第8話エルフ

ギルドから出て、依頼者の所に向かう京太たち。


依頼者の店は、市場の中央に建っていた。




その頃、京太が去った後のギルドでは・・・・・


クラウスは悩んでいた。




――本当にこの事を、私一人で抱えていていいのだろうか・・・




考えた末にクラウスは、里に向け、一通の手紙を書く。


受付の者を呼び、この手紙をエルフの里に届ける様に依頼を出した。




――これで、いいだろう。


あの方が旅をするというのに、

仲間に我らの同朋がいないのは申し訳が立たたない。


  


クラウスは、京太の旅に、エルフの里から、

誰かに同行して貰う事を決めて手紙を書いていたのだ。


エルフは、プライドの高い種族である。


また、寿命の長さから、もっとも神に近い眷属として知られているのだ。


その為、京太の存在を知った今、

京太の傍にどうしてもエルフを仕えさせたい。




――願わくば、あの方の寵愛を頂ければ・・・




クラウスは、そんな事を思いながら、目の前の仕事に向う。




それから数日後、クラウスの手紙は、エルフの里に到着した。


手紙を受け取り、内容を重く見た長老は、急いで召集をかけた。




――さて、これは一大事ではあるが・・・・・




召集をかけられたエルフの里の長達は、突然の招集に何事かと集まった。


長老は、最初に他言無用との前置きをしてから手紙を皆の前に置く。




「ここに、アルの街でギルドの長をしているクラウスから、手紙が届いた。


 内容は、神の使いというお方が地上に降りて来ているというのだ」




「それは、誠か!」




「ならば、この里に招こうではないか」




各々の意見を口にする長たちを長老が止めた。




「良いか、あの方は、この世界を見て回るそうだ。


 その為、クラウスは、我らの同朋を仕えさせたいと言って来ているのだ」




「そうか、ならば、あのお方の行動を我らがお止めする訳には行かぬからな」




「それで、誰を送るつもりか?」




「うむ。できればご寵愛をいただける器量のすぐれた者が良いが・・・・・」




その言葉を聞いた長達は、それぞれに思いを募らせた。


その結果・・・・・




「儂の孫の【ルロ】では、どうか?」




「いやまて、それなら私の娘を」




「まぁまぁ、この里で武力に優れているのは、私の孫の【レイラ】ではないか、


 旅に同行するのであれば、それなりの力が必要であろう」




「あんな、筋肉馬鹿をお側に置く事は出来ん!!」




「儂の孫を筋肉馬鹿と呼ぶな!」




長老の予想通り、長達は揉めに揉めた。


『神に仕える者に同行できる。

このような機会を逃すまい』として

自分の縁者を傍に仕えたいと願ったのだ。




――やはりこうなったか・・・さて、どうしたら良いかのぅ・・・




長老が頭を悩ませ始めた頃、集会の内容を、

コッソリ聞いていた少女が勝ってに動き出そうとしていた。




――これは、里を出て行くチャンスだわ




長老の孫の【ラム】は、急いで旅の支度にかかる。


ラムは、閉鎖的なエルフの里から出て行きたかった。


里を出て、世界を旅をして見たかったのだ。


その為、神の使いとか、寵愛とかはどうでも良かった。


旅の支度を終わらせたラムは、置手紙をして、こっそりと里を抜け出す。




――おじいちゃん、ごめんね、行ってきます




未だ解決の見えない会議の中、屋敷の者が飛び込んで来た。




「長老、失礼します!


 これを・・・・・」




何事かと思い、手紙を受け取る。


その内容は、この場の空気を悪くする事は確実だった。




――さて、どうしたものか・・・




長老は、隠す訳にはいかず、その手紙を皆に見せた。


当然のように、視線と非難が集中する。




「長老!これはどういう事か!!」




「私達を出し抜いたのか!!」




ため息を吐きながら、長老は、話す。




「儂の孫の仕出かした事を許容する気は無い。


 それに、あの方の御迷惑になっては、申し訳が立たん」




「なら、どうするのだ!」




「ああ、皆には、一度戻って候補者を募って貰いたい。


 但し、長1人が選べるのは1人だ。


 その中から、選んで送り出そうではないか」




集会は解散し、長達は、急いで屋敷に戻った。


その長の中の一人、ロウは屋敷に戻ると、大声で呼びつける。




「誰かおらぬか!」




「ロウ様、如何なさいましたか?」




「ああ、一大事だ、娘のいる縁者を直ぐに集めよ!」




「はい!」




ロウの様子に家の者は、急いで娘のいる縁者を屋敷に集めた。


集まった皆に、ロウは、内密にすることを条件に話を始める。


ロウの話を聞き、縁者たちに動揺が走った。


喜ぶべきことだが、ロウの顔を潰すわけにもいかない

だからこそ、慎重にならざるを得ないのだ。




「ロウ様、それで誰を?」




「まだ決めてはおらんが、武力を持ち、器量が良く、

 寵愛を受けれる者を送り出したいのだ」




「それは、ごもっともでしょうな、だが、そうなりますと3人ですな」




ロウは、選ばれた3人の候補を呼び出した。


3人の候補者は、話を聞き、自らを選んで欲しいと言った。


始めに名乗り出たのは、【ヤン】だった。




「ロウ様、私は、幼い頃から武術を父に習い、狩りには自信があります」




ヤンは、自信満々に言い放った。


次に、口を開いたのは、【ホルン】だった。




「ロウ様、そのお方は、どういうお方でしょうか?」




「まだわからぬ。

 ただ、クラウスの手紙によると、

 既に何人かの者が周囲には付いているそうだ」




「そうでしたか・・・私は、その中から寵愛を頂けば良いのですね」




「そうだが、争いを起こす事は遠慮して貰いたい、


 神のお使いに迷惑を掛ける訳にはいかぬからな」




「畏まりました」




最後は、【ミーシャ】という少女だった。


エルフの中では幼く、105歳だったが、器量も良く、武術にも優れている。




「私が参ります。先に旅立たれたラム様とも上手くやれますし、


 武術にも多少の自信もありますので」




ロウは、ミーシャの言葉に頷いた。


ラムは、エルフの里の有名人だった。


男勝りの武術の使い手だったが、周りの調和を乱す事では

ラムの右に出る者はいなかった。


その為、周囲とのトラブルも多かった。




「そうだな、忘れていたがラムの事を考えると、お主しかおるまい」




残された2人も食い下がったが、最終的には、ミーシャに決まった。


翌日の正午、広場には多くのエルフが集まっている。




「これは、どういう事か!」




長老は驚き、長達に聞いた。




「儂は、他言無用と告げたはずだが・・・」




長達は、候補者選びに夢中になり、その事を忘れていた。




「申し訳ありません」




「・・・・・すまない」




長老は、ため息を吐いた。




「お主たちは・・・・・」




仕方なく、長老は集まった者達に今回の事情を説明し、

里の外には話さない様に告げた。


その後は、長達が連れて来た者達の中から、神のお使いに従う者を選んだ。


その結果・・・・・




「ミーシャよ、頼んだぞ」




「はい、急ぎ合流したいと思います」




「うむ」




ミーシャは、皆に手を振りながら里を旅立った。








少し話は戻り、クラウスが手紙を書いている頃、

京太達は、依頼の為に訪れた店にいた。




「こんにちわ、ギルドから依頼の件で来ました」




店員をしていた女性に声を掛ける。




「では、貴方達が荷物を運んで下さる冒険者の方々ですね」




「はい、京太と申します」




「では、奥にどうぞ」




店員に促されるまま店の奥に入る。


奥の部屋には、大量の荷物が積んであった。




「これをお願いしたいのですが」




「中身は、何ですか?」




「見て頂いて構いませんよ」




店員の許可を得て、箱の中身を確認すると、中は全てジャガイモだった。




「芋!?」




「はい、芋です。向かって頂くサバクの街は、食糧難にあります。


 そこに私の家族が住んでいるのですが、困っていると聞いて送る事にしたんですが


 どこも運んで頂けなかったのです」




京太は、不思議に思った。




――配送業者が運ばないなんて・・・




「何故、運んで貰えなかったのですか」




「はい、実は・・・」




女性店員は、サバクの街の事や道中について語った。




「サバクの街が食糧難だという事は話したと思いますが、


 そのせいで強盗や盗賊になる者が多く、

 サバクの街周辺を荒らしまわっているのです」


『苦しいのはわかる。

 だけど、自らの首を絞めるような行為など・・・・』


思わず声に出てしまいそうになるが

『グッ』と堪えた。




「そう言う事ですか・・・」




「はい、それでも運んで頂けますか」




「受けた依頼は、断りませんよ」




京太の言葉に店員は安堵する。




「本当に感謝致します。私は、【メリー】と申します。


 私の家族の住所と名前は、この紙に書いておきましたので、宜しくお願いします」




再び、メリーは、頭を下げた。




京太は、手紙を受け取ると、荷物をアイテムボックスに収納した。




「あれっ、荷物は?」




「僕の魔法です。気にしないで下さい」




だが、メリーは、京太に魔法について訪ねる。




「あの、その魔法は、なんでも運べるのですか?」




「ええ、運べますよ」




「でしたら、追加で料金を払いますので、もう少し運んで頂けませんか?」




京太は、その提案を受ける。




「少しだけなら構いませんよ、ですが時間がかかる物でしょうか?」




「いえ、すぐに準備致します」




メリーは、店をそのままにし、何処かに出掛けていった。


仕方なく、店で待っていると、表に馬車の止まる音がした。




――もしかして・・・・・




店の外に出てみると、メリーが馬車の御者をしていたのだ。


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