第24話 神様は いくらで買える

 神様は いくらで買える


 かねで買えぬ物など、ないと言った富豪も、最期さいごのときには「神様は、いくらで買える」と、こう思うだろう。富豪ふごうだろうと、乞食こじきだろうと、神様が買えぬ点では平等である。

 生命いのちだけは買えないから、ひとは頑張がんばれるのかもしれない。もし、ひとは地球上で、永遠の命で、死なない生物だったら、頑張れるのか、文明を築けたのか、子孫を残そうとしたのか。もし、ひとが死なずに、からだのほとんどを失っても、からだの一部があれば、そこから再生する生物だったら、からだの内外で苦もなく栄養素を取り込める生物だったら、同族同士で争うこともなくなり、地球上をおおくすだろうか。

 不死身ふじみからだを手に入れて、何をするのだろうか。また、もし、ひとは死んでも死なない存在であったと、知ってしまったら、どうであろうか。

 ひとのからだは消滅しても、心は、魂は永遠に残り、永遠に宇宙の循環のなかにあるとしたら、それでも、ひとは頑張るのか。

 年寄りの、世迷言よまよいごとになってしまった。これも老耄ろうもうのなせるわざである。ひとは、ただ、生まれて、死んでゆく。その短い間に、何事かを思い描き、そして、果たされぬまま消えてゆく。一瞬のあぶくのようなものである。ひとは、哀れである。ひとは、みな、吾をふくめて、哀れなり。と言ったと思う。だれの言葉なのか忘れたが、悲しい言葉である。

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