第10話盗賊

食事の最中、京太は、ソニアに聞いてみる。




「この辺りは、昔から盗賊とか多かったの?」




少し考えると、ソニアは答えた。




「私の知ってる限り、

 少し前迄は、此処まで酷くなかったとおもったんだけど・・・」




「そうなんだ」




「うん・・・でも、詳しいことはわからないわよ、何となくだから!

 でもね、急に悪くなったというよりは、段々悪くなったと言えるわ」




その言葉を聞き、

『――これは、神と悪魔の戦いも関係あるのか?』と思った。




――これからの事を考えないと・・・・・




京太は、改めて皆に問う為に立ち上がる。




「あのさ、メリーさんの店でも聞いたと思うけど、

 この先は盗賊に遭遇するかもしれない。

 街の治安も良いとは思えない。

 それでも本当に付いて来るのかを聞きたいんだ。

 帰りたいと思うなら、ここから引き返して欲しい」




京太の言葉に、皆は『今更何を言っているの』と言うような顔をした。




「京太について行くと決めたのは、自分自身の考えだよ。

 それに、元々冒険者だから、危険は承知よ」




「私も同意です」




「私は、ノルンを里に帰してあげたいですから」




「クオンは、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」




「わかった。

 なら、警戒だけは怠らないようにしよう」



食事を終えると、

その夜は、周囲に結界を張り、誰も入れない様にしてから眠った。


京太の隣には、クオンが抱き着くようにして眠っている。




翌日、朝食を摂り終えると、街に向かって出発をした。




2日目・・・・・

野営の最中、京太は視線を感じていた。


探索魔法『サーチ』を使うと、京太達を見張る者の姿が映し出された。




――3人か・・・




昨日と同じ様に結界を張る。


京太は、皆の元に近寄り伝えた。




「誰かに見張られている。

 結界を張ったから魔法も矢も届かないから心配は無いけど

 ここからは、出て来ないでね」




「わかったわ」




「クオンは、ノルンとサリーと一緒にいてね」




「うん・・・」




それだけを伝えると京太の姿が目の前から消える。


驚くソニア。




「え!?」




「多分、お兄ちゃんの魔法だよ」




驚く素振りも見せず、冷静に答えるクオン。


その言葉に、ソニアも納得する。




「一言、言ったらいいのに・・・」




ソニアは、そう言って辺りを見渡す。




――何処に行ったんだか・・・・・






見張りをしていた男達は、《遠見のガラス》と言うアイテムで

京太達の様子を伺っていた。


《遠見のガラス》とは、ある一定の距離であれば、昼夜関係無く、

しっかりと相手を見ることの出来るアイテムだ。


「知らせてくる。

 お前は、見張りを頼むぞ」


「ああ・・・」


監視を続けていた男達は、1人を残してアジトに戻って行く。


消える魔法『インビシブル』を使い、

姿を消している京太は、アジトに戻るであろう男達の後をつけた。




何も知らない男たちは、京太をアジトへと導く。

到着した場所には、谷を利用して造られた立派な建物があった。




――貧しいって聞いていたけど・・・なんか凄いな・・・




立派なアジトを不思議に思い、後をついて中へと侵入する。


戻って来た男達は、広間にいた男に敬礼をしてから報告を始めた。


違和感を覚える京太。




――盗賊が敬礼?・・・・・もしかして・・・




京太の予感は的中する。


この男達は、盗賊ではなく、貴族に仕える兵士達だった。


兵士達は、盗賊を装い、この道を通る者を襲っていたのだ。




静かに様子を窺う京太。




「報告します、男1人、女5人の集団を発見しました」




「旅人か?」




「はい、ですが冒険者の可能性もあります」




「見張りは、付けているのだな」




「はい、【ワム】が見張っています」




「わかった、明日、襲撃をかける。

 男は殺せ、女は捕らえて此処に連れて来い」




「了解しました」




兵士は、再度敬礼をすると、その場から離れていった。


京太は、兵士に付いて行く。




兵士の向かった先は食堂だった。



料理の並んだテーブルから、好きな物を選び、空いてる席に着く。



隣に座っていた男が声を掛けて来た。




「見張り、ご苦労さん」




「ああ・・・」




「それで獲物は?」




「男1人と女5人。

 明日、襲撃をかけるそうだ」




「そりゃいいな、久しぶりの女か、俺達にも回って来ねぇかな」




「無理だろ、どうせ屋敷に連れ帰って、貴族連中に売り払うんだろ」




「まぁ、そうだよな・・・・・」




ため息を吐いた男は、再び食事を摂り始める。


京太は、全ての会話を聞き、サバクの街が貧しいのは、


神と悪魔の戦いの余波ではなく、この貴族が原因だと知った。




――考えすぎだったか・・・・・

  どちらにしろ、放っておくことは出来ないな・・・・・




食堂で男とは別れ、一人でアジトの中を見て回る。


アジト内では、多くの者達が働いていた。


広場で訓練をする者、薬草を調合する者、鍛冶をしている者など様々だった。




――街みたいだな・・・・・それに、ここは、貧しさとは無縁だな・・・




そんな思いを抱きながら、探索を続ける。


地下室を発見した。


迷わず先へと進んで行く。


牢屋が6室あった。


その中に人の姿はなかった。


だが、石の壁には、多くの血の跡が残っていた。




さらに先に進むと、重厚な扉を発見する。


鍵が掛っていなかったので、静かに扉を開くと、そこは拷問部屋だった。


どうやって使うのか分からない大きなハサミの様な物や、

天井から手枷が伸びていた。


他にも様々な物があったが、どれも痛々しい血の跡が残っていた。




――酷いな・・・




拷問部屋を出た後、京太は、広間にいた男の様子を探る事にした。


だが、広間に戻ると、既に先程の男の姿は無かった。




広間内を探索すると、隠し扉を見つけた。




――何故、隠しているんだろう・・・




京太は、扉を開き、中へ進んで行く。


すると、異様な匂いが鼻を突いた。




――この匂い・・・




足元に落ちていた花弁を拾い、アイテムボックスに収納し、鑑定をしてみると


この花は、《幻惑の花》だと判明した。


いわゆる麻薬である。


この花を煎じて飲むと、良い気分になるが、


常用し過ぎると副作用として幻覚を見るようになるという物なのだ。




京太は、先へと進む。


そして、辿り着いた部屋で見たのは異様な光景。




一糸纏わぬ姿の女達が、男達に弄ばれていた。


その中に、先程まで広間にいた男の姿も見える。


女達の目は虚ろで、可笑しな雰囲気を醸し出し、正常でないことは確かだ。




――まさか、幻惑の花を飲ませているのか・・・




京太の心は、怒りに震えた。




――許される訳がない!!!




京太は、姿を消したまま『リカバリー』を唱えた。


女性達の体から幻惑の花の効果が消える。


正気に戻った女性達は、自身の姿に驚いて叫び声を上げた。




「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」




「助けて!」




男達は、驚く。




「どういうことだ!薬が切れたのか!」




驚きの言葉が響く中、1人の女性が部屋から出ようと

出口に向かって走り出した。


「待て!」


男が、逃げようとする女性の後を追い、出口に向かって走り出す。

女性が京太の横を通り過ぎる。


黙って見送る京太だが、後を追ってくる男は別。


逃がす気はない。


姿を消し、待ち構えている京太の手には

いつの間にか剣が握られている。


そして、男が京太の剣の間合いに入った瞬間。

体が、真っ二つになった。


今までとは違う意味で異様な光景。


突然、男が二つに割れたのだ。



見ていた者達は、何が起きたのか分からない。




「なんだ・・・・・?」




「何が、起きたんだ・・・」




一瞬の静けさの後、女性達が再び悲鳴を上げる。




「きゃぁぁぁぁ!」




男達も我に返り、剣を構えた。


だが、京太の姿が見える訳もなく、周囲を伺うだけ。



動揺しているのが、理解できる。


剣を持つ男の手が震えている。


「何が起こったんだ!

 どうなっている!」


そう声にした瞬間、その男の首が宙に舞った。



男達は怯え、見えない敵に剣を振るう。




「この!この!」




「どこだ!クソッ!」




だが、当たる事も無く、1人、また1人と倒された。



最後に残ったのは、広間にいた男。



勿論、そう仕組んだのは京太。


残された男は、空間に向かって叫ぶ。



「私は、オルン伯爵家騎士団、団長の【グラム】だ、正々堂々と勝負しろ!」




――あ・・・・聞く手間が省けた・・・




自ら名乗りを上げた事に、京太は、思わず笑ってしまう。




「ハハハハハ・・・・盗賊を騙っていたのに、名乗るとは・・・馬鹿ですか?」




その言葉にグラムは、顔を真っ赤にする。




「き、貴様、この私を愚弄するか!」




怒りを露わにするグラムの前に、京太は姿を現した。


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