第2話 今日はおひとり様時間

夫は久しぶりの主張、息子2人は野球部の合宿、何年、いや、何十年ぶりの1人だろう。



40代後半、やっと高校生2人の息子達の手も離れて若い時はケンカばかりしていた夫とは、良い距離をとれるようになった。



「何をしよう!まずは録画してたドラマを見て、買ったけれど読んでない雑誌を読んで、ん~!夕食はコンビニにしちゃおっ」

たった2日だけの数十年ぶりのおひとり様に京子は、初夏の風がカーテンを揺らす窓に向かいながら、ひとり浮き足だった。



夫は、2才違いの息子の子育てに疲弊していた時に育休をとってくれた。



が、お皿は洗いっぱなし、アパートのあらゆるドアは開けっ放し、子供2人より先に昼寝で眠りっぱなし、最後にキレたら

「俺だって仕事で疲れてるんだよ!」




何のための育休だよ。それからがむしゃらにワンオペ育児を京子は、頑張った。



成長した息子2人は順調に反抗期を迎え、ババア呼ばわりの毎日。野球の泥臭いユニフォームを洗っているのは、そのババアだとキレた事100回以上。



静かなアパートを軽く掃除してから、おひとり様時間だ。



夜はゆっくり録りだめしたドラマを見るために、先に2日分の食料を買うために、近所のコンビニに行く。



ドアが開くと、涼しい、人生が!


カゴを持ち、日頃はダイエットで我慢しているスイーツのコーナーに行った。



ぱったり、息子の野球部のママ友と会う。面倒と思いつつ愛想笑いをする。


「あら、京子さん珍しいわね。あ!合宿かあ、うちは娘が大学受験だから、夏休みなしよ!お互い無理せずにね!」

向こうも早く切り上げたかっのか、挨拶ですんだ。



普段なら、夫に文句を言われそうなスイーツを2日分、冷凍食品を2日分、お酒も買った。



外に出ると初夏なのに、かなりの暑さだ。息子達は、熱中症にかかってないだろうか・・・。



いかん、いかん。貴重なおひとり様だ。



夕食は、冷凍食品のグラタンにモンブランのケーキにビール。大好きなドラマを大音量で見ながら至福の時間。



気がつけば0時を過ぎていた。

布団にもぐり、スマホでドラマを流しっぱなしで眠る。



翌朝、京子が目を覚ましたのは午前11時。独り暮らししていた時以来だ。



昨日買っておいた、パンにサラダにスパゲッティにチーズケーキをゆっくり窓の外の初夏の青い空を見ながら食べた。



明日には、うるさい男3人が帰ってくる。

ため息と同時に、騒がしい毎日も何だか懐かしい。



今日まではおひとり様時間。何だかんだ家族の事を京子は考えている。



「しかたない、明日の夜はみんなが好きなカレーでも作るか」

京子は、席を立ちながらコンビニのプラスチックを洗い、ゴミ箱へと捨てた。



まだ今日は始まったばかりだ。


家族の時間が大事なように自分の人生だって大切なのだ。


初夏の風がゆったりカーテンを揺らしている。





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