第6話 今日は家出

「何が、夕飯よ!今日はハナの学校の集まりがあるから遅くなるってLINEしたじゃない!私は、あんたのお義母さんじゃないのよっ!」

母親のカナのぶちギレた叫び声に、娘のハナは自分の部屋でうんざりした。



また父親が母親の地雷を踏んだらしい。12歳になり、中学1年になったばかりのハナは、学校にも家に居場所がない。



唯一、幼稚園の時からの幼なじみのルナ だけが仲良しのままだ。



バタバタと母親のカナが、廊下や部屋を移動する音と父親の弱々しい声が聞こえた。



「お母さん、少し出てくから!お金は置いてくから!ハナはちゃんとやりなさいよ!」母親のカナがドアの隙間から封筒を滑りこまさせた。



封筒の中には3万もある。は~いと返事をしたとたんに、ドアが閉まる音が聞こえる。


両親が1時間以上ケンカしていたので、お腹がすく。父親に言うと真っ青な顔した父親が、コンビニからお弁当を買ってきたのを食べた。




父親が引退後の男性のように部屋をうろうろしてるのをハナは冷めた目で見ながら部屋に行った。



部屋に入るとベッドに横たわってルナにLINEをする。



【明日、泊まりに行っていい?】

すぐにOKのうさぎのスタンプがきた。



2、3日分の服をキャリーバッグに詰めて眠る。朝、雨音で目が覚めたハナは、ごみ屋敷になったような部屋から、静かに出た。



「あら、ハナちゃん、お出かけ?」

隣の山崎さんの奥さんと鉢合わせしてしまった。ヤバッ。歩く地元マスコミとまで言われてる夫婦だ。



あいまいな笑顔で「ちょっと・・・」それだけ言ってかわした。



「ハナの両親、ケンカ何度め?」

ルナの家は母子家庭でお母さんが夜遅くまで働いている。母親が専業主婦のハナの家とは真逆だ。



「7才からだから、6年かなあ」

ハナはルナの部屋のローテーブルの上で右肘をつき右手で右ほほを押さえたまま、テレビをぼんやらり見ていた。



ジュースとお菓子を持ってきてくれたルナも座る。



「ひま~」ルナがクッキーを食べながら呟いた。



「だね~」ハナは話を合わせるようにうなずいた。子供の頃から両親はケンカがたえず、正直、家で暇なんて思った事がなく、ルナが少し羨ましい。



働いている父親や毎日、家事をしている母親に比べたら、ハナは自分の事だけだから暇なのだろう。



大人になるまでに、膨大な時間があるのにハナの気持ちは休まらない。



「ルナ、親を取りかえっこしようよ~」テレビも面白くなくなり、ハナは言った。


「何、言ってんの~、両親がいるだけでましじゃん」

隣の芝生は何とやらだ。


お客様用の布団にもぐったハナは、ベッドで横に眠っているルナを見た。一定の男の子で呼吸をしている。




両親のケンカの怒鳴りあいの声も聞こえず、話したい友人は眠ってしまった。



月明かりが窓から、天井に小さな光をまつくる。



あ、私、今が暇かも。

ハナは自分で思って、思わず小さく笑った。




どうせ、明日くらいには父親がSOSを出して母親も帰ってくるだろう。



とりあえず、ハナは今日の暇を満喫した。子供の心、親知らずだ。



そんな事を考えていたら、いつの間にか夢の中へとハナは落ちていった。




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