第六話 発見
結が車外に出るとひんやりとした空気が頬を撫でる。やはり見渡しても人の気配は無く、霧ががった荒野が広がっているだけだ。
およそ人工物らしき物体は見当たらず、月明かりが降り注いでいるお陰で辛うじて視野が確保できている状態だった。
「さて、これからどうするかな?」
タクシーは無力化したが依然として裏世界から戻れていない。闇雲に居るか居ないか定かでない被害者を捜し回るのも得策ではないだろう。
「ふふん、どうやらお困りの様だなアイボー。ここはクロエ様に任せたまえ!」
考えを巡らす結を尻目に、言うが早いかクロエが車内をスキャンしていたドローンに指示を送る。
すると先ほどまで地面を走っていたドローンが変形し、プロペラ式の飛行タイプになり一斉に飛び立っていく。
「おお、相変わらず万能だなこのドローン」
結が素直に感嘆の声を漏らすと、クロエが周りの地形データを取得しながら得意気に返事する。
「そうだろう!この水陸空対応探索ドローンは俺の力作だからな。さすが俺、Aliceが作るオモチャとは違うんだよなあー」
またクロエがAliceに対抗意識を燃やしてるな、と感じたが以前その事を指摘すると一週間話してくれなくなったことを思い出して結は口にでかかった言葉を飲み込む。
「ふむふむ…ドローンからのリアルタイム映像からして半径5km範囲には何にもないな。それにしても結局この世界は何なんだ?タクシーに気をとられてたけどここの地質とか調べたら」
「クロエ、好奇心旺盛なのは良いけどちゃんと被害者探そうな」
「わ、わかったよ。だから通話越しに圧かけてこないでくれ…」
ぶつぶつ文句を言いながらもクロエは捜索範囲を広げていく。結もいつでも動けるように準備を整えながらふと空を見上げた。
空には霧を通してもなお美しい満月と星が輝いているのが観てとれた。しかしながらどれも見知った星座とは異なっている。
それにこんなに綺麗な夜空が見れる事こそが"異常現象"なのだ。大気汚染が進んでいる現代の地球において、満点な星空が見える事態こそが怪奇現象なのかもしれない。
「おい、アイボー!さっきタクシーが向かっていた方角に建造物らしきものがあるぞ。それに生き物らしき反応もあるみたいだ」
「――わかった、案内頼む」
少し夜空に見惚れていた結だったがクロエの一報を受け、そう答えながら走り始めた。
~~~
「――この場所って」
「所謂、廃神社だな。かなり風化してて祀られてた神様とかは特定できなかった…というか裏世界に祀られている物が何なのかなんて知りようもないか」
クロエに導かれて着いた場所には苔むして辛うじて原型を留めていた鳥居が聳えていた。
夜の静けさが廃れた神社に立ち込め、かすかな風がその古びた鳥居を揺らしていた。朽ちた木々が月明かりに照らされ、影を作り出している。
足元には葉や小枝が散らばり、草花が古い石畳を破りながら生い茂っていた。
神社の本殿は朽ち果て、その屋根はほこりっぽい光を反射している。扉は錆びつき、風が吹くたびにギシギシと音を立てていた。神社の中庭には不気味な森が広がり、かつての神聖さがただよっているかのようだ。
境内には古びた石灯籠が立ち並び、青白い光を放っている。その光が長い影を作り、まるで影が生きているかのように見える。かすかな神聖な気配と同時に、不気味な異次元のような空気が神社全体を包み込んでいた。
「おい、ここは…」
「わかってる、あまり長居したくはないな。クロエ、例の生物反応は?」
「ああ、そこから2時の方向、15メートル先だ」
結は急いでクロエがナビしたポイントに歩を進める。石灯籠が照らす境内を進むと、人らしき影が灯籠の影で横たわっているのを視認できた。
結が近づきその人物を抱き抱え、様態を確認する。どうやら気を失っている様だが命に別状は無いようだ。
「――クロエ」
「ああ、視界の情報より解析した。顔認証からこの女が今回のターゲット、遠藤夏子で間違いない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます