中し、倒れた。




――よし、成功だ!




獲物は、牙の生えた兎だった。




「ラビットファングですね」




「美味しいの?」




「ええ、美味しいですよ」




京太は、その後もラビットファングを狩り続けた。


その数、26匹。




「結構、獲れたね」




「獲り過ぎです・・・・・」




「あははは・・・」




ラビットファングをアイテムボックスに収納する。




「あの・・・・・さっきから気になっていたのですけど、それは・・・?」




「アイテムボックスだよ」




ラムは、不思議そうな顔で見ていた。




「魔法の道具ですか」




「そんなものだよ」




それだけ伝えると、京太は、皆の元に戻ることをラムに告げる。




「帰りましょう」




「そうね」




2人が野宿している場所に戻ると、既に食事の準備が終わっていた。




――あれっ、間に合わなかった・・・・・




ラビットファング狩りに夢中になり過ぎて、完全に時間の事を忘れていたのだ。


2人の姿を見つけたソニアが声を掛ける。




「おかえり、どうだった?」




「うん、獲れたけど、遅かったみたいだね」




「あははは、いいよ、気にしないでよ」




ソニアは、そう言うと京太の手を引き、食事の準備が終え、

待っていた皆の元に連れて行く。




「お兄ちゃん、お帰り!」




クオンが、手を振って迎える。


だが、京太とソニアが手を繋いでいる事に気が付くと、目を細めた。




「むぅ~」




「クオン、ただいま。

 待たせてしまったね、ごめんよ」




「待っていません!」




クオンは、冷たくソッポを向いた。




――どうしたんだろ・・・・?




クオンの機嫌が悪くなった理由が分からない京太は、皆からため息を吐かれた。




――京太・・・


――京太さん・・・・



翌日、朝食を摂り終えると、サバクの街に向けて出発した。


半日ほどの距離だったので、

何事も無く、サバクの街の外壁が見える所まで到着する。




――あそこが、サバクの街か・・・・・



ゆっくり歩いて街に向かっているが、誰にも出会わない。


そのまま街の入り口に到着すると、兵士達が近づいてきた。




「そこの者達、この街には何の用だ?」




「たいした様ではないのですが

 宿で休もうかと思いまして・・・」



素直にギルドからの依頼を受けてきたと言っても良かったのだが

あまりにも芳しくない雰囲気だった為、

京太は敢えて噓をついたのだ。




咄嗟に着いた嘘に、兵士達は、怪しげな目を向ける。




「旅人か・・・・・それにしては荷物が少ないな」




「ええ、食料も無くなりましたので、この街で補充しようかと思いまして・・・」




「そうか、まぁいい。

 街に入る為の通行税は、1人銅貨10枚だ」




「え!?」



ソニア達が、驚いていた。


「街への通行税は、銅貨3枚。

 多いところで5枚程度よ」




それを聞き、

『ぼったくり?』

と思いつつも、仕方なく京太が銀貨1枚を差し出すと、

兵士はひったくる様にして受け取った。




「よし、通っていいぞ」




兵士は、そう告げると、京太たちを追い払うような素振りをみせた。



京太が、慌てて声をかける。



「ちょっと待ってください!お釣りを貰っていません」




その言葉を聞き、京太を睨みつける。




「釣りなど無い!

 さっさと行け!」



――お釣り無いって・・・・・



京太が文句を言おうとしたところに、ソニアが京太を止める。



「今は我慢して下さい。

 取り敢えず行きましょう」




「でも・・・・・」




納得のいくはずのない京太だったが

ソニアの真剣な眼差しに、仕方なく従うことにした。



京太達が離れると、兵士達は、会話を始める。



「良い女が多かったな」



「ああ、エルフもいたぜ」



「じゃぁ、俺は、【ナハマ】様に報告に行って来るぜ」



「ああ頼む。

 それと兵舎にいる者達にも伝えておけよ」



「分かっているさ」



兵士の1人は、貴族街に向かって馬を走らせた。




その頃、モニカの案内に従いながら、平民街を歩いていた京太たち。




「ソニア、さっきは何で我慢しろと言ったの?」




「多分ですけど、あの人たちは、

 私達に揉め事を起こさせて、捕まえる気だったと思うの」




「え!?」




「あくまでも予想だけど・・・

 でも、なんか嫌な雰囲気でしたので

 念のために我慢してもらいました」




「そうなんだ。

 確かに今は、依頼中だから、ここでの揉め事はごめんだしね」



「うん」



そんな会話をしている内に、モニカの目的地に到着した。




「京太さん、ここです」




そう告げると、家の扉を開け中へと進んでいく。




「こんにちわ、ニーナ、いないの?」




「はーい」




奥から、声が返って来た。



奥から出て来たニーナは、モニカの姿を見て驚いていた。




「モニカなの・・・・・」




「ええ・・・」




ニーナは、小走りで近づき、モニカに抱き着いた。




「心配していたのよ・・・・無事で良かった!」




「ニーナ、ありがとう。

 心配かけてごめんね」




2人が抱き合っていると、奥からもう一人、少女が姿を見せる。




「おねえちゃん・・・」




「【テト】、遅くなってごめんね」




モニカの妹テトは、久しぶりの再会を喜び、

ニーナと同じ様にモニカに抱き着くと泣きだした。




「おねえちゃん、おねえちゃん・・・・・寂しかったよぅ・・・・」




モニカは、テトの頭を優しく撫でた。




「うん、うん、ごめんね。

 これからは、一緒だからね」




「うん!」




「モニカ、良かったね、僕達はそろそろ行くよ」




「はい、有難う御座いました」




モニカを送り届けた京太は、挨拶を終えると次の目的地へと向かう。


預かっていた地図を、アイテムボックスから取り出し確認する。




「メリーさんの両親の家もこの辺りみたいだ」




「なら、急ぎましょ、宿も取っていないんだからね」




ソニアに、急せかされ、メリーの両親の家へと向かった。


家を探しながら周囲を見るが、人も少なく、活気がまるで無い。




「なぁ、この街は、昔からこんな感じなの?」




「そんな事は、なかったかと・・・。

 以前、ソニアと来た時は、もっと活気があったように思います」




「うん、セリカの言う通りよ。

 こんなに寂れては、いなかったわ」




2人の意見は、一致する。



だとすれば領主のせい?

そう考えると、領主に対して憤りを感じてしまう。




――酷い領主だな・・・




京太が怖い顔をしていたのか、隣を歩いていたクオンが、心配そうに見ていた。




「お兄ちゃん・・・・・」




京太は、我に返り、クオンの頭を撫でる。




「大丈夫だよ」




「うん・・・・・」




そんな時、地図を覚えていたセリカが、目的地に到着したと告げた。




「京太さん、ここだと思います」




改めて地図で確認すると、間違いなくここだ。



ゆっくりと扉を開く。



「こんにちわ、どなたかいませんか」



「はい、ただいま」



京太の声を聞き、年配の女性が現れた。



「ポーラさんですか?」




京太の問いに、不審に思いながらも返事をする。




「はい、私がポーラですが?」




「僕は、アルの街の冒険者です。

 メリーさんからの預かり物を届けに来ました」




その言葉に、ポーラは驚いた。




「本当に?」




「はい、本当ですよ。取り敢えず荷物をお渡ししたいのですが、

 何処に置いたらいいですか?」




「あの・・・荷物とは?」




「食料品です」




ポーラは、娘に感謝をし、旦那を呼んだ。




「貴方、メリーが荷物を送ってくれたのよ」




奥から、足音と共にやせ細った男が出て来た。




「メリーが、荷物を・・・・・」




「ええ、この方達が届けて下さったのよ」




「そうか・・・」




「私は、メリーの父親の【ヤコブ】と申します。

 この度は、有難う御座います」



「いえ、気にしないで下さい。それより荷物は、何処に置きますか?」




ポーラとヤコブは、顔を見合わせると、奥に運んで欲しいと京太にお願いをした。


京太は、ヤコブの指示した場所に預かった全ての荷物を下ろした。




「これで全部です」




両親は、深々と頭を下ると、再度。御礼を述べる。




「本当に有難う御座いました」




「いえ、気にしないで下さい。仕事ですから」




挨拶を終え、メリーの両親の家から離れると、

もう1枚の地図にあった【ウーゴ商会】を目指した。


ウーゴ商会は、地図によると市場に店を構えているらしいのだが、

市場らしき場所が見当たらなかった。




「市場ってどこだろう・・・」




そんな時、何かに気が付いたサリーが指をさす。




「京太様、あの看板のお店がウーゴ商会だと思いますが・・・」




その言葉に、皆が看板を見る。




「「「本当だ!!」」」




「すると、ここが市場?」




人気もなく、ガランとしているこの場所が市場だったのだ。


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