第12話 今日は深夜バイト

またあの子だ。

深夜23時を過ぎると、コンビニの入店音が申し訳ないように響く。



21歳の深田は、新卒での内定も決まり大学費用と入社後の生活費を少しでも稼ぐために深夜のコンビニでバイトを週5日している。



友人達は、合コンや卒業旅行を楽しんでいる奴らもいるが、実家がそんなに裕福でもなかったと理由でバイトを始めて3ヶ月だ。



店長から、近所の中学校の制服を着た生徒が1人だけ毎晩23時にくるから万引きなど気をつけるように言われたが、初めてその子を見た時に、深田は拍子抜けする。



中学生男子だと時間から勝手に決めつけていたら、華奢な髪を後ろで1つにまとめた地味な女の子だった。



その子は、店内をうろうろした後に菓子パンを1つだけ買い、帰っていく。



色白で伏し目がち、顔は少し青く顔色がよくない。



菓子パン1つなので、必要最低限の会話しか繰り返さずに帰っていく。親は何にも言わないのだろうか・・・。



深田と女子中学生は、ほぼ毎日会う。そんな4ヶ月後の事だ。



かなり泥酔し、加えたばこした50代くらいの肥満のサラリーマンが中学生と同時に入店した。


サラリーマンは、いつもは夜9時に見る客だが千鳥足で今日はかなり寄っている。


深田がレジ横のチキンの補充をしている時に、ガタガタと店の奥から変な物音がする。



バッグヤードに入り監視カメラをチェックするとサラリーマンが女子中学生をトイレに連れ込もうとしていた。



「マジかよッ」

深田は、2人がもみ合っている場所まで走ると、サラリーマンから無理矢理、中学生の腕を引き離した。


「な~んだよ、兄ちゃん、パパ活したいって言うからさあ」

嘲笑うようなニヤケた顔は、男の深田でもぞっとする。


庇うように背にしている中学生を見ると、涙目で顔を横にブンブンふる。



「お客様、大変申し訳ないのですが未成年への話しは事実か私が聞きますので、今日はお引き取り下さい」

明らかにムッとした顔のサラリーマンの顔がますます脂っこくぎらつく。



深田は、仕方なくポケットマネーからチキンを5本無料でサラリーマンに渡した。ブツブツいいつつも千鳥足のまま帰ってくれた。



振り向くと、中学生の女の子はガタガタと震えている。



「参ったなあ~」

今から店の掃除や在庫確認など深夜バイトしかない仕事は山ほどある。



時計を見ると、24時を過ぎていた。イートインコーナーに中学生を座らせ、警察を呼ぶか聞くとさらに泣き出した。



「わかった、泣くな。少し仕事終わるまでコーヒー・・・ジュースでも飲んでろ、家が近くなら送るから」

仕事中に店を空けるのはまずいが、中学生1人かえすのも怖かった。



サイダーと菓子パンをテーブルに置いて、仕事に戻ろうとすると小さな声が聞こえた。



振り向くと、女子中学生がこちらを向きちょこんと座っていた。



「お兄さん、ごめんなさい。私、清田マユミで、す。家は、徒歩5分のマンション・・・」

相当、さっきのサラリーマンが怖かったのだろう。まだ体が震えている。



「よく出来ました!ちょっと待っててな」

深田が言うとマユミちゃんは、コクンとうなずいた。


まるで、今にも消えてしまいそうな深夜のコンビニで消えてしまいそうな姿だった。





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