第2話 生きることに適性がない

 生きることに適性てきせいがない


 人とうまくやってゆけなかった。自分の感覚と他人の感覚が大きく違っているようで、うまく話が通じなかった。私は、自分があきらかに少数派の人間であり、生きてゆける場所が限定的であると知った。

 中学、高校時代の六年間と大学受験に失敗しての一年間で、大多数の人たちと感性が合わないことに気づいた。私は、他人の感性に同調しようと、ひと通り努力したが、どうしても適合できなかった。

 しかし、そうは言っても悲観ばかりしていられない。生活するためにも他人と関わって金銭をかせいで生きてゆかねばならぬ。私は十九歳で、早くも、生きてゆくことに自信が持てなくなった。そして、自分の気持ちをだまして、出来ないアルバイト仕事にいた。私は、ひと前に出るのが苦手であった。しかし、居酒屋のホールで客の注文を聞いたり、ビールを運んだりしていた。その仕事は、内気な自分を鼓舞こぶする意味もあったが、ほんとうのところ低学歴で無資格の私は他の職種では通用しなかった。贅沢ぜいたくは言えないが居酒屋で働いている者たちとまるで気が合わなかった。それでも、自分の感覚を押し殺して、一日あたり十時間づつ勤め、一年がった。そして、私は、る日、居酒屋をめた。めた理由は別段なかった。ただ、そこにつとめ続けていても、どうにもならないことはわかっていた。お金は、まったくまっていなかった。その後、似たような飲食関係のアルバイト仕事を転々として、気がついた。どうも私は世の中の調子に合わないと。仕事内容も合わなかったが、職場の人間と合わなかった。このことは私にとって決定的事実であった。その後、仕事内容の適性てきせいをもとめて日雇ひやと土工どこう仕事に出るようになるが、これも職種選択のおもな理由は、煩瑣はんさな人間関係が日雇いではその日限ひかぎりになり、幾分人間関係のわずらわしさが軽減されるのではないかとう思いからであった。




 

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