今日は。
長谷川 ゆう
第1話 今日はミスだらけ。
「あ~あ!」
いつもの居酒屋で、夏実は3本目の熱燗を飲んでいた。
会社で新人を任される年にはなったが、その新人男性が何度、教えてもミスをする。
謝罪やフォローは、全て夏実だ。30を手前に婚カツを始めて休日は、婚カツに励んでいた。
新人男性がミスをするおかげで、休日返上で仕事をしている。そろそろストレスも限界か。
「いくら言えば、覚えるのよ!」下を向くまだ大学生の若い香りをまとっている新人、佐藤が黙る。
周りには結婚に焦り、婚カツで休みを全て使い捨て、ヒステリックに新人に八つ当たりする女性として見られただろう。
「おじいさん~熱燗もう2本!」
夏実が頼むとカウンターの自分の父親くらいの歳のおじさんが困った顔をした。
「夏実ちゃん、飲み過ぎ。明日も会社でしょ?そろそろ終電きちゃうよ」
もう8年以上の付き合いで、夏実にとっては、父親みたいなものだ。
「そんなに仕事できないの?その新人さんは?」
おじさんが、熱燗を出しながら夏実に言う。
「もう、ダメ、ダメ太郎。研修終わる前に私がクビになりそう」
絡み酒と分かりながら、夏実は熱燗を飲んだ。
「ダメ太郎かあ。おじさんも、よく日本料理屋に新人として入った時は、よく怒られたなあ」
珍しくおじさんが、昔の話をする。
「独立して店を持っても試行錯誤でさ、ある時に聞く事に徹したらうまくいったなあ。夏実ちゃんの愚痴とかさ」
おじさんは、ニタリと笑う。
「何よ、それぇ」
夏実が笑う。
「ダメ太郎君は、役に立つ男だよ」
冷やっこを出しながらおじさんが言う。
「ダメ太郎君のおかげで、毎日夏実ちゃんが来て、うちが儲かるんだもん!ダメ太郎君に、おじさん頭があがらないよ!」
夏実は、ほおばった冷やっこを吹き出しそうになった。
そうか、社会はめぐっているのだ。今日はおじさんをいつもより絡み酒の金で儲からせたダメ太郎を許すか。
夏実は、お勘定を済ませて夏の熱気のこもった夜へと踏み出した。
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