第16話  今日はフルコンボPMS

腹の底からイライラする。

 仕事で人間関係が悪くもなく、彼氏とはそれなりに別れず離れず上手くいっている、両親も年金暮らしだが地方で姉夫婦と暮らしている。



 はたから見れば順風満帆だろう。ミカの35歳の体以外は。



 腹痛がひどく内科に行ったら小さな産婦人科を紹介された。産婦人科と言えば定期検診または妊娠、出産くらいしかなかなか友人も同僚も足を運ばない。


 「子宮内膜症ねえ、まだ初期だから、まずは痛み止めを出すので1ヶ月後にまた来診しにきて下さい」

 同じ年齢くらいの優しい女医さんがやんわりとこれから症状が進行するとホルモン療法がある事、女性なら誰にでもなる病気だと言うこと子供も望み治療をすれば授かる事ができることを伝えてくれたが、3ヶ月前のミカは頭が真っ白になっていた。



 PMS、月経前症候群の生理痛をみんなある事だとどこかなめていた。いや、年齢と共に変わりだした体に怯えて放っておいてしまった。



 血液検査や尿検査や内診など内科と変わらず、怖い場所でもなかった。



 病気が分かった日は、彼の仕事が徹夜まであると知っていたが泣きながら電話をして泣き言に付きあってくれた彼にも感謝している。




 通勤している会社は、女性の働き方に理解があり生理休暇もあり休みもとれる。だが、軽い生理の同僚は普通に生活できてミカを冷ややかにみる。



 何とか歯を食いしばり通勤したが、ある生理前に電車で気持ち悪くなり何とか満員電車を出たが、ホームで吐いてしまった。



 駅員さんがかけつけ、駅員室で休ませてもらったたが、それ以降は休みをとる事にしている。



 ひどい時には、腹痛と頭痛と吐き気のフルコンボだ。インフルエンザの熱がない状態で動けない。



 それが今日だ。




「最悪・・・・・・」

 年末に向かい会社も忙しくなる時期に、ミカは休みをとった。自分より歳上女性には生理ごときで会社を休むなんて甘えてると陰口をたたかれ、歳下の子には弱音は吐けない。



 うつらうつら痛み止めを飲んで眠ってしまったのか、ミカの1LDKの部屋には夕日が差し込んでいた。



 ベッドで毛布にくるまり、思考はどんどん悪い方へ傾き、会社の女性同僚にはイライラがつのる。



 でも1番、最悪なのはこんな状態で理解もされず、ベッドにこもり、動けない自分だ。



 夕飯を買いに行く気力すらない。



 ミカは何とか起き上がり、胃薬と痛み止めだけをペットボトルの水で一気に飲み込んだ。



 「精神的にも不安定になるので、安定剤もだしましょうか」

  先月、女医に言われて思案した後にこれ以上、病人にはなりたくなくてもらわなかった。



  「安定剤、もらっておけば良かったかな・・・・・・」

  またフラフラとミカは、ベッドに戻る。




 自分が泣いてる事に、毛布に次々、落ちていく涙で気がつく。



 「大人なのに、何やってんだ・・・・・・」

 強がる声もかすれて消えた。



 彼には話しているが、親には心配かけたくなくて話していない。田舎の人間だから孫をうっすら望んでいる事をミカは知っている。




 仕事、子宮内膜症、治療、結婚、子供、将来、どうしようもない事が頭の中をグルグルとめぐり、涙が止まらなくなりおえつして、吐いた。




 「消えたい・・・・・・」

 普通に仕事に行っている時は、考えもしない事を考える。社会は世間はまだまだ理解のない病気だ。生理くらいなんだ、もっと辛い病気の人もいるんだと上司に言われた事もある。




 口をゆすぎ、横になるのも辛くてソファに座り込んだ。



 その時、彼からLINEがきている事にミカはやっと気がついた。



 「大丈夫?また泣いてない?仕事帰りに寄るから、食べたいもの返信」

  ミカは、腕で顔をごしごし子供のようにふいた。



 「クッキー、食べたい」

 何とか返信すると1分もせず返信がきた。



  「了解。またいろいろ考えてないで、俺よりかっこいい推しのYouTubeでも見てろ」

  彼からの返信に、痛みも情けなさも不安も少し吹き飛ぶ。




  今日はフルコンボPMSだが、理解ある人が1人だけ来てくれる日だ。



  

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今日は。 長谷川 ゆう @yuharuhana888

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