恋情メンヘラ甘噛みラヴィング

烏の人

第1話 カプッと

「あ~む………。」


 カプッと、僕の指にすこしの圧力がかかる。僕の友達、長谷川はせがわ 天音あまねには噛み癖がある。対象が自分なら僕がこのようなもどかしい思いをすることもないのだが、まぁお察しのとおりその対象と言うのは城戸きど 偉月いつき、つまり僕である。


「アマネ、通学路でくらいもう少し自重してくれ。」


「えぇ………やら。」


 僕の人差し指を噛んだままそう話す。


「やだって………。」


「なれてるれひょ?」


「悪い、聞こえづらい。」


 そう言うと、ようやく僕の指は解放された。


「慣れてるでしょ?」


「まぁ、慣れてはいるさ。だけど違う、そうじゃない。」


「そうじゃないとは?」


 なぜ君はこう………ずれてるんだ。同じ時を17年間過ごした同級生とは到底思えない。


「………はぁ。」


「え?何のため息?」


 正気なのかこいつは………。


「少なくとも、朝からこれはやめてくれ。その………周りの目が凄く気になる。」


「気にすんな!」


「気にするわ。」


 とまあ………こいつはマイペースなやつなのだ。尤も、今となってはこの方がしっくりくるが。


「まぁまぁ、これも私を助けるためだと思ってさ?ね?」


「それを言われたら………許すしか無くなるだろ。」


「じゃ、指。」


「はぁ………はい。」


 そうして、アマネはまた僕の指を噛む。その甘噛みはどこかくすぐったく、心地いい。あぁ、もう毒されちまったかな。それでも………いいか。


「イツキ。」


「何だ?」


「いつも、ありがとね?」


 はぁ………せめて指離してから言えよ。


「まぁ、構わんよ。このくらい。」


 公衆の面前ですることには多少抵抗はあるがな。それでもまあ、アマネが死ぬよりマシだ。せっかく出来た友達なんだから。

 とまあ、そんな返しをした訳だが僕の指を解放したアマネは一言、僕に聞いた。


「イツキってさ………私の事好きなの?」


「………なんでそうなるんだ?」


「いや、なんとなく。」


「なんとなくって………多分、好きとかじゃないと思う。」


「そこはほら、冗談でも好きって言いなよ。こんなことしてるんだから。私は案外傷つきやすいんだぞ?」


「いやぁ、なんと言うか好きというより………大事。」


「なにそれ。」


「いや、ちょっと考えてみたら多分好きとかそう言う次元じゃないなって思って………言語化したときに一番しっくり来たのがこれだった。」


「………なにそれ。」


 そこでアマネは立ち止まる。振り返ってみると少しうつむいている。覗き込んでようやくわかる………。


「顔真っ赤じゃん。」


「うっさい、ばーか。」


 そうして、アマネは僕の腕をとり肩の辺りに顔を埋めながらその日は登校したのであった。

 知ってるさ、アマネが僕の事を好きなことくらい。とうの昔から。

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