第5話再び出会ったメイドのお願い
京太は、メイドに近づく。
「どうかしたのですか?」
メイドは、市場の往来で、膝を付いた。
「お願いです、私を雇って下さい」
突然のお願いに戸惑っていると、セリカが割り込んで来た。
「ここでは、人目もありますので場所を変えませんか?」
メイドが顔を上げる。
「そうですね、私も不躾なお願いをして申し訳ございません。
宜しければ、私の自宅に来ませんか?」
――ついて行くしか無さそうだな・・・
京太は、仕方なく了承する。
「わかりました、他の者達も一緒でも構わなければお邪魔します」
「有難う御座います、では、ご案内致します」
京太達は、市場で買い物を終えると、メイドの案内に従う。
平民街を抜け、貴族街とは反対方向に進む。
道を進むにつれて、街の景観が完全に変わっていった。
――ここは酷いな・・・
京太の目に映ったものは、テレビなどで見た事のある貧困層の住む場所だった。
周囲には、壊れかけた一軒家しか無く、道には人が転がっている。
その中には、死んだ人や、動物の死骸もあった。
時折、綺麗に整えた女性が、男達に声を掛けていた。
女性は、京太を見ると近づいて来た。
「お兄さん、安くしとくから遊んで行きなよ」
女性は、そう言うと京太の前に立った。
近くで見ると、女性の服装は、薄着で胸を強調し、短いスカートを履いていた。
「ねぇ、いいだろ、このままだと飢え死にしてしまうよ」
その言葉に、京太は、どうしようかと悩んでいると、クオンが京太に抱き着いた。
「お兄ちゃん、ダメ!」
京太は、クオンの頭を撫でた。
「わかったよ」
そう言うと、女性に近づいた。
「ゴメン、約束があるから」
そう言って、ポケットに入れていた銀貨を女性に手渡した。
女性は、渡された銀貨を見て驚いていた。
「あんた・・・・・」
「じゃあね」
京太は、その場を離れると、クオンに手を引かれながらメイドの後を追う。
この辺りは所謂、スラム街。
ボロボロの服を着た子供、ガリガリに痩せた赤子を抱くやつれた女性、
仕事が無いのか、昼間から酔いつぶれている男達。
そして亜人種もいる。
迫害されているのだろうか・・・・・そんなことを考えながら京太は歩を進めた。
メイドは、そのスラムよりももっと奥に向かって進んでゆく。
先程以上に寂れた場所。
そんな場所でメイドは足を止める。
「こちらです」
到着した場所は、朽ち果てかけた一軒家だった。
「どうぞこちらへ」
案内に従い、家に入ると、思った以上に酷い。
屋根には、穴が開き、隙間風も当然の様に吹いている。
「ここに1人で住んでいるの」
京太の問いにメイドは、首を振った。
「いえ、もう1人住んでいます、【ノルン】」
メイドが、そう言って声を掛けると、物置の様な小さな場所から、獣耳の生えた少女が姿を現した。
「【サリー】お姉ちゃん、お帰り・・・・・」
「ノルン、こちらにいらっしゃい」
ノルンは、メイド(サリー)の隣に座った。
「自己紹介をさせて頂きます、私は、サリーと申します。
この子は、狐人族の子でノルンです」
「僕は、京太、それから・・・・・」
「クオン・・・」
「ソニアです」
「セリカです、よろしく」
皆がそれぞれに挨拶を済ませた。
「ところで、先程の話だけど・・・・・」
京太は、此処に来た事で、大方の予想は付いていたが、改めて聞く事にした。
「はい、私は、この街で暮らしています。
それで、あの・・屋敷を辞めたので・・・その・・・仕事が無くて・・・」
「それで、雇って欲しいという事ですか」
「はい、お願いできませんか?」
「お願いされても、僕には家もありませんから」
「構いません、何処でもついて行きますので・・・」
サリーの必死さに疑問を感じる。
「何故、そこまで僕に雇って欲しいのですか?
何か、理由があるのですか?」
サリーは、素直に話を始めた。
「私は、この街で生まれましたが、両親も知りません。
ですので、出来る事なら何でもしました・・・
でも、頼る人も居なくていつも1人でした。
ですが、ある時、大人達に捕まっていたこの子を見つけたのです。
それで、檻に閉じ込められていたので、こっそり近づいて話を聞いたら、
森の中で襲われて捕まったとの事でした。
私は、可愛そうだと思って夜中に連れ出しました」
「それで、何故僕に?」
「はい、この子を狐人族の元に帰してあげたいのです。
ですが、私は強くありません、でも貴方様なら、
追手が来ても追い払ってもらえると思いました」
「それで、僕達に付いて行こうと思ったのですね」
「はい、ダメでしょうか?」
「ダメって事はないけど・・・・・」
京太は、皆を見た。
「私は、構わないのよ」
「私もいいわ」
「クオンも大丈夫です」
皆の返事を聞き、京太は、一緒に旅をする事を決めた。
「分かった、一緒に行こう」
その返事を聞いてサリーは、胸を撫で下ろす。
「有難う御座います、何でもしますので遠慮なくお申し付け下さい」
「いや、無理しなくていいからね」
その日は、サリーの自宅に泊まる事になった。
市場で買って来た物を取り出し、食事をする事にしたのだが
京太は料理が出来なかった。
日本では、自炊する時間なんて無かった為、
宅配、カップラーメンに頼っていたのだ。
だから、料理はできない。
京太は、ソニアとセリカに視線を送る。
すると、先にサリーが答えた。
「あの・・・京太様、私が作りますので休んでいて下さい」
「私たちも手伝うわよ」
2人とサリーの申し出を有難く受ける事にした。
「ありがとう、みんな頼むね」
京太が離れると、女性陣達は、サリーと一緒に料理を作り始めた。
サリーの家から、いい匂いが辺りに漂うと、周囲の者達が集まって来た。
すると、サリーの家の扉が叩かれた。
『ドンッドンッ!』
サリーが扉を開けると、子供を抱いた女性が立っていた。
「あの・・・差し出がましいお願いですが、この子に少しだけ分けて頂けませんか?」
ガリガリに痩せ細った女性は、懇願するような目でサリーにお願いをする。
サリーは、断ろうとしたが、奥から京太が出て来た。
「タダであげる事は出来ないよ、でも、働くなら別だけどね」
それを聞くと、女性は頭を下げた。
「何でもしますから、どうか食事を下さい」
「わかったよ、じゃぁ、これで食事を作ってくれるかな」
京太は、市場で買って来た食材を全て取り出した。
そして、大きな声で言った。
「見ているだけの者には、何も上げません。
でも、手伝うなら、食事をご馳走しますよ」
その言葉に、見ていた者達は集まって来た。
「何をしたら、いいのですか?」
それぞれに聞いて来る者達に必要な物を伝える。
「場所も、火も包丁もありません、準備してください」
その言葉に、それぞれに動き出した。
「場所は、そこの広場でやろう」
「火は、儂が起こすよ」
各自が、足りない物やテーブルを広場に持って来た。
それから、女性陣は、料理を作りだした。
手の空いていた男達に京太が近づいてきた。
「わしらにも、何か出来ることはあるかい?」
「手が空いているなら、皆が座れるように周りを片付けましょう」
男達は、その言葉に従い、広場の周りを片付けた。
料理が出来上がると、女性達が、各自持って来た器に食事を盛る。
それを、順番に配り、受け取った者から、空いた場所に座り食事を始めた。
「うめえ!」
「美味しいわ」
それぞれが、笑顔で食事をしていた。
その様子を見た後、京太は、サリーの自宅に戻った。
「お帰りなさいませ」
サリーは、挨拶の後、謝罪をした。
「あの・・・すいません、私が扉を開けたばかりに・・・」
それを聞いた京太は、笑った。
「謝る事じゃないよ、気にしなくていいからね」
そう言って皆の元へと向かう。
食事を済ますと、京太は、広場に戻る。
すると、そこには、食事をした者達が待っていた。
その中から、サリーの自宅の扉を叩いた女性が前に出て来た。
「今日は有難う御座いました、久しぶりにこの子も私もお腹一杯食べる事が出来ました。
本当に有難う御座います」
皆も後に続くように口々にお礼を述べていた。
「気にしなくていいからね」
それだけ伝えると、京太は、サリーの家へと帰る。
だが、その様子を遠くから伺っている男がいた。
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