第3話 今日は未読スルー

「あれ?」

美雨【みう】は、LINEを見て気持ちがざわざわした。



さっきまで学校で一緒だった沙紀【さき】から未読スルーのままになっている。



確か沙紀のバスケ部は、今日は休みのはずだ。夜の7時には家にいる。



塾は一緒だから、今日は9時からだ。さっき送ったLINEは、塾から1番近い駅で待ち合わせようと送っただけだ。



中学2年の秋は、みんな部活よりも受験に力をいれる。



美雨が参考書をカバンに入れながら、クラスのグループのLINEに沙紀が家に帰ったかと打つと、数人が1番先に教室を出て行ったよと返信やスタンプがつく。



沙紀とは小学校からの友達で、1番最初にLINEで友達にもなった。



沙紀は、祖父母と両親とお兄さんという、今では珍しい大家族だ。



美雨は、両親と小学6年の妹との4人家族の核家族。最近、妹の美花【みか】は生意気で、しょっちゅうケンカばかりする。



早めに家を出て、駅前のコンビニのイートインコーナーで沙紀とのんびりしてから塾に行く。



【沙紀、なんかあった?いつもの場所で待ってる】

数分、経過しても未読スルーだ。



【沙紀、もうすぐコンビニ、待ってる】今度は可愛いウサギのOKスタンプもつけて送る。未読スルーだ。



美雨は、コンビニの中をうろうろした後に、2人分ジュースとチョコレートを買って、イートインコーナーで1人座った。



今までは、5分から10分以内には返信があったのに・・・。気持ちのざわざわより、だんだんイライラしてくる。



最近、バスケ部の隣のクラスの子と仲良くしていたのをよく見る。未読スルーのマークと美雨の不安が増えて溢れそうになる。



【塾の時間たがら、先に行ってるね?】

未読スルー。



美雨が塾のいつも同じ席に座っても沙紀は来なかった。



何で・・・。何で無視するの。

泣きそうになりながら、美雨は塾の時間を過ごす。



明日、どんな顔で沙紀に会えば良いのか分からない。


【塾、終わったよ。いつまで無視すんの?】未読スルー。さすがに美雨も限界が来て、塾を出てから電話をかけようとした。



気がつくと、小雨が降っている。最悪。周りの子達は親の迎えがあるが、共働きの美雨には誰もいない。



未読だらけのスマホを持ったまま、小雨の中に足を1歩ふみだす。



「美雨!ごめん!」

沙紀が頭からびしょ濡れになって、こちらに走ってくる。見れば制服姿だ。



むなしさと孤独で、美雨は無視して歩きだす。沙紀に思いきり手をつかまれた。


「何よ!今さらごめんて!スルーばっかりし・・・」

雨の中で叫ぶと、沙紀は目を真っ赤にはらして、涙目だ。



「ごめん・・・家に帰ったら、おじいちゃんが急に倒れて救急車で運ばれて・・・心臓発作で・・・何とか助かったけど・・・スマホ、家に置いてきちゃって・・・」

いつもは、強気な沙紀が声をあげて泣きだした。



美雨は、あぜんとする。自分の事ばかり考えて、焦って、怒って、イライラして。



いつも時間もLINEの返信もちゃんとしてくれる沙紀を疑った。



小さな子供みたいに泣く沙紀を、慣れない仕草で抱きしめた。



体が冷たく震えている。これだけは、文字では分からない。


「私も、ごめん」

雨の中、沙紀を抱きしめたまま美雨は呟いた。



後で、沙紀と2人分のチョコレートを食べよう。沙紀のおじいちゃんの話を聞こう。



今日は未読スルーも雨の中に流れていく。



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