第7話 今日は金欠
まずい、まずいまずい!
32歳、非正規社員、手取り13万、川上ルイは、クーラーのきいた部屋で冷や汗をかいていた。
今月は、友人の結婚式が2つも重なりお祝い金が5万以上の出費。
家賃に光熱費にスマホに食費の出費を合わせたら、あと2日のお給料日まで手元にあるのは、1500円。
交通費は、会社から支給されているとはいえ、結婚の予定もなければ転職の予定もないルイにとっては、貯金には手をつけたくはない。
離婚している両親は、とっくに再婚して大学進学をあきらめた。
それから親からの連絡は途切れた。
何とか非正規社員で働いてきたのだ。
とりあえず、ショーツとストッキングに500円玉くらいの穴があいている。彼氏がありがたい事にいないとはいえ、さすがに会社には履いていけない。
そういえば、駅前に大型の100均のお店が出来た事を思いだし、夜11時、上下ジャージで100均まで走る。
税込で地味な一色のブラウンのショーツ2枚、ストッキング2枚、夕飯としてパンを1つ買ったら、500円は消えた。
家に帰宅して、パンを食べながら冷蔵庫を見る。ビール2缶に、絹ごし豆腐が一丁、さすがにお昼ご飯としては、会社には持っていけない。
「ああ・・・」
誰だよ、非正規社員導入したの。お上か・・・。誰だよ、友人2人が結婚したのに、結婚出来ないの。私か・・・。
とりあえず、冷房は28℃設定にして、タオルケット1枚だけかけてルイは眠った。
手元には、1000円。自炊するお金すらない。朝ごはんをぬいてとりあえず会社に行く。
いつもと同じように、正社員から見下され、仕事は山のようにある。ブラックではないが、ホワイトでもない。
昼は、社内にある自動販売機でコーヒーを1つ買った。直属の上司ではないが、3つ年上の部長が声をかけてきた。
「珍しいな、昼はぬき?」
どんよりとした気持ちになりながら、ことの顛末を話してしまった。
「金欠です。今日はあと300円・・・はは」
ルイが空になった缶コーヒーをゴミ箱に捨てると部長が、どこかへ行ってしまった。
100均のショーツとストッキングを履き、愚痴を行ったら部長は逃げる。
人生が欠乏してる。
仕方なく、午後の仕事を終わらせて会社から出て近くのコンビニに入る。割引されているサラダと野菜ジュースで268円。ギリギリだ。
フラフラしながら、駅に向かうと部長が走ってきた。
「川上、ごめん、ごめん、場所が変わってて探してた」
夕日が落ちはじめたオフィス街で、部長はでっかい保冷ボックスを渡してきた。
「何ですか?これ」
開けると、小さなお弁当が6個も入っている。不審な目でルイは部長を見上げた。
「俺の知り合い、最近この辺りで弁当屋を始めて、試作品の弁当を食べて感想聞きたいって言ってたから、食べたら聞かせてよ!」
爽やかに部長が笑う。
ルイの瞳がうるむ。
決してほどこしとは言わずに、フィードバックで、とんとんだ。
「部長、お給料入ったら、ファミリーレストランでランチおごらせて下さい。」
部長は、蒸し暑い夕日を一喝するように豪快に笑った。
今日は金欠だが、人の優しさにふれた日になった。
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