第5話 続・今日は専業主婦
「何が、夕飯よ!今日はハナの学校の集まりがあるから遅くなるってLINEしたじゃない!私は、あんたのお義母さんじゃないのよっ!」
夜の9時、妻のカナの叫び声がアパートに響きわたった。
一体、俺は何を言ったんだっけ?ああ、夕飯を作っていない事をカナに話しただけだ。
だけなはずなのに・・・目の前のカナは顔を真っ赤にして仁王立ちだ。どうやら俺は地雷を踏んだらしい。
仕事をしながら、これでも家事と育児に協力的だったはずだと思っている間に、カナは旅行カバンに荷物を詰め込みはじめた。
「おい・・・」
何とか出た声と俺の存在を無視して、目の前を歩き娘のハナの部屋に行く妻を見るしかなかった。
「お母さん、少し出てくから!お金は置いてくから!ハナはちゃんとやりなさいよ!」
封筒をドアの隙間から入れて、振り返りもせずに玄関に向かう。
「は~い」
と言うハナの間延びした声と同時にバタン!というドアが閉まる音がした。
俺の小遣いは?シャツは?着替えは?金の管理から家事は全てカナに任せている。3連休が、3連勤に変わった事は確か。
妻が行ったのは、きっと高校時代からの友人のサナさんの独り暮らしの家だろう・・・。
え?俺はそれしか分からないのか。
「お父さ~ん、お腹すいたあ~」
ハナがケロッとした顔で部屋から出てきた。カナは夕飯は作ってないと言った。
「出前でもとるか・・・」
言った後に近所の店がどこで何をやっているのか分からない。慌ててコンビニまで走り、お弁当をハナに食べさせる。
ハナが部屋に入ると、洗濯機がピーピーと鳴っている。蓋をあけると3人分の洗濯物が山とある。
部屋のあちこちを開けて、やっと洗濯物干しを見つけ慣れない手つきで夜干しした。
ハナが使ったのか、コップが山とシンクにある。同じコップを使えば良いものを最近は、種類が増えている。
洗い物を終えて、気がつくと11時を過ぎていた。仕事に家事にクタクタになり倒れるようにスーツのまま眠った。
チャイムの音がする。居留守を使おうかとも思ったが、カナかもしれないと希望をもち玄関を開ける。
「あら、岡野さん。今日もお仕事?」
お隣の山崎さんだ。確か夫婦2人で退職後は生活している。
「ああ・・・休日出勤がありまして、はは」
あまりにも棒読みの言葉に冷や汗が背中をつたう。
山崎さんはドアの隙間から部屋をのぞきこむ仕草をしたので慌てて体ではばんだ。
「雨降り始めたけど、奥様いつも洗濯物は入れていらっしゃるけど?さっきもハナちゃんキャリーケースひいて出て行ったけど、ご家族で旅行?」
山崎さんが右手を頬に手をあてて不審そうに見てくる。
「3連休だけ母娘で旅行に・・・」
洗濯物をいつも?ハナが旅行?頭の中は、大パニックだったが山崎さんは、あら羨ましいとだけ言って帰ってくれた。
慌てて窓を開けると昨日干した洗濯物が雨にぬれてびしょ濡れだ。また洗い直しだ。
洗濯物をまた洗濯機に放り込んで、スマホを見るとハナからLINEが来ていた。
【部屋汚いし、お父さんと居たくない、お母さん帰るまで、ルナちゃんの家にお泊まりしてくる】
部屋は汚いが、ルナちゃんて誰だ?自分が娘の友達すら知らない事にパニックになる。まさか男じゃないだろうな・・・。
【誰だ?ルナちゃんて?お父さんに無断で泊まりはなしだ!】
今さらの威厳をだしてみたが既読スルーになった。
またチャイムが鳴る。
「自治会の集金で~す!」
仕事の忙しさとは違い、四方八方からやってくる雑務に発狂したくなる。
雑務?カナは、毎日この仕事をこなしていたんじゃないか?ハナの学校に料理に買い物に近所付き合い・・・。
それからカナが帰るまでの記憶がない。
「しょうがないなあ・・・あなたはハナを迎えに行って、菓子折り忘れないでよ」
気がつくと元気を取り戻して帰ってきたカナが、自分を見下ろしてぷっと笑った。
カナの専業主婦も仕事と同じく無双だ。俺の3連休は家事という休みなしの勤務から解放された。
あれ?外に出たものの、ルナちゃんの家ってどこだ・・・?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます