第16話所有地と仲間
「僕は、この世界の人間じゃないんだ」
最初に、その事を告げた。
「この世界の人間じゃないって、
それなら、何処から来たの?」
ソニアの問いに、京太は上に向けて指を差した。
「上?」
「そう、天界」
「え!?」
「天界だよ。
僕は、この世界を見て回る為に天界から降りて来たんだ」
その話を聞き、ラムは驚く。
「なら、私が探していたのは貴方だったの!」
「えっ、どういう事?」
「えとね、私は、エルフの里から出てきたの。
お爺ちゃん達が、話しているのを聞いて
なんか、会ってみたくて・・・・・」
ラムの言葉を聞き、京太の雰囲気が変わる。
「なんで、エルフが知っているの?」
その変化にラムは、慌てた。
「ちょっと待って!ほんとゴメン、謝るから!」
「謝られても、答えになっていないよ。
僕が聞きたいのは、エルフがどうして知っているかってこと。
もしかして、クラウス?」
京太は、目を逸らさない。
ずっと、ラムだけを視界に捉えている。
逃げ道はない。
嘘をつくことも出来そうになかったラムは、観念して正直に話す。
「その通りよ。
エルフが知っている理由は、クラウスから手紙が届いたからなの。
クラウスの手紙には、この世界に神の代行者が降臨されたので
誰か、エルフを御側に置きたいと書いてあったみたいだわ。
私は、エルフの長老の孫なの。
だから、お爺ちゃんたちが話しているのを聞いて
内緒で、貴方に会いに来たの」
「盗み聞きをして、勝手に出て来たってこと?」
「ま、まぁ、そうなるわね」
「・・・・・・」
「ごめんなさい・・・」
ラムは、再び謝罪を口にする。
『はぁ』と溜息をつく。
「まだ、聞きたいことはあるけど。
悪意からではないと思うから、もう謝らなくていいよ。」
「はい・・・・・」
神の天罰を見たばかりのラムからしたら、怒った京太は、恐怖でしかない。
未だ、萎縮をしているラム。
京太は、その様子を見て、優しく問いかける。
「もう、怒っていないから安心して。
ただ、エルフの民は、僕のことを知っていると思っていいんだよね」
「たぶん、そう。
私は、里を出たから、見たわけではないけど
あの後、京太様の御側に仕える者を選んだと思うから」
──京太様って・・・・・
始めてラムに『京太様』と呼ばれて、
思わず突っ込みそうになったけど我慢して
話を続ける。
「そうなんだ、1つ聞くけど、他の者に話す可能性はあるの?」
「無いと思う。
他の種族の者に話す事は、ライバルを作る事になるから話さないよ」
「わかった、なら、今はそれを信じる事にするよ」
「ありがとう」
ラムは、『ホッ』として胸を撫で下ろした。
一息ついたところで、クオンが聞いて来た。
「お兄ちゃん、神様?」
「代行者かな・・・」
――嘘では、ないよな・・・・・
12人の神が消え、自身が神になったことは、今は内緒にした。
今はそれでいい。
1人のエルフに『神の代行者』と告げただけで
エルフの里、全体に伝わったのだ。
だから、神が消滅したことを告げなかったのは
正しい判断だと確信した。
京太がそんなことを考えていると、今度はソニアが話しかけてきた。
「京太。
京太様?
それで、私達はどうしたらいいの?」
「京太でいいよ。
態度も、今まで通りで構わないよ」
「本当に?」
「うん、変に気を使われると、こっちが困るよ」
「わかったわ」
ソニアの返事を肯定するように、皆も頷いた。
話を終えた京太は、倉庫に張った防音結界を解く。
「そろそろ食事も出来る頃だから、食堂に行こう」
皆は倉庫から出て、食堂に向かった。
食堂に到着すると、スミスが待機していた。
「皆様、食事の準備が整っております」
「うん、ありがとう。
ところで、生活の方は、どう?」
「はい、以前と比べて自由に出来ますので有難いです」
「そうか。
出来れば、これからもお願いしていいかな?」
「勿論です。
お任せください」
「ありがとう、頼むよ。
あと、必要な物があったら遠慮なく言ってね」
「畏まりました」
スミスは一礼し、その場から離れた。
食事を終えた京太たちは、アジトでゆっくりと過ごす。
夜になり、眠りに就いていた京太は、夢を見ていた。
金色の髪をした美少女が、頬を膨らませている。
「主は、酷いです・・・」
「僕?」
「はい、一番最初からお仕えしている私を蔑ろにして、
他の女共に現を抜かすなんて」
「『現を抜かす』なんて・・・・・
えと・・・君は誰?」
「酷い!酷い!本当に酷い!
主は、私の事を忘れたのですか!」
「え・・・と・・・」
面識の無い美少女に攻められる京太。
「私が一番なのに・・・・・」
『シュン』とする美少女。
その喜怒哀楽の激しさに、思わず笑みが零れそうになる京太。
美少女は、それを見逃さない。
「今、笑いそうになっていたでしょ」
「ごめん。
謝るよ。
許して貰えるのなら、君の名前を聞いてもいいかな?」
「・・・【エクス】です」
「エクスか・・・・・
君は、本当に僕の事を知っているんだよね」
「当然です!
主を忘れることなどありません!!」
「わかった。
僕も早く思い出すよ」
その言葉を聞き、エクスが溜息を吐く。
「・・・本当に分からないのですね!
仕方がありません。
こうなれば実力行使です!!」
その言葉を最後に、夢は終わった。
朝になり、京太は目を覚ます。
夢のことは、はっきりと覚えている。
――あの子は、誰なんだろう・・・
少女のことが気になった。
夢の事を考えていると、
部屋の扉が開き、ソニアとクオンが入って来た。
「おはよう、京太、起きた?」
「お兄ちゃんおはよう」
「おはよう」
挨拶をし、ゆっくりと体を起こす京太。
その時、シーツがずれる。
「「え!?」」
驚く2人。
それもそのはず。
シーツがずれると、京太に纏わりつく金色の髪が見えたのだ。
遅れて気が付いた京太も、驚いて固まる。
我に返った2人は、問い質す。
「ちょっと、その子誰!!」
「お兄ちゃん!!」
クオンが、シーツを剝ぎ取ると、
そこには、夢に出て来た金色の髪の美少女が、全裸で京太に抱き着いていたのだ。
「京太ぁぁぁ!!!」
「お兄ちゃんっ!!!」
2人の大声で、少女が目覚める。
「ふわぁ~・・・・主、おはようございます」
「おにいちゃん、主って何!」
クオンの眉がぴくぴくしている。
どう見ても、完全に怒っていた。
「えと・・・・・クオンさん、落ち着こうよ」
クオンを宥めていると、
ソニアもブツブツ呟きながら近づいて来た。
「変態死すべし、変態死すべし、変態死すべし・・・・・」
その光景を、黙って見ていた全裸の少女が、京太に告げる。
「主、大丈夫です、お任せください」
そう言い終えると、少女は、全裸のまま立ち上がった。
「我は、主と共にあり。
主に異を唱えし者、許すまじ・・・・
今こそ、我が力見せる時、エクスカリバー!!」
少女が唱えると、辺りが光に包まれた。
そして、光が収まると、目の前には、エクスカリバーが浮かんでいた。
クオンとソニアは驚きのあまり、動きが止まっている。
「あの子、剣だったんだ」
「お兄ちゃんの剣だ・・・」
夢に出て来て、この世に現れた美少女の正体は、
神の部屋から持ち出したエクスカリバーだった。
「エクス・・・・・」
京太が声を掛けると、再び人の姿に戻る。
そして、全裸のまま京太に抱き着き、問いかける。
「主、戦わなくて良いのですか?」
「うん、今はいいよ」
京太の返事を聞き、エクスは、背中に手をまわし、力を込めた。
「この姿で、主にやっと会えました!」
「うん、これからも宜しく」
京太は、エクスの頭を撫でた。
笑みを浮かべるエクス。
「はい、お任せください。
これからは、お風呂でも、ベッドでも、何処までもお供致します」
「そこだけを強調しないでよ・・・・・」
京太は、アイテムボックスに入れていたクオンの服を借りて、エクスに着せた。
「主、似合いますか?」
「ああ、とっても似合うよ」
エクスが喜んでいる姿をクオンが見ている。
「むぅ~」
唸るクオンにエクスが歩み寄る。
「クオンお姉さま、服を貸してくれてありがとう!」
――お、お姉さま!・・・・私がお姉さま!
お姉さまと言われたクオンは、エクスに抱き着いた。
「エクス、困ったら、いつでも相談してね」
「はい、お姉さま」
京太は思う。
――クオン・・・チョロい・・・
京太が着替えを終えると
4人で食堂に向かう。
食堂には、既に他の者たちが集まっていた。
ちょうど良い機会なので
エクスを紹介をする。
「この子はエクス。
あたらしい仲間だから、みんな、宜しく」
京太に続き、エクスが自己紹介をしようとしたが、クオンが割り込んだ。
「私の妹です。
仲良くしてください!」
クオンが頭を下げる。
つられてエクスも頭を下げた。
――本当に妹にしちゃったよ・・・・・
皆は、違うと分かっていたが、拍手を送る。
クオンは、嬉しくて笑みを浮かべながらエクスに抱き着いた。
2人の態度が微笑ましい。
――悪い事ばかりじゃ無いな・・・
京太は、エクスとじゃれついているクオンを見ていた。
そして思う。
――この子達が、笑って暮らせる場所を作ろう・・・・・
決意した京太は、手始めにこのアジトを自分の物にする。
今でも、周りから見れば京太の物だが、それを言葉にする事により、
正式に神の恩恵を、この場所に授ける事が出来るのだ。
京太の中には、12人の神の力と記憶という遺産がある。
この地に恩恵を授けるのは、神【ハピ】の力だ。
【豊穣の力を持つ神、ハピ】の力を使い、この土地に恵みを与え、
自給自足の生活が出来る様にする事に決めた。
その日、京太は、このアジトで生活する者達を広場に集めた。
元兵士、メイド、奴隷の様に扱われていた名ばかりの兵士達全員が、
京太に注目している。
「改めて、自己紹介をします。
僕は京太です。
この盗賊のアジトだった砦を奪い取った者です。
これから・・・このアジトを僕のものにします」
高らかに宣言をすると、周りの木々が、砦を守る様に動き始める。
地が割れ、水が溢れ出て来て、川が出来た。
その光景に、集まっていた者達は、驚きと戸惑いを隠せない。
「この人は、神なのか・・・」
そんな声の聞こえる中、京太は皆に問う。
「この地に残って働きたいと思う人は、挙手を!」
最初に手を上げたのは、仲間達だった。
ソニア、セリカの2人に続き、クオン、エクス、ラムが続いた。
そして・・・サリーが手を上げるとノルンも手を上げた。
「サリー、ノルンは、狐人族の里に行くんじゃないの?」
「はい。
ですが、今はこの地に残りたいと思います」
「ノルンは、それでいいの?」
「うん!森も水も綺麗だから・・・・・それに皆も連れて来たい!」
まだ見た事の無い仲間を思っての発言に、京太は笑顔を見せた。
その後は、メイド長のスミスを先頭に、
次々と手を上げて行き、最終的には全員が手を上げていた。
「この砦は、敷地が広いから、農地を作ろうと思う。
経験のある方がいればお願いしたい」
兵士だった者の中から数人が手を上げる。
「名前を聞いてもいいかな?」
「【オスカー】です」
「【カイ】と申します」
2人に続き、【トーマス】、【ニック】の2名が立候補した。
他に囚われていた女性の中から、【ネロ】と【ソラン】が手を上げた。
2人とも若いが、農業の経験があるからと名乗り出てくれたのだ。
屋敷の事は、メイド長のスミスが任せて欲しいと言って来たので任せた。
囚われていた女性達には、家事全般を
男性達は、狩りと農業に別れて働く事になった。
狩りの指導は、ラムに頼んだ。
そうして色々と決めた事により、足りない物が判明する。
それらを揃える為、もう一度、サバクの街に向かう必要が出て来た。
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