第4話 今日は専業主婦

プツッと頭の中で何かが切れる音がした。脳梗塞ではない。カナの家系は血管で亡くなった親族は1人もいない。



「だから、仕事で疲れてんだよお、夕飯くらい作っとけよ、外で食ってくるわ」

会社から帰宅した夫が、またスーツを着直す。



結婚して15年目、同じ38歳、娘のハナ12歳。専業主婦歴14年。ハナを妊娠、出産してから家事育児を一手に引き受けた。



夫は、皿を洗えばシンクが水びたしだろうが、ゴミを出せば燃えるゴミの日に燃えないゴミをだそうが、娘の散歩に付きあっただけでイクメンで、家事だという。



カナがキレる5秒前、娘のハナが「ヤバッ」と言って自分の部屋に入ったのは正確。



「何が、夕飯よ!今日はハナの学校の集まりがあるから遅くなるってLINEしたじゃない!私は、あんたのお義母さんじゃないのよっ!」

夜の9時。小さなアパートに響く声がカナの腹から唸り響いた。



呆気にとられている夫を尻目に、カナは小さな旅行カバンを出して2、3日分の服とお金をカバンに突っ込む。



「おい・・・」

弱々しく話しかける夫を無視して、ハナの部屋の前に3万ほど入れた封筒をドアの隙間から入れる。


「お母さん、少し出てくから!お金は置いてくから!ハナはちゃんとやりなさいよ!」

部屋の中から、は~いと余裕のある返事。



夫は明日から3連休だ。私だって休みのない家事育児を休みたい。カナは勢いよく家を出た。



バタン!と言うドアの閉まる合図が夫の3連勤ともしらず。



カナの行くあては、独身で働いている高校からの友人サナ。



「珍しいね。遊びにくるの」

サナの家に向かう途中でLINEをしたら、3日泊めてくれると返信がきた。



「どうせだったら、ハナちゃんも連れてくれば良かったのに。でも、独りもいいか」

そう言ってサナは、カナにビールをだした。


「何であんなのと結婚したんだろう・・・」

カナの瞳から涙がぽろぽろ流れてくる。



3日間、娘のハナのLINEはやり取りしたが、夫のは全て未読スルーした。




サナの家で、時間も気にせず、料理も作らず、家事もしないで、2人で映画を見たり、近所に出来たカフェに行ったり、久しぶりの休みを楽しんだ。



夫は置いておくにしても、娘は反抗期でも可愛い。しぶしぶ家に帰る。



帰宅するとカナは、呆然とした。



シンクは皿の山、洗濯物は洗って干したまま山、あちらこちらのドアは明けっぱなし・・・。



リビングの真ん中で、クマを作って正座している夫。



「ハナは?」

娘の部屋を見るといない。


「2日目でお父さんとの生活は、耐えられないと言ってお友達のルナちゃんの家です・・・ごめん」

ぷっとカナは思わず吹き出してしまった。娘にも見限られたのか。



「しょうがないなあ・・・あなたはハナを迎えに行って、菓子折り忘れないでよ」

ヨタヨタと夫は立ち上がり、はいと小さく呟いた。


「俺のシャツは・・・」

タンスから2段目とカナが言うと半泣きになった。



しばらくは、良いお灸になるだろうが、またもとに戻るだろう。



繰り返していくしかない。カナは腕まくりをして、いつもの10倍は増えた家事にとりかかった。


ハナからLINEがきた。


【お母さんがいない間、お父さん退職した老人みたいに役にたたない(笑)】


思わず微笑んだあと、カナは山となったお皿を洗い始めた。





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