第三話 神隠し
「――っ!」
右腕に鋭い痛みを覚え、結は目を覚ました。いつの間にか完全に寝入っていたようだ。とっくに家についてる頃だろう。
目的地に着いたらタクシーが音を鳴らして起こしてくれるはず何だけどな。
結は全く気づかず爆睡していた自分の図太さに半ば呆れながら時計を確認する。
――AM 2:00
疲れていたとはいえ寝すぎだろ、頭を掻きながら自己嫌悪に陥る結だったがある違和感に襲われた。なぜか車体が大きく揺れているのだ。
まだ走行中なのか?それとも家には着いているが別の原因で揺れてるのか?
一瞬タクシー側の故障か自分の操作ミスを疑った結だったが、窓の外を視て動きを止めた。
外の景色は霧に包まれており、時々垣間見える景色には高層ビル群はなく舗装されていない野道が広がっている。23区内を走っていた車窓から見えるには明らかに異質な光景だ。
更に奇妙なことに先ほどから事故で失ったはずの右腕に継続的に痛みを感じる。最新のロボットアームを装着しているが、神経は通っていないためこれは精神的な要因からくる物だ。
――
くそ、どうなってんだ。とりあえずタクシーを停めないと。
心の中で呟きながらも状況を整理するため、結は手首の端末を起動させる。問題なく起動でき、どうやら通信もできているようだ。
依然として緊急事態ではあるが、外部と繋がっているだけで幾分か気持ちが落ち着いてくのを感じる。
続いて結が現在地を確認できないか試そうとした瞬間、端末が鳴り出した。反射的に通話ボタンを押すと電話越しにも伝わってくる程の怒気を孕んだ声が飛び出してきた。
「やっっっと繋がった!お前はどこほっつき歩いてんだよ!」
「――この声はクロエか?いや帰ろうとはしてたんだけど、何が起きたんだか良くわからなくて…」
「ならなんで三日間も行方不明になるんだよ!俺がどれだけ捜したか…」
食って掛かるように話しているクロエの声が微かに揺らいでいる。どうやら本気で心配をかけてしまった様で結はとりあえず謝罪した。
「ごめん、クロエ。帰ったら美味しいご飯作るから泣かないでくれ」
「な、泣いてねえよ!勘違いすんな…でもお腹空いたから早く帰ってこい。寿司!雲丹いくら大トロサーモン食べたい!」
「善処します…そうだ、さっき三日って言ってたけど何のことだ。疲れてたけど流石の僕でもそんなに寝過ごさないぞ」
「間違ってねえよ。寝ててもお前が全然帰ってこないからGPSを確認したらロストしてるし、ログから消えた地点割り出して監視カメラ映像みてみたら他の行方不明者と同じ様に消えちまったんだぞ!あれから三日間あらゆる手でお前を捜してたのに見つからないし、連絡もとれないし…良くみたら今も通話できてるのに発信位置はロストしたままだ、なんだこれどうやって繋がってるんだ?」
さっきまで泣いていたのに異常な現象に気づいたクロエは嬉しそうだ。結は興味津々にデータを解析しているクロエの姿が簡単に想像でき苦笑する。
先日クロエがみせてくれた行方不明者の映像には、タクシーが"映っていなかった"。
誰もが手を上げ、まるで目の前にタクシーが止まったから扉を開けて乗り込もうとするジェスチャーを何も映っていない虚空に向かって行っていたのだ。
そこまでは酔っぱらいの悪ふざけかと思ったが、乗り込む様な行動をした全員が次のフレームで忽然と姿を消していた。
監視にはAliceの最先端カメラが使われているため、ホログラムを使って誤魔化したり光学迷彩で姿を消す程度では見破られてしまう。ましてやハッキングして映像を改竄できる人間なんて世界中を探してもクロエ級の化物くらいだろう。
「このご時世に都内で神隠しに遭うなんてよっぽど運が悪い奴らとは思ってたけど、こいつを捜してたとはいえ僕まで神隠しに遭うなんてな。しかもこっちとそっちでは時間の流れがずれてるし…こいつは異空間の類か?もしくは裏世界的なやつかなどちらにせよ面倒くさいな」
「愚痴ってる場合か、周りはどうなってるんだ。とりあえず視界を共有しろ、スキャンかけるぞ」
「ああそうだった、起動するからちょっと待ってくれ」
結が端末を操作すると装着していたコンタクトレンズが結の視覚映像をクロエに転送し始めた。
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