第3話 その後の彼ら
その夜屋敷は炎上し、その屋敷の主人と秘書が
亡くなった。
その屋敷の婦人と子どもは『たまたま』
不在であり難を逃れることとなった。
婦人は『たまたま』祖母の家を訪れており
そこで主人の訃報を知らされた。
なぜその日、そのタイミングで祖母の家に
いたのかを何度も何度も気の遠くなるほど
しつこく尋ねられたが
「ふと急に会いたくなったので」
と答えるのみであった。
その後の処理は何者かによって勝手に行われ、
事故死と認定される。
結局婦人には、主人が何かあった時の為に用意
していた婦人用の財産と子ども達しか
残らなかった。
そしてもう1つ。
婦人には証明しなければならないものができた。
初め婦人は主人に頼まれてこの暗殺者は
自分達を逃そうとしたんだと思ったが
そうではなかった。
彼、いや彼女は
決行の下調べをしていた際
疑問を持ったらしい。
婦人が子ども達に向けて歌った歌。
「私はあなた達に出会う為に生まれたの
あなた達に出会えて幸せが喜びに変わるー…」
暗殺者は思った。それは嘘だと。
だが嘘だと証明ができるわけではない。
だから…
暗殺者は言った。
「それが嘘でも嘘でなくてもどちらでもいい
だが、それがどちらであるのかを証明するので
あれば…」
婦人達だけ助かる手段を教えてくれると
言うのであった。
そして婦人は暗殺者の言うとおりに動いたのだった。
最後に婦人は暗殺者に言った。
「あなたが信じるかは分からないけれど
あの歌は本当よ。少なくとも私達にとっては
私も母も祖母もそうやってお互いに大切に 思い合って生きてきたのだからー」
何の感情もなかった死神の瞳に
納得と不思議の感情が見えたような気がした。
あの死神は多少は満足したのだろうか?
「私はとても優秀らしいからね…
仕事が早い分こういう隙を作ることができる
あの歌を聴いたのも…」
それ以上は話さず、聞くこともできなかった。
婦人には分かっている
そのような仕事をする者が
自分と同じような世界に生き、感情を持っている
わけがないことを。
それでも彼女は思う
また会いたいと。
主人を殺めた相手なのだとしても
抗えない大きな力の前で私達は…
きっと何もできない。
それでもささやかに生きていく。
きっと2度と会うことはないのだろうけど
それでも彼女は時々その死神を思い出すのだった。
おしまい
死神と、ある婦人 漂うあまなす @hy_kmkm
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