第9話依頼

「おまたせしました。

 京太さん、この荷物を運べるだけで構いませんから、

 お願いできますか?」


京太が馬車の中を覗く。


馬車の荷台には、人が入る隙間もないくらいに積んである。




「これを全部ですか?」




「はい・・・出来ましたらお願いしたいのですが・・・」




――少しって言ったのに・・・




京太は、準備の良さと荷物の多さに疑問を持った。




「少しと言いましたが、この荷物はどうしたのですか?」




「・・・・・この荷物は、知り合いの商人から預かりました」




「何故?」




「ダメでしたでしょうか?」




メリーが尋ねると、ソニアが答えた。




「ギルドでは、その様な事を禁じています。


 理由は、お分かりになると思いますが、その様な事をされると

冒険者の負担だけが増え、価格に合わない仕事になるからです」




「すいませんでした・・・」




メリーは、頭を下げて謝罪をした。


そして、改めて商品の運搬を願い出る。




「この荷物を運んで頂けませんでしょうか?」




「ですから、それは!」




「その分に見合った代金もお支払いを致します。


 他に、あの街に届けてくれる者が居ないのです!」




切実なお願いに、京太は戸惑った。


ルールだと言って切り捨てるのは簡単だったが、

それでは、サバクの民も救われないだろう。


一番の気がかりはそれだ。

だが、ギルドのメンツもある。

その為、ギルドに相談する事にした。


ギルドに戻り、クラウスに面会を求める京太。

執務室にて、面会の話を聞いたクラウスは、直ぐに通す様に指示をだした。




「直ぐに会う、通せ」


 


「はい」




ロビーで待っていた京太は、受付の女性に呼ばれ、応接室に通された。


既に待っているクラウス。




「急ぎの用だと伺いましたが」




「はい、実は、サバク街に商品運搬の依頼を受けました。


 それで依頼者の元を訪ねたのですが、僕の魔法の事を知ると

 他の商人の荷物も頼んできました」



クラウスは、全てを聞かずとも理解をした。



「そう言う事ですか・・・」



クラウスは、ギルドマスターという立場上、この手の話はよく聞く出来事だった。


新人や経験の浅い冒険者に、依頼以上の物を運ばせて、

安くあげるという商人達の手段だった。




「それで、京太さんは、どうなさったのですか?」



「ええ、サバクの街の事や盗賊の話を聞いてしまったので

 出来れば助けてあげたいと思います。

 ただ、増えた荷物が馬車1台分なので・・・」


ため息をつくクラウス。


「流石にそれはやり過ぎですね」


『そうだろうな』と思いつつも

 現場でのやり取りを伝えたうえで、

 自分の意思を告げた。




「でも、代金は払うと言っていますので、

 ギルドに迷惑の掛からない形にして頂けるのなら受けても構いません」



「そうですか、その荷物を運ぶことに問題は無いのですね」



「はい」



「分かりました。

 今から私も依頼者の所に向かいましょう」




クラウスは、執務室に戻り、必要な書類を鞄に詰めた。




「では、行きましょう」




京太の案内でクラウスは、メリーの店に向かった。


店の近くまで来ると、馬車が先程と同じ様に店の前に止まっていた。


クラウスは、馬車の荷台を覗き込む。




「流石に、これは、多いですね」




そう告げると、荷台の乗り込み、ノートを取り出した。


そして、商品を細かく調べ、ノートに記した。


暫く待っていると、クラウスが荷台から降りてくる。




「お待たせしました、中に入りましょう」




2人は、メリーの店に入っていった。


中では、ソニア、セリカ、クオン、サリー、ノルンが待っていた。




「京太、遅いよ!」




ソニアの言葉に京太は謝罪をする。




「ゴメン、色々とする事があったからね」




「そうなんだ、それでギルマスも来たんだ」




ソニアの言葉に今度は、クラウスが答えた。




「そう言う事だ、それで、この店の主は?」




「はい、私です」




部屋の隅で立っていたメリーが手を上げた。




「この度の事情は聞きました。


 ですが、ギルドを通して頂かないといけませんね」




「すいません」




メリーがクラウスに謝罪をする。




「ですが、代金を支払う意思があることも伺いました」




「勿論です!運んで頂けるのでしたら、お支払います」




「先程、馬車の荷物を確認させて頂きました。


 危険な物もありませんでしたし、

 初犯と言う事で、今回は追加の代金の支払いと

 今後このような事はしないという誓約書にサインをして頂きますが、

 宜しいですか?」




「はい、有難う御座います」




メリーは、深々と頭を下げた。




その後はクラウスが、メリーに必要な書類にサインを貰い、

最後に代金を受け取った。




「京太さん、お待たせしました。


 メリーさんとの契約も終わりましたので、失礼させて頂きますね」




「クラウスさん、有難う御座います」




「いえいえ、礼を言うのはこちらです。


 それと、追加の報酬ですが・・・・・」




クラウスが、そこまで言うと京太が遮った。




「帰ってから頂きますよ」




「わかりました、お気をつけて」




クラウスがギルドに戻った後、

 京太は、馬車に積んであった荷物をアイテムボックスに収納した。




――これでやっと出発できるな・・・




メリーに挨拶をし、追加の荷物の送り先を聞くと、

京太達も店を出た。


店の前は市場なので、余分に物資を買い込む。




「皆も買っていいよ」




その言葉にクオンが喜び、ノルンの手を引いて屋台の肉屋に向かった。


肉屋と言っても日本で言う所の焼き鳥の屋台だ。


恰幅の良いおばさんが、網で何かの肉を焼いていた。




――何の肉だろう・・・




京太が、そんな事を思っていたが、クオンには関係無かった。




「お兄ちゃん、あれが食べたい!」




店の前で叫ぶクオンに近づき、頭を撫でる。



「わかったから、少し待って」




その様子を見ていたおばさんが、声を掛けて来た。




「お嬢ちゃん、どうだい1つ食べてみるかい?」




おばさんの言葉に、クオンは京太を見た。




「おばさん、ありがとう。

 取り敢えず、焼きあがっている物を全部買うよ」




「兄さん、本当かい?」




「はい、何かに包んでくれると助かるのだけど」




「わかったよ、任せておきな」




おばさんは、手際よく焼きあがっていた肉串を袋に詰めた。




「これで全部だよ、1本が銅貨2枚だから、全部で銀貨1枚だよ」




焼き上がった肉串は、50本あった。


代金を渡すと、袋の中から肉串を2本取り出し、クオンとノルンに渡した。




「お兄ちゃん、ありがとう!」




「・・・ありがと」




他の者達にも肉串を渡し、皆で食べながら街の出入り口に向かった。


警備の兵達の間を抜け、そのまま街を出発し、サバクの街を目指した。




隣街と言っても歩くと3日程掛かる。


その道を6人は、のんびりと歩いた。




サバクの街迄の距離を聞かされた京太は、歩いて行く事に驚いたが


この世界では、当たり前の事だと知った。




――この世界に慣れないとな・・・




神の肉体を持つ京太は、滅多な事でもなければ、疲労感は無い。


その為に、周囲に気を配った。


京太1人だと3日程の距離なら、全力で走っても問題は無いが、


今は、同行者がいる為に、その様な事は出来ない。


それに、周囲の者達の体力や疲労に気を配らなければならなかった。




日が沈み始めた頃、京太達は、山の麓に辿り着いていた。




「今日は、ここで野宿をしよう」




「賛成!」




皆は、それぞれに決めていた作業を行う。


メリーとセリカで食事をつくる。


薪を集めて来るのは、ソニアと京太、クオンはノルンの子守りに決まっていた。




日が沈んだ頃には、火を起こし、食事を始めていた。


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