第8話 地名・地名・地名
今年の真夏も暑い。私は有り難いことに冷房のついた部屋で仕事ができる。在宅のwebデザイナーだからだ。工事現場や大工さんなど、炎天下で仕事をしている方達の事を考えると頭が下がる。立派な仕事だと思う。
一つ仕事を片付けて、データを無事に送ると昼でもデスクワークには電気スタンドを付ける薄暗い北向きの仕事場で椅子に座ったまま伸びをした。
この仕事場の薄暗さが私は好きだ。だから電灯を消した。その薄暗さはどことなく水に潜った時の視野に似ていると思う。
パソコンに向かいながら飲んでいた無糖紅茶のボトルの残りを口にしながら、私は小さな本をペラペラとめくった。
電車の路線図をまとめた本だ。最近この本を読みながら頭の中であれこれ計画を立てるのに最近ハマっている。内陸の海に関することだからだ。
私は私以外にも内陸の海水が見える人がいると信じているし、海のかけらの潮溜まりはこの街以外にもあるかもしれないとも思っている。
それを探すために目星をつけているのだ。
駅の名前を読みながら色々予想を立てている。海から遠いのに、海っぽい地名が付いている駅を探すのだ。数か所あった。
渚町駅、磯見駅、白砂町駅、等だ。そしてこれらの駅が並ぶ路線には自宅からの最寄り駅から乗れるのだ。そしてその最寄り駅は六本足の歩道橋を渡ったすぐ先にあるのだ。
間違っても海に近い場所に近づいてはいけない。そこで見つけた海っぽい名前の地名は別に貴重でも何でもない。普通の生活の知恵だ。
内陸部なのに海にちなんだ名前を持っている……そこにはきっと私を満足させる何かがあるのに違いない。
隠された海水を見ることができる人、ビルの陰にひっそりと塩水を湛えている潮溜まり、引き潮から取り残されて数万年も生き続けている章魚や貝。
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