仕切り直し
第14話 普通
[シバノ]という村ににロイという狩人がいたそうだ。目立った特徴もなく、腰に少し大きめの瓶を付けているぐらいだ。これは彼のそんな生活風景を見る物語である。
「ただいま」
彼は村から少し離れた場所に家を持っている。まだ新品同然の家である。
「おぅ、お帰り」
ロイを迎えた彼女の名前はフェイ、少し男らしい女性である。
この2人の関係は恋人同士などではなく、幼き頃からの友人だと補足しておこう。
「今日の狩りはどうだった?」
フェイが椅子に腰を下ろしながら聞く。それを聞くとロイはため息をつき
「あぁ、今日はボア(猪型の魔物)があまり獲れなかったよ」
それを聞くとフェイはロイに寄り添う
「そうだったか。まぁ、良い。明日今日の分を取り戻せばよいのだ」
前向きなフェイの言葉にロイは
「ありがとう。じゃあ、今日の分を捌こう」
自然と笑顔になるロイ。彼はフェイにこうして救われている様だった。そして、ボアを持ってくる。
「はい、ボア20頭だ」
「カットだ。馬鹿者が」
こうして軽い日常茶番が終わり、フェイの説教が始まった。
「どうしてこんな馬鹿みたいな数倒してるんだ貴様は?」
「いやぁ、最初は5匹ぐらいにしようと思ったんだよ?でも、ボアを1匹狩り損ねちゃって…」
森で暮らしているボアには2つの特性があり、そのうちの1つにピンチになると仲間を呼ぶというものがある。ロイはそれに引っかかり20匹目でようやく抜け出したようだった。
「そんなこんなで全部狩ってきたんだけど」
「いや、逃げて来いよ。相手の数が多くなったら持てる獲物だけ持って逃げる狩りの基本だろ?」
そう言うとロイは首を傾げ
「そうなのか?」
と本当に不思議そうな顔をする。そして、フェイは
「…そうだったな。まずは、その辺の教育からだった」
狩りの基本や人間の当たり前を教え忘れた自分を悔やんだのだった。
さて、ここで軽くフェイについて…フェイの本来の姿であるフェンリルについて解説しよう。
フェンリル 獣種の頂点であり狼の王
そんな生物に人間の当たり前や狩りの基本が分かるのだろうか?という考えを持つだろう。だがその考えは変えた方が良い、フェンリル子供の頃から大人達から人間がどういう生き物かの学習や狩りの心得を叩き込まれる。人間で言う英才教育を受けているのだった。
「まずは人間の習性から話していこう」
人間について人間より知る
「人間は脆いものだ。刃物で簡単に血が出る、ボアに突進されれば骨が砕ける。他の動物に比べると恐れるものが何もなかった生物だった。しかし、人間には知能があった」
そして、語る。
「まず、強くなるため鎧や盾を作った。すると、刃で斬っても血が出なくなりボアに突進されても大丈夫になった。そして、次に動物の硬い毛を斬れる武器を作った。そうすることでボアを中心とした動物が狩られ始めた。これの何が恐ろしいか。それはこの工程を1年足らずに行う成長速度だ。実験、失敗、学習、改良。これを無限に繰り返し人間は成長する。そして、武力を手に入れた人間は技術を手に入れた。剣技、武術、弓術と様々だ。まぁ、今やそれらはスキルと呼ばれているけどね。これらは恐ろしい事だった。弱い人間でも動物の頂点であるフェンリルや生物の頂点と言われていたドラゴンさえも倒しうる可能性が出てきたのだから」
ここで、ロイが口を開く。
「だが、今の人間にそんな技術は無いだろう?」
「あぁ、無いな。その原因は人間を模倣する生物が現れたからだった」
「エルフや魔族の事か」
「あぁ、好奇心旺盛な精霊の集合体エルフ…彼らは人間に言葉を教わる変わり魔法という技術を教えた。しかし、ここで人間の成長速度が裏目に出た。腹に子が宿っている事も知らずに試験段階の魔法を人間に試す。そして、生まれてしまったのが魔族だった。角の生えた
「…魔力の流れが見えている事、魔力から魔族を生み出せる、何故か人間に対し嫌悪感を抱いている」
ロイは1度、魔族に聞いた事がある。何故そこまで人間を嫌うのかを。魔族は答える分からない、ただこの世界に産まれた時から何故か人間が殺したいほど憎んでいる。と
「あぁ、そうだ。人間がその特性に気づいたころには遅かった。人間よりも遥かに魔法を扱う事に長けている魔族は一夜にして魔法に長けている者が集まった国を滅ぼした。そして、成長した魔族たちは他の国に対し戦争を行いその戦争で剣や弓などの
こうして、人間が生物の頂点に立つことは無くなった。
「しかし、例外はやはり産まれる」
「俺の事か」
「あぁ、勇者という謎のスキル。神が生物のバランスを調整しようと与えたものなのか、それとも人間の成長によって産まれたのかは定かではないが、お前の強さは確実に異常そのものだ」
「その否定はしないさ」
「…父から学んだ人間の話はこの程度だろう。次は狩りの基本について話そう」
まだまだ2人の話は続くのだった。
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