第6話 いつも 好きな仕事に酔っていたい

  いつも きな仕事しごとっていたい


  絵を描いて、それが仕事になればよかった。しかし、そうはならなかった。四十二歳となった今(当時)でも、ほとんど売れることはなかった。たとえ売れても、一枚、一万円を超えることはまれだった。つまり、絵を描いて生活はできなかった。では、どうやって生活しているかと言うと、ほとんどの時間を低賃金のアルバイト仕事に費やしていた。

 いんよう。人生は、禍福かふくはあざなえるなわごとし、と言ったそうだが、まさに私の半生を思い出すと、その通りだと思われた。しかし、私の縄は、陽よりも陰の部分が多く、そのなかでも、客観的に見ても陰性的性質が強かった時期は、清掃の仕事をしているときであった。

 そのとき、私はなにを考えていたのか、今でもさだかではない。清掃の仕事にいたのは平成十年六月十日である。その年は、日給制の発掘作業の仕事に、二月十日から二カ月間いた。そして、二カ月間休職して、六月十日をむかえた。私は、発掘作業の現場で気がへんになったのかもしれない。発掘作業に異変はなかった。多少、肉体的に作業がつらいと感じたこともあったが、ごく普通の発掘作業であった。しかし、問題なのは、その発掘現場で働いている作業員たちであった。今では冷静に、そのときのことを分析できるが、当時は渦中かちゅうにいて、わからなかった。私は、狐にでも莫迦ばかされている気持ちになっていた。作業者は、二十代、三十代の男女が、四、五十名はいて、その作業者全員が変であった。人間でない、とたとえも妙な感じであるが、つまり、街なかで、あまり見かけないタイプの者たちであった。今では、私は、彼ら、彼女らが、全員精神を病んでいたと、思える。しかし、全員が狂っているなどとうことが、実際にあるとは当時は思えなかった。その異常事態を納得して、発掘現場を辞めるまで二カ月間の時間を要した。

 私は、発掘現場での異常事態の悪影響を受けたまま、更に選択まちがいを犯したわけである。清掃の仕事を半年間するはめになった。

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