第27話 ひとり 三畳間から悲しみが一望できる 

 ひとり 三畳間さんじょうまからかなしみが一望いちぼうできる


 孤独であった。心が、ひとりきりであった。

 私も、大勢おおぜいの仲間と共に、楽しくときを過ごしたかった。そして、大人数のなかへと自分のからだと心を滑り込ませた。しかし、孤独な思いは変わらなかった。

 西陽にしび窓辺まどべし、ひじをつき、なにも思うことがなかった。ただ、無闇むやみに悲しかった。悲しみを真正面から受けとめる若さが悲しかった。

 あのとき、私は二十四歳であった。年上のひとから、一人前に扱われぬ悲しみをきずって、友情をもとめてまちをうろついていた。路上でギターをく青年と出逢であった。青年は、三十四歳の在日韓国人で、たくさんの聴衆者をもとめていた。私は、小さな公民館で開かれる青年の音楽会に時折出かけて行った。その会場で、または、音楽会後に毎回おこなわれる打ち上げのみ会で、いろいろな職業、年齢の男女の人たちと出逢であった。

 出逢った人のなかに、東大卒の日本共産党員がいた。私は、私と同年配の屈託くったくのない、話のできる友人がほしかった。しかし、呑み会では在日青年が自分の音楽について熱く語り、共産党員が人類平和について語り、それを参加者が黙って聞くだけになっていた。私はもどかしかった。友人はできそうになかった。そして、次第に音楽会後の呑み会は政治的な匂いが強くなり、在日青年は、過去の日本がおこなった朝鮮半島と朝鮮人にたいする行為について、日本人である私たちを糾弾するようになっていった。そして、青年は、過去に朝鮮人が受けた損害を、私たち日本人が、いま支払うべきだと主張して、中華料理店での在日青年の飲食代を請求した。

 しばらくして、私は在日青年の音楽会に行かなくなった。興味がなくなったのもあったが、別の新たな交友関係ができたからであった。しかし、交友関係ができても、相変あいかわらず孤独な気持ちに変わりはなかった。


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