【創作童話】コロックと短冊

Danzig

第1話

七夕の話


昔、昔の話です。


みなさんは、七夕という行事を知っていますか?

七夕は、離れ離れにされてしまった、織姫と彦星が、年に一度だけ、天の川を渡って、会う事を許された、特別な日です。


でも、その特別な日に雨が降ってしまうと、天の川の水が増えてしまうので、天の川を渡る事が出来なくなって、二人は会えなくなってしまうのです。


このお話は、昔、昔に、何年も七夕の日が雨になったいた時のお話です。


この村には、とてもやんちゃなコロックという子どもがいました。

コロックは、悪戯(いたずら)が大好きで、勉強が大嫌い、遊ぶのが大好きで、じっとしている事が大嫌いな子どもでした。


そんなやんちゃなコロックですから、友達があまりいません。

でも、コロックは、そんな事をちっとも気にしていませんでした。


コロックは一人になると、星見(ほしみ)の丘と呼ばれる高台(たかだい)に行っては、一人で空を眺めていました。

この星見の丘は、周りに遮(さえぎ)るものが何もなく、空がとても大きく見える所です。

夜になると、満天の星が見える事から、星見の丘と名付けられました。


コロックは、この丘に来て、昼には雲を、夜には星を見るのが大好きでした。

雲や星を見ていると、コロックは、どこか、お話の世界にいるような、そんな気持ちになれました。

ですから、友達があまり出来なくても、寂しくはなかったのです。


コロックは特に夏の空が大好きでした。

昼間の入道雲は、もくもくと大きく、真っ白な棉で作った山のようで、恰好よく。

夜の天の川は、キラキラ輝いて、まるで宝石を散りばめたように、とても綺麗で魅力的でした。


夏の空は、コロックをとても楽しい気持ちにさせてくれます。

ですが、そんな夏でも、コロックにとって、凄く不満に思っている事がありました。

それは、毎年、七夕の日に雨が降る事でした。


雨が降ると、織姫と彦星が合う事が出来ません。

一年に一度しか会えないのに、その日に雨が降るなんて、

それも、何年も雨が降るなんて

コロックは、織姫と彦星の事を想うと、七夕の雨がとても不満でした。


夏になると、コロックはいつも、その事を考えていました。

そして、その年の七夕も雨が降ったのです。


「どうして雨がふるんだろう・・・」


コロックは不思議に思いました。

どうして雨が降るのかが分かれば、雨を降らせなくする事も出来るかもしれません。


「そうだ、じいじに聞いてみよう!」


コロックは、村で一番の物知りじいじに、どうして雨が降るのかを聞いてみる事にしました。


「ねぇじいじ、どうして雨ってふるの?」


「そうじゃな、

雨はな、水の神様が、雨雲を作るのじゃ

そして、その雨雲を竜(りゅう)が運んで雨を降らせるのじゃよ」


「そうなんだ・・・

じゃぁ、その竜にお願いすれば、七夕の日が雨にならずにすむのかな?」


「さぁ、それはどうじゃろうな」


「じゃぁ、その竜ってどこに住んでるの?」


「うーん、何でも、西の方にある、一番高い「竜門山(りゅうもんざん)」という山の上の方におるらしいな」


「わかった、オイラ行ってみるよ」


そういうと、コロックは西に向かいました。

そして、一番高い竜門山を見つけて、登り始めました。


竜門山はとても高い山で、登っても、登っても、頂上には着きません。

コロックは、段々足が痛くなってきましたが、それを我慢して登りました。


どれだけ登ったでしょうか

へとへとになって、もう登れないと思った頃、コロックはようやく、竜の住む社(やしろ)を見つけました。


コロックが社に近づくと、竜が雨雲を運ぶ準備をしていました。

コロックは、竜にいいました。


「こんにちは、竜さん」


「誰だね、君は?」


「オイラ、コロックっていいます」


「コロックか・・・

それで、コロックは何の用でここに来たんだね」


「竜さんにお願いがあって来ました」


「私にお願い? それは何だね?」


「はい、七夕の日に雨が降ると、織姫と彦星が会えなくなってしまいます。

だから、雨を降らせるのを、やめてはくれませんか」


「雨をやめる?

雨は、君たちの田んぼや畑に必要だから、水の神様が用意して下さっているんだよ。

君たちに必要なものなんだ、だから、そんな事を言うもんじゃないよ」


「いえ、七夕の日だけでいいんです。 その日だけ、雨を降らせないで欲しいんです」


「うーん」

竜は少し考えて言いました。


「雨の予定を何日か変える事なら出来るよ」


コロックはその言葉を聞いて、とても喜びました。

「ありがとう

じゃぁ、来年の七夕は雨をやめてくれますか」


コロックの願いに、竜が難しい顔をして答えます。

「だけどね、その日に雨をやめるかどうかは、君次第だよ」


竜の言葉を聞いて、コロックは驚(おどろ)きました。


「え? オイラ?

雨雲を運ぶのは竜さんなのに、どうしてオイラなの?」


竜はコロックを見つめて話します。

「君は、私にお願いをするんだよね?

人にお願いをするのなら、君もそれと同じだけの何かを用意しないといけないよ」


「そんな事を言われても、オイラ、お金もないし

何も持ってないよ」


人にあげられるものを何も持っていないコロックは、もう願いは叶えられないのかと思って、悲しくなりました。

でも、そんなコロックを見て、竜が言いました。


「そんなに悲しまなくてもいいんだよ

私はお金や物が欲しい訳じゃないんだ、君の想いが見たいだけのさ」


「オイラの想い?」


「あぁそうだ、どれだけ願いを叶えて欲しいかという、君の想いだよ。

いい加減な気持ちでお願いをするのなら、私はそんなお願いを叶えてやろうとは思わない」


「いい加減な気持ちじゃなよ。

オイラ、本当に織姫と彦星を会わせてあげたいんだ」


「そうか、では、その想いを私に見せて欲しい」


「オイラはどうすればいいの?」


「そうだな・・・」


そういうと、竜は、コロックの事をしげしげと見つめました。


「ふむふむ

どうやら君は、じっとしている事が苦手なようだね。

そして、字も綺麗に書けないようだ」


「それは、そうだけど・・・」


「では、コロックよ、君は字を練習しなさい。

君がどれだけ、字を上手に書けるようになるか、

それで、願いを叶えるかどうかを決めよう。


ちょうど私の子どもも字を習っているから、

私の子どもよりも上手な字が書ければ、君の願いを叶えてあげよう」


「字で勝負をするの?」


「あぁ、字は勝負をするようなものではないが、

君がどれだけ上達したかを見る為に、比べてみようという事だ。

できるかい?」


コロックは少し考えて


「わかった、オイラ字を練習するよ。

オイラが綺麗な字を書けるようになったら、願いを叶えてくれるんだね」


「あぁ、それは約束しよう

だが、字の練習は、机の前にずっと座っていなければならないよ。

今の君にはとても辛い習い事になるよ」


「うん、でも、オイラ頑張るよ」


そう言って、コロックは山を下りました。

そして、次の日からコロックは字を習い始めました。


でも、字を習う事は、山で竜が言ったように、コロックにとって、とても辛いものでした。


まず、机に向かってじっと座っていないといけません、

そして、丁寧に丁寧に筆を動かさないといけません。

先生の説明をよく聞いていないといけません。


それは、コロックには苦手なものばかりでした。


それでも、コロックは織姫と彦星のためにと思って、一生懸命頑張りました。


「あのコロックが、字を習うなんて」

「一カ所にじっとしていられない、あのコロックが」

村のみんなは、コロックを見て驚きました。


「どうしたんだよ、コロック、字なんて習って。

そんな事より、いつも見たいに、遊びに行ったらどうなんだい」


そんな言葉を掛けられても、コロックは、字の練習を続けました。


そして、一年が過ぎました。


竜との約束の日、

今日は七夕の前日です。


コロックは、一番上手に書けた字をもって、竜門山(りゅうもんざん)に登りました。



「コロックよ、綺麗な字は書けたかね」


竜が言います。


「うん、書いて来たよ。

これがオイラの一番上手に書けた字です」


そう言って、コロックは自分の書いた字を竜に渡しました。


「ほう、上手に書けたじゃないか、では、比べて見ようか」


そういうと竜は、コロックの字と、竜の子どもの書いた字を比べました。

そして、竜は言いました。


「コロックよ、残念ながら、私の子どもの字の方が上手なようだ

だから、君の願いは叶られないよ」


コロックが丁寧に、一生懸命に書いた、一番上手に書けた字は、負けてしまいました。

コロックは悔しくて悔しくて涙が出ました。


もっと頑張っていれば、もっと丁寧に書いていれば。

コロックは、織姫と彦星に申し訳がない気持ちで一杯になりました。


そして、コロックは竜に言いました。


「もう一度、勝負をさせて下さい。」


竜は言います。


「あぁ、何度でも勝負をするがいい。

但し、勝負は一年に一度だけだよ。」


コロックは泣きながら山を下りました。


そして、その年の七夕は雨が降ってしまいました。


「次こそは」


コロックは、もう一度、一生懸命に字を練習しました。


「今度は、もっと真剣に、もって丁寧に」


何度も何度も、そう自分に言い聞かせながら、コロックは字を書き続けました。

コロックは、いつしか星見の丘にも行かなくなっていました。


そんな真剣なコロックの姿を見て、

もう誰もコロックの事を笑う人は居なくなっていました。


それどころか、コロックを見習って、字を習い始める子ども達が増えて行きました。


そして、また一年が過ぎました。


七夕の前日

コロックは、今年も竜門山に上りました。


「コロックよ、綺麗な字は書けたかね」


竜が言います。

コロックは、竜に一番上手に書けた字を渡しました。


「ほう、とても上手に書けるようになったんだね」


「オイラ、一生懸命頑張ったよ」


「お前の頑張りは、この字を見れば分かるよ。

では、比べてみよう」


そういうと竜は、コロックの字と、竜の子どもの書いた字を比べました。

コロックは、どうか願いが叶いますようにと、祈るような思いで竜を見つめていました。


そして


「コロックよ、今年も、私の子どもの字の方が、ほんの少しだけ上手だったようだ」


竜は少し申し訳なさそうな顔で言いました。


竜のこの言葉を聞いて、コロックはその場にペタンと座りこんでしまいました。

あんなに一生懸命やったのに、竜の子どもには届かなかったのです。

コロックの目には、涙が溢れてきました。


「コロックよ、これは約束だからね。

残念ながら・・・」


竜がそう言いかけた時


「僕も字を書いて来たよ!」


コロックの後ろから子どもの声がしました。

そこには、村の子どもが立っていたのです。


「私も字を書いて来ました」

「俺の字も見て下さい。」


子どもは一人ではありません。

村中の子ども達が後から後から、どんどんと登って来ては、コロックの後ろに立って、

竜に自分の書いて来た字を見せているではありませんか。


みんな、はぁはぁと息をしながら、疲れた様子でした。

それは無理もありません。

この竜門山は、やんちゃなコロックでも、疲れきってしまう程の高い山です。

それでも、みんなは頑張って、この高い山を登り、コロックを応援する為に追いかけて来たのです。


そして、登って来た子ども達は、次々に竜に向かって言いました。

「僕の字だって見てください」

「コロックだけじゃないんです」

「みんなが、書いたんです」

「みんなで、一生懸命書いたんです」

「だから、私達の字も見てください」


その様子に竜も驚きを隠(かく)せませんでした。


「これは何という事だ」


村中の子ども達の真剣な眼差しが、竜を見つめているのです。

それには、竜も関心をしました。。


「わかった、わかった

今回の勝負は君たちの勝ちとしよう。

約束通り、明日の七夕には雨を降らすのをやめよう」


その言葉を聞いた瞬間、

村の子ども達は一斉に飛び上がって喜びました。

みんなが手を取り合って喜んでいます。

その中にコロックもいました。

コロックも皆と一緒に手を取り合って喜びました。


そして、みんなが喜んだ後に竜がいいました。


「もし、来年も勝負をするのであれば、今度は君たちの村の中で、一番上手に書けた字を持って来なさい。

その字と勝負をしょう。」


その言葉に、村のみんなは、竜を見て頷(うなづき)きました。


「今回は、みんなにご褒美(ほうび)を上げよう。

そこに生えている、笹竹(ささだけ)を持って行きなさい。


七夕の日に、その笹竹に願い事を書いた短冊(たんざく)を飾れば、その願い事を叶えてあげよう

竜はそういうと、社(やしろ)の中に消えていきました。


子ども達は、笹竹を持って帰り、七夕の日に短冊を飾りました。


短冊には

「字が綺麗になりますように」

「習い事が上達しますように」

という願いが書かれていました。


それからというもの、七夕に飾る笹竹には、習い事の上達を願う短冊が飾られるようになったという事です。



さて、今度の勝負はどちらが勝つのでしょうか?


おしまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【創作童話】コロックと短冊 Danzig @Danzig999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ