第13話 今日はコンビニ王子様
どうしよう・・・。
コンビニの店の奥まで着たら、お酒くさい中年のおじさんに腕をつかまれ、清田まゆみは泣きそうになった。
「離して・・・離して下さい・・・」
何とか口から出た言葉はコンビニの店内放送にかきけされる。
「パパ活だろ~?おじさん、お嬢ちゃんになら2万だしてもいいよお~?」
酒臭い口が近寄る。
怖い。怖くて動けない。確か23時以降はここのコンビニの店員は1人だけだ。何とか腕を振りほどこうとしたら、後にあったコピー機に背中をぶつけてしまう。
足音がしたと思ったら、腕はほどかれいつの間にか、いつもレジにいるお兄さんの背中が、マユミを庇っていた。
背中ごしに、おじさんが何かを言う。お兄さんが振り返り見た。怖くて涙があふれ顔を横にふる。
「お客様、大変申し訳ないのですが未成年への話しは事実か私が聞きますので、今日はお引き取り下さい」
お兄さんが頭を下げておじさんにチキンを持たせたら、帰っていった。
お兄さんは、私をイートインまで連れていくといつもの菓子パンとジュースを置いて、送ってくれると言う。
「ありがとうございます・・・清田マユミです・・・」
何とか声が出る。お兄さんは苦笑いをしながら「深田」とネームプレートを見せながら仕事に戻った。
菓子パンとジュースを食べ終わり、掃除や陳列の仕事が終わると、深田さんはコーヒーを持って横に座ってきた。
「俺は大学生、君は近所の中学生?毎日23時以降にくるでしょ?」
怒られるのかと思ったら、優しい笑顔で見てくるので思わずマユミは、目をそらした。
「菓子パンは、その、夕飯?」
聞くか迷って迷って、窓の外を見ながら深田お兄さんは聞いてきた。
「はい。うちは、両親が離婚していてお父さんと暮らしていて、今で言う機能不全家族で、お父さんもあまり帰ってこなくて・・・」
学校の友達にすら言えなかったことが、不思議とスラスラ口から出る。
話しすぎたかなと後悔していると、そっか、と一言だけ言って立ち上がりコンビニのカゴを持って、店内をまわりはじめた。
カゴの中にはカップルラーメンから菓子パンや缶詰にジュースやお菓子など日持ちするものが山とあった。
深田お兄さんは、レジにまわり会計をすると袋2つぶんをマユミに見せた。
「1週間分くらいあるだろ?もう深夜には毎日来るなよ?また来週の月曜日に来たら、1週間分買ったら家まで送るよ」
その袋が自分の食料だと知りマユミはあわてて財布をだしたが、帰るぞと言って深田お兄さんは、店を出て歩きだしてしまった。
「中学生は、金の心配するな、それに女子は危ないから、あ、LINE教えとくから、来る時は連絡して?そしたら、マユミちゃんが来る時に店の前で待ってるから」
袋2つを持ちながら、マユミが教える自宅アパートの家まで迷いなく歩く。
マユミの頬が少し熱くなる。いつもは菓子パンだけ買い、おつりを淡々とわたすお兄さんが、こんなに優しいとは思わなかった。
「ここ?おっ、俺より良いアパートに住んでんじゃん!」 深田お兄さんが袋2つをマユミに渡し、LINE交換をした。連絡は、コンビニに来る時のみだと言われた。
1年前にお母さんが家を出て行って、お父さんも仕事だと言ってほとんど家で会う事がない。テーブルには、いつも千円がおかれていた。
夜は寂しくて押し潰されそうで、夜にコンビニに行くようになっていた。
誰でもいい。明るい場所でいい。独りにはなりたくなかった。
「・・・王子様みたい・・・深田さん」
泥酔したおじさんから盾になってくれて、お金の心配もさせずにおごってくれて、家まで送ってくれる。
いくら何でも中学生で王子様は、恥ずかしいとマユミは慌てて顔をあげた。
「はははっ!コンビニの王子様かあ・・・お城も白馬もないけどねっ!」
深田お兄さんは、笑うと家の鍵をかけて気をつけてな!と言って走ってコンビニに戻って行った。
お城も白馬もなくても、今日はマユミにとっての、コンビニの初恋の王子様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます