第13話盗賊のアジト3

盗賊のアジトに戻り、食堂で皆と落ち合う。




「ただいま、もう、大丈夫だよ」




「では」




「うん、盗賊は、倒したから・・・」




モニカは、胸を撫で下ろす。


盗賊が、居なくなれば妹の元に戻れるという希望があった。


今迄は、叶わないと諦めていたが、京太という存在のおかげで現実になりかけている。


盗賊が倒れ、生き残っていたのは、モニカと似たような過去を持つメイド達と囚われていた女性達、それと、戦う事を放棄した兵士達だけだった。



生き残った兵士の大半が、モニカと同じ様に両親や親族を殺され、

捕らえられた者の生き残りなので、

兵士とは名目だけで、殆んど奴隷に近い扱いだった。



その為、京太の降伏勧告を受け入れることができたのだ。




今、その者達が食堂に集まっている。



だが、少しながら元からの兵士達もいた。


その者たちは、厳しい目を向けられ

この場では、青い顔をしていた。



その雰囲気を感じ、近くにいた兵士に京太は近づいて、話し掛ける。




「どうしたの?」




「いや・・・何でもありません・・・」




そう言葉を返したが、その場から動くことが出来ず、俯いている。



この男は、元からの兵士だ。


その為、メイドや奴隷のように扱っていた兵士の元に行く事が出来なかった。




「う・・・あ・・・」



兵士は、先程以上に怯え、額から汗を流している。



そこまで怯える理由。


それは、この男のして来た事にあった。


この男は、一個師団の隊長で、

『幻惑の花』を使って捕らえた女性を弄んでいた者の1人だからだ。


女性達は、幻覚により、相手の顔を覚えていない。


おかげで難を逃れているが、自分の記憶には全てが残っていた。


だから、周囲の視線に怯え、殺される恐怖が段々と増しているのだ。



恐怖に耐え切れなくなった男は、無謀ともいえる行動に出る。



「お、俺を見るなぁぁぁぁぁ!!!」



回収してあった剣を持ち、女性達と向き合う。




「お、お前達が・・・お前達が、居なくなればいいんだ・・・」




男は、震えながら襲い掛かるが、行動に気付いた京太の方が早かった。


女性達と男の間に立つと、京太は容赦なく剣を振るう。


男は胴体から2つに分かれ、そのまま床に倒れ込んだ。


京太は、倒れた男に向かってボソッと呟く。




――せっかく助かったのにどうして・・・・・




京太の呟きが聞こえた兵士が、口を開いた。




「すいません、隊長は、捕らえた女性に薬を使って・・・その・・」




――そうだったのか・・・



納得がいった。


京太は、兵士の言葉を遮る。




「わかったから、全部は言わなくていいよ」




兵士は、『すいません』と一言だけ告げると、下を向いた。




――降伏した者が、善人とは限らないもんな・・・




京太は、兵士達に問う。




「この中で、捕らえられた者に、罪を働いたと思う者、

 それを知っている者は、話して欲しい。

 そうしないと、また同じことが起きるかもしれないから」




顔に傷のある兵士が、手を上げる。




「おれは、隠し部屋の事も薬の事も知っていた。

 それに命令とは言え、薬を飲ませた事もある」




女性達は睨むが、男に後悔の色は無かった。



それよりも、はっきりと話せた事に、憑き物が落ちたような顔をしていた。




――これで良かったんだ・・・




兵士は覚悟を決めて、京太の前に進み出た。


その時、囚われていた1人の女性が、『待った』をかける。




「すいません、お待ちください!」




女性は、顔に傷のある兵士の横まで来ると、膝を付いた。




「お願いがございます、この方を許して頂けないでしょうか?」




突然の行動に、皆が驚いた。




「【ミラ】、何をしているの!」




「戻って来なさいよ!」




女性達が声を掛けるが、ミラは動こうとはしない。




「ごめんなさい・・・でも、この方を見捨てる事は出来ません」




京太はミラに問う。




「訳を聞いてもいいですか?」




「他の兵士の方は、私達の薬が切れかけて暴れても放置していましたが、

 この方は、一生懸命、私達の世話をして下さいました。


 それに、いつも食事や服を準備してくださっていたのもこの方です。

 そんな方を、私は、見殺しには出来ません」




兵士は驚いていた。




「意識があったのか・・・」




聞かれた女性は、笑顔で答える。




「はい、薄っすらとですけど、ありましたよ」




「そうか・・・すまなかった。

 私は、戦闘で傷を負ってから、上手く手が動かなくてな・・・

 それで、出来る事をしていただけだ」




兵士は、そう言って下を向いた。




「それでも、構いません。

 私は、貴方を許せます」




兵士は、その言葉を聞き、笑顔になる。




「ありがとう、これで思い残す事は無いよ」




兵士は覚悟を決め、京太の前で跪いた。


だが、京太は剣を振り下ろさない。




「えっと・・・・・

 何故、殺す前提で話をしているの?」




「え!?」




「え!?」




2人は、キョトンとした顔で止まった。


京太が、話を続ける。




「僕は、ただ同じ事の無いように、聞いただけだよ。

 まぁ、確かに内容次第の所はあるけどね」




「では、殺さないのですか?」




「うん、話を聞く限りでは、必要無いと思うけど・・・」




京太は、顔に傷のある兵士に近づく。




「名前を聞いてもいいですか?」




「【ゴドー】と申します」




「じゃぁゴドーさん、貴方は死ぬほどの覚悟を決めたのでしたら、

 何でも出来ますよね」




「はい、私に出来る事でしたら」




「では、今後も、彼女達の世話をお願いします。

 ただ、手が必要な時は、メイド達を頼って下さい」




ゴドーは、再び京太に頭を下げた。




「感謝します」




「でも、下僕みたいなものですよ、本当にいいのですか?」




「はい、罪を償う機会ですから、大切にしたいと思います」




――この人、殺さなくて良かった・・・・・




京太の心は、少しだけ晴れていた。






その後は、囚われていた女性達やメイド達に

これからどうしたいかを聞いたのだが・・・

家族、両親などが既に殺されており

殆んどの者が、帰る場所が無かった。



また、あったとしても、

『戻れば親戚や両親に迷惑がかかるから』と帰る事を拒んだ。




ソニアが京太に尋ねる。




「どうするの?」




「うん、取り敢えず、ここに残って貰うよ」




セリカも話しに加わる。



「大丈夫なのですか?」




「この砦全体に結界を張るから大丈夫だよ」




「また、器用な事で・・・・・」




そんな3人のやり取りを眺めていたラムは、考えていた。




――この人何者なの?

  この砦、全体に結界を張るなんて・・・

  私は行きたい所があるけど、もう少し一緒にいようかしら・・・・・




そう考えたラムは、3人の元に近づく。




「さっきは、ありがとう、お蔭で助かったわ。

 私は、ラムよ、当分貴方達に付いて行きたいのだけどいいかしら・・・?」




突然の申し出に、ソニアは京太に視線を送る。




「どうするの?」




別に問題はない。


だが、用心はしよう。


それに、最終的に困ったら、同じエルフのクラウスに任せればいいと決め

ラムの同行を許すことにした。



「そうか、感謝する。

 それで、京太さんは、これからどうするのだ」




「サバクの街に行くよ。

 でも、僕達以外は、ここに残って貰う。


 放り出すつもりはないから安心して。

 それに、連れて行こうにも街の状況も分からないからね」




このアジトには、食料も多く、水も畑もあったので生活に困る事は無い。

それに、結界も張るのだから、無暗に連れて歩くより安全と思える。


そのことを残す者たちに話した後、

メイド長で【スミス】と名乗った女性に声をかける。



「僕たちがいない間、此処を任せてもいいかな」




スミスは、一歩前に出て、一礼をする。




「お任せください、留守は、しっかりお守りします」




「ありがとう。

 アジトを囲むように結界を張って行くから、外に出さえしなければ大丈夫だよ」




「でしたら、お帰りを待つ間、何をすれば、良いのでしょうか?」




「皆が、住みやすいように部屋を決めたり、

 仕事を決めて、ここで充実した生活を送れるようにして欲しい」




話を聞き、スミスの後ろの方から

話し声が聞こえて来た。




「それって私達も個室が貰えるのかなぁ」




スミスが咳ばらいをする。




「コホンッ!」




その声に気付き、話をしていた2人は、肩を竦める。




「すいませんでした・・・」




「あははは・・・気にしなくていいよ、それと皆には、個室を与えたいと思ってる。

 スミス、お願い出来るかな」




「主様のご命令とあれば・・・・・」




「ありがとう。

 宜しく頼むよ」




「畏まりました。

 それから、私事ですが、【チユリ】と【エイミー】は、後でお話があります」




スミスの言葉に、2人は固まった。




「・・・・・はい」




「ははは・・・後は任せるよ、行って来る」



後のことは任せて、京太たちは旅支度を始める。


翌日、京太、ソニア、セリカ、クオン、サリー、ノルンに

エルフのラムと砦でメイドをしていたモニカが加わった8名で

サバクの街へと向かった。


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