no999...おまけ話

 カグラと再開した後、私は所属していたパーティにお別れの挨拶をするため、溜まり場にしているギルドにやってきた。


「すまん。スズネ、もう一度言ってくれ」


 テーブルの向かいに座る焦茶色の短髪と筋肉が自慢のラハトは、目をぱちくりしながら聞き返してきた。


 ラハトは私が2度目の転生をした後、屋敷の用心棒としてよく出入りしていたベテランの冒険者だ。

 私が家を追い出された後も、冒険者になる手続きやクエスト攻略のノウハウなどを教えてくれた、実質お兄ちゃんである。


「スズネはいつも唐突」


 ラハトの隣に座っている白髪のツインテールをした小柄な女の子は、ミーティル。彼女も私と同じく親に愛されなかった子。ただミーティルの場合は、赤ちゃんの時に教会に捨てれられていたらしい。


 ラハトとミーティル。2人は家族同様の存在だけど、記憶が戻ったいま、カグラといたい気持ちの方が何千倍も強い。


「だーかーら、私この人と結婚するのでパーティ抜けます! ありがとうございました! じゃ!」


「ちょっと待てい! まず、そいつはどこの誰だ! お前が産まれた時からあの屋敷には出入りしていたが、こんな男は見たことないぞ!」


「そりゃそうだよ。いまさっきそこで会ったんだから」


「は? 今さっきそこで会って……。もう結婚するのか?そしてパーティを抜けると」


「そ! 正解!」


 ハラトは頭を抱えてしまった。何も嘘はついてないし、間違ったことは言ってないのに。


「スズネの言動がおかしいのは、今に始まった事じゃない」


 ミーティルにも呆れられてしまった。うーん。この2人にはちゃんと説明した方が良さそうだ。特に隠すべき事でもないし。


「あー、えっとね。この人は前世が剣でその前は人間なの。でね? 一緒に魔剣になっちゃったリナティスを倒して、私もカグラも死んじゃってー。それで、さっき運命の再会を果たして、前世で愛を誓い合った仲なのを思い出したってわけ」


 身振り手振りで頑張って伝えたのに全く伝わっていないようだ。二人ともポカーンと口を開けたまま固まってしまった。


「……涼音。お前が話すと混乱する。我が話そう」


「うん! 任せた!」


 説明をカグラに任せて、私はさっき買った焼き魚を熱いうちに食べる。骨は《万物分断》で外すことで、なんとも綺麗に食べれちゃう!


 カグラが旅のために買った干物までガジガジ食べていると、いつの間にか話が終わったらしい。

 

「ぐすん。スズネに、そんな過去があったなんてよぉ。ぐす、泣かせるじゃぁねぇかよぉ」


 カグラの話を聞いたラハトは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔で泣いていた。ミーティルは普段からあまり感情を表に出さないけど、私たちを見て微笑んでるのがわかった。


「スズネとカグラがんばった」


「えへへ、ありがと」


 ミーティルが私の手をぎゅっと握ってくれた。


「ちくしょー! もう飲むしかねぇな! おっちゃん! 酒持って来い! 俺の奢りだ! 全員飲め!!」


 それから、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎは夜中まで続いた。ラハトも何かそんなに嬉しいのか、終始泣きながら笑っていたのが印象に残った。


――「涼音。起きろ」


「うーん?」


「こんな所で寝たら風邪をひくぞ」


 いつの間にか寝てしまったらしい。辺りを見るとみんな酔い潰れて寝ている。ギルドの受付嬢達や、ギルドマスターまでもが酒瓶を抱えて寝ている。酒臭いギルドは、ひどい有様だった。


「涼音は、みんなから大切にされていたのだな」


「そだねぇ。ここに来てから色々あったけど、みんな良くしてくれたよー」


 カグラはリュックから大量の金貨が入った袋を出すと、書き置きをしてギルドマスターに抱えさせた。


「これで足りるだろう」


「わお、カグラお金持ちだね!」


「ベネッサからの貰い物だ。この国を助けた我と涼音には血税で感謝を伝えると言って毎年くれるのだ」


「へぇー」


 ドンチャン騒ぎをしながら、カグラからこの15年間のことを少しだけ聞いた。カグラはとある貴族の家にヴァルドという名前で産まれたこと、私を探すために国中探し回ってくれたこと。ベネッサがフェルリオルと結婚して王妃になったこと。


「ベネッサにも会いたいなぁ」


「今日は宿に泊まり、明日改めて城に出向こう」


「さんせーい」


 私とカグラはギルドを出ると、少し肌寒くなった街を歩いた。いくらお祭り期間中とはいえ、夜中な事もあり人通りも少ない。あちこちで酔い潰れてる人はいるけど。


「ふぁぁぁあ」


「まだ眠いか?」


「うん……。12歳の身体だから体力が無くてね」


「しかたない。おぶってやる」


「わーい、ぴょん」


 カグラにおんぶしてもらうと、背中から暖かさが伝わってくる。剣の時には感じられなかった温かみ。その暖かさがすごく心地よくて、優しくて――


――「ついたぞ」


 半分夢の世界にいる私は、背中に柔らかいベットの弾力を感じると、カグラの声が聞こえた。


「ふにゃぁ、お布団ー?」


「ああ、今夜はここで休む」


 寝ぼけながら装備を外して、二人で一つの布団に寝っ転がると、私はカグラに抱きついた。


「えへへー。カグラ、暖ったかい」


 カグラが私の頭を撫でてくれる。その手がすごく優しくて気持ちよくて、もっといろんな事したいのに。眠く……。


 寝落ちする瞬間、カグラの声が聞こえた気がする。


「まったく。やっと互いに触れられるというのに……」


――翌朝。


「ふぁぁあー! よく寝た」


「起きたか」


 目を覚ますと知らない部屋、知らないベットの上にいて、隣には知らない人が上半身裸の赤髪浅黒肌のイケメンが微笑んでいる。


「ああああああ?! 誰?! 私、お持ち帰りされた?!」


「いくら我でも傷付くぞ」


「あ! はっ! そうだ、カグラだ。びっくりしたぁ」


「お前の頭の中は、いったいどうなっているのだ」


 あれー? でも私は洋服を着たままだ。昨夜は何もなかったのかな? 何にも記憶がない。


「あの、カグラさん? 昨日の夜って、その……」


 ベットから立ち上がり、洋服を着たり装備を整えているカグラに恐る恐る尋ねてみた。


「ん? ああ、昨夜は激しかったな。我も久々に疲れたぞ」


「えええぇぇ?!」


 がーん! 知らぬ間に私は大人の階段を登ってしまったみたい……。がーん! 初めてなのに……。私はショックのあまり、カグラのボソッと放った独り言が聞こえてなかった。


「お前の寝相がな……」


◇◆


「何かお土産とか買って行かなくていいかな?!」


 ベネッサの予定がわからないから、朝早い方が良いだろうというカグラの提案で、まだ冷たさが残る早朝の城下町を歩き、私たちはレティーナ城を目指していた。


「いらんだろう。我はいつも手ぶらだ」


「そうかなぁ? あった方がいいと思うけど……。あ、あれなんてどうかな?! おっちゃーん! それ包んでー! カグラ! お金ー!」


「やれやれ」


 私はベネッサへ渡すお土産を買うと、ルンルン気分でレティーナ城の門へやってきた。


「こんにちはー! ベネッサいますかー?」


 門の前に立っていた複数の兵士に挨拶したら、とりあえず槍を向けられた。


「なんだ貴様! 名を名乗れ!」


 あ、まぁそうだよね。お城の入り方なんて知らないしー。私がまごついていると、カグラがぐいっと私の前に出た。


「ヴァルド・ドラストリアだ。ベネッサ様へ『涼音を見つけた』と伝えてくれ」


「これは! ヴァルド様! すぐに!」


 兵士は慌てて門の隣にある連絡室に走って行った。いや、それより私の心臓が止まった。いま初耳の情報が飛び込んできたよ?!


「ド、ドラストリア?!」


「ああ、言ってなかったな。我の母はネルフィム。父はティナードだ」


「ええええええー!? そこくっついたの?! あんなに険悪だったのに?!」


 びっくりした! 確かに、カグラの髪はネルフィムと同じく赤くて、肌はティナードと同じくやや浅黒いけど、そこかー。


「そうなんだぁ。世の中、何が起こるかわからないねぇ」


「本当にな」


「もしかして、ベネッサにも子供がいるの?」


「ああ、確か11人いるぞ」


「多すぎない?!」


「涼音が自分から産まれてくると信じていたようでな……」


「あー」


 魂と肉体の繋がりが一時的にあったから、それでベネッサは自分が産まないとって思っちゃたのかな。悪い事したなぁ。


 ドタドタと激しい足音を鳴らしながら、先ほどの兵士が息を切らせて戻ってきた。


「はぁはぁ……ヴァルド様! 王及び王妃がすぐにお会いするとの事です! こちらへどうぞ!」


 ベネッサが飛び出してきてくれるかなー?とか、少し期待してたけも、フェルリオルもベネッサもこの国の最重要人物だ。おいそれと城の外に出てくるわけにもいかない。体裁というのもある。


 私とカグラは息切れ兵士の後に続いて門をくぐると、本殿の玉座の間、ではなく……。その横にある応接室に通された。


「こちらでお待ちください」


 応接室に入ると、アンティーク風な椅子やローテーブル。細かな調度品や本など、さすがお城の中と思わせる豪華さの中に気品ある部屋になっていた。


「あ、大きな鏡だー」


 部屋の壁には大きな姿鏡が置かれていた。この世界にはどういうわけか、大きな鏡がほとんどない。手鏡はあるんだけど、大きいのを作る技術が乏しいのかな?


「カグラこっちこっち」


 ちょいちょいと手招きをして、鏡の前に来て二人で並ぶと私の頭の上にカグラの頭が丁度きた。今世の私はまだ12歳な事もあって背が小さい。カグラは15歳にしてはガタイが良いから――


「わ!」


 カグラが突然後ろから抱きしめてきた。


「ど、どどどうしたの?!」


「少し、涼音の温もりが欲しくなっただけだ」


 は、恥ずかしいーーー! もうやだやだカグラったらどうしたの?! こんな恥ずかしい事しちゃうんだー。そんなに私のこと好きなんだー。ふーん。


「えへへ、私もカグラ。大好きだよ」


 くるっと回ってカグラに抱きつくと、私とカグラの視線が交わり、互いの顔が近づき、唇が……。こ、こんなところで? 


 その時だった。


 バーーーン!!


 と勢いよく応接室のドアが壊れた。

 私の心臓も飛び出た。


「涼音さーーーーーーーーーん!」


「あーー! ベネッサー!」


 慌ててカグラを剥がすと、豪華なドレスに身を包んで老けた顔のベネッサが、私に向かって走り出してきて――


 グーパンをもらった。


「ぐへぇー?!」


 痛い! 殴られた頬を手で抑えて、思わず尻餅をついてしまった。ベネッサの背後には、フェルリオルにルイン、カルナセシルが見える。みんな歳を取った。


「涼音さん! 酷いじゃないですか!」


 いきなり怒られた。グーパンの意味もわかってないけど、とりあえず謝らないと。


「カグラとちゅーしようとしてごめんなさい!!」


「そ、そんなことを咎めているのではありません!」


 違うの?!


「あああ! お土産にって買った焼き魚を二匹食べてしまってごめんなさい! はい!どうぞ!」


「何を言ってるんですか! 私に言うことあるでしょう?!」


 え? なんだろ? 私がベネッサに言わなきゃいけないのと? こないだ街の街頭を一本折っちゃった事かな? それともギルドで隣の席のお兄さんが落としたお肉を拾い食いしたことかな……。


――ベネッサは、お前が産まれてくると思って子供を産み続けていたんだぞ――


 カグラがさっき言ってた言葉を思い出した。


「ベネッサから産まれてこなくてごめんね?」


「違うでしょう! さよならも言わずに、私に黙っていなくならないでください! どれだけ心配して、後悔したと思ってるんですか!」


 ベネッサにぎゅって抱きしめられた。


 えぇー。そんなこと言われても、ベネッサ気を失ってたし。一分一秒を争う状況だったから、話す暇なかったじゃん?!


「涼音さんとカグラさんと私、ずっと三人で困難を共に乗り越えたのに! 一緒に冒険してたのに! 気がついたら私だけになってて……。涼音さんもカグラさんもいなくなってて……。酷いじゃないですか、なんで……勝手に死ぬんですか! ぐすん」


 ベネッサは子供みたいに、私の胸で泣きじゃくった。彼女も彼女で、もちろん命をかけて戦ったし、使命や責任、色々なものを背負っていた。ベネッサは、私なんかよりずっとずっと、がんばっていた。


「ごめんねベネッサ。私は異世界から来た余所者だから、ベネッサに借りた身体をちゃんと返したかったんだ」


 いや、それは言い訳か……。

 

 言ってから気付いてしまった。


 私は、ちゃんと死にたかったんだ。


 前世でもパッとしない人生で、意味もなく死んだ。


 だから私は新しい生というより、ちゃんと死にたかったのかもしれない。せめて人の役に立って死にたかった。死に場所を探していたのかもしれない。


 私はその言い訳にベネッサを使った。

 本当に酷い奴だよ。私は……。


「勝手に死んじゃってごめんね。ベネッサに丸投げしちゃった」


「そうですよ! 大変だったんですから! 私が涼音さんを産まなきゃいけないのかと思って、何人産んだと思ってるんですか! このぉー! 心配かけさせてー!」


「いひゃいーっ」


 ベネッサが私の両ほっぺをひっぱった。おまけにぐりぐりしてきた。ちーぎーれーるー。


「それくらいにしてやってくれ。ベネッサ」


 カグラが止めに入ってくれた。危なく頬っぺたにたこ焼きが出来ちゃうところだった。きっと赤くなってる。


「私からも礼を言わせてくれ」


 頬っぺたをなでなでしていたら、フェルリオル王子……いや、フェルリオル王が話しかけてきた。昔より金髪は少し伸びてくたびれ感が出ているけど、相変わらず鋭いエメラルドグリーンの瞳は力強い。


「いやー、なんか迷惑かけちゃったみたいで……」


「とんでもない。涼音がなかなか見つからなかったから、私は毎夜ベネッサに求められて、非常に満足のいく15年だった。改めて例を言う」


「え……」


 握手を求めてきたので握り返したけど、この人は礼を言う理由を間違えてる気がする。ブレてないなぁ。


 するとベネッサの背後に控えていたルインが、両手と頭を地面に擦り付けた。


「ヴァルド様! 申し訳ございません!! まさかこの国に涼音様がいるとは……」


「ルイン、別に我は其方を責めてはおらん。こうして涼音と会えたのだ。時間はかかったが、これも何かの巡り合わせだろう。きっと意味のあることだ。我はそう考えている」


「慈悲深いお言葉……。ありがとうございます!」


 ルインはカグラの寛大な心に感銘を受けたみたいで、涙を流して喜んでいる。ちょっと怖い。


 すると、話を断ち切るようにフェルリオル王が一歩前で出た。


「さて涼音よ。遅くなってしまったが、国を救ってくれた礼だ。私に出来る範囲でなんでも望みを叶えよう」


「え? なんでも?」


 このレティーナ王国でフェルリオル王に出来ない事なんてないよね?! えー! どうしよ、やっぱりカグラと住む家かなー? 金銀財宝かなー? でも……。


「んー、いいや。見返りが欲しかったわけじゃないし、いまは満たされてるから」


「しかし――」


 私の回答にフェルリオルが難色を示すと、カグラが割って入ってきた。


「涼音がいらぬのなら、その願い我が頂こう」


「えー! ずるーい!」


「いらぬと言ったのは、お前だろう?」


「そ、それはシャコージレーっていうか」


「ならば問おう。カグラよ、涼音と再開出来た今、何を望む?」


 そうだ。カグラはネルフィム様とティナード様の子供ならお金もたんまり持ってるし? 権力もあるし? 私っていう素敵な彼女もいるし? 何を望むんだろ。


「我と涼音を、レティーナ王国の正式な調査隊として認可し、国境間の自由移動特別許可と正式な身分証の作成を頼む」


「ほえ?」


 カグラが突然意味不明なことを言い出した。国境間の特別許可? ハネムーンは海外って事?


「……やはりカグラさん行くのですか? イステリナ王国に」


 イステリナ王国? って海の向こうの国だったかな?


「ああ、涼音を探している時に掴んだあの情報は、無視できぬ」


「なに? なに? なんの話?」


「えっとですね。涼音さんを探すために世界中の情報を集めていました。その中に【規定外スキルモンスター】が出たという情報がありました」


 規定外スキル……モンスター?ってなんだろ。困惑してカグラに視線を送ると、カグラが答えてくれた。


「規定外スキルモンスターとは、そのモンスターが生涯で取得出来るはずのないスキルを持つモンスターの事だ」


 持つはずのないスキルを持つ?

 え、まって、それって……。


「カグラの《神剣献上》みたいな……。え? まさか……」


「そうだ。リナティスが生きている可能性がある」


「嘘……。だって確実に倒したんじゃ……」


「ああ、確かにやつの魔力は消えた……。だから別の原因かもしれん。だが、仮に生きてるのなら我が再び引導を渡さねばならん」


 あんな危ない奴が生きてるなんて……。十五年かけて勢力を増やしてたらと思うと、もう手遅れかもしれない……。


「事態の深刻さがわかったか?」


「うん……。下手してらとんでもない事になるよ。絶対に阻止しないと……。カグラ行こう! イステリナ王国へ!」


「いいのか? 豪華な家をもらって、この国で悠々自適な生活を送ることも出来るんだぞ?」


「そんなのどうだっていいよ! 私が一つの場所にじっとしてられる女に見える?!」


「ふ、見えないな。フェルリオル、聞いた通りだ。我らが勝手にイステリナ王国へ侵入すればスパイ容疑やいらぬ問題を起こす可能性がある」


「そうだな……。レティーナ王国の調査隊として、正式に編成しイステリナ王国にも許可を取るべきだろう」


 私たちの話を聞いて、ベネッサが少し不満そうな顔をしている。私たちがこの国を離れるのが心配なのかなと思って、声をかけてみたが違った。


「ベネッサ?」


「私も行きます……」


「へ? いやいやいや! 無理だよ! そんな歳とった身体でんんんんん!!」


 ベネッサに顔を握りつぶされた。

 これ本気の奴だ。顔がメキメキと悲鳴をあげている。


「わかってますよ……。もうあの頃とは違う。私には今のカグラさんや涼音さんと旅をするだけの体力も、王妃としての責務を放り出す覚悟も、母として子供達を放ってこの国を飛び出す勇気がない事は……」


 ベネッサ離して……。頬っぺたが貫通しちゃう……。


「なので、行くなら私だと思って、私の従魔を連れて行ってください!《サモンテイム》配信スライム!」


 ベネッサが私の顔から手を離すと、その手のひらに魔法陣が現れ、羽根の生えた小さな青いスライムが召喚された。


「ひぃん痛かったよぉ……。あれ、この子って……」


「そうです。涼音さんがテイムした子です。涼音さんがいなくなった後、フリーになったので私がテイムし直しました。旅の間はこの子を連れて行ってください」


 そっか。従魔を連れていけば《シェアセンス》でいつでもベネッサと会話が出来るから、実質ベネッサと冒険してる感が出るね。


「うん。わかったよ。この子連れて行くね」


 にっこりと微笑んで配信スライムを撫でようとしたら、私を警戒して天井までパタパタと逃げて行った。あ、覚えてるのかな?


「テイミングは魂と魂の契約だ。お前のことを覚えていても不思議では無い」


「あ、やっぱり? もう爆破させないから大丈夫だよー? たぶん」


 全然降りてこない……。


「信用は皆無だな」


 なんとか降りてこいと配信スライムを宥めていると、フェルリオルが何やら高価な羊皮紙を持ってきた。


「カグラ。調査隊の発足には最低でも三名は必要だ。これは私の力ではどうしようもない。悪いがもう一人誰か選出してくれ。それと隊長はカグラで良いな?」


「ああ、我で良い。ドラストリアの姪を存分に使おう。残りのメンバーについては後日決める」


「わかった」


 とんとん拍子で決まって行く。イステリナ王国かー。どんな国だろう?


 それにしてもメンバーをもう一人追加しないといけないのは想定外だ。カグラと二人旅がよかったなぁ、というのが本音で少し残念。


「あの、ベネッサ様。そろそろスケジュールが……」


 話に熱が入っていると、ルインが申し訳なさそうに声をかけてきた。元々私たちが突撃押しかけたのだから、本来のスケジュールが押しているのは当然だ。


「待たせておきなさいと言いたいところですが、昨日の今日ですからね……。わかりました」


 もっと話したいことはたくさんあるけど、ベネッサは抱えているものが多すぎる。深いため息を吐くと、ベネッサはドレスを直し私は向き直した。


「涼音さん。一度は死んだ私を生き返らせるだけではなく、このレティーナ王国を救ってくれたこと。心より感謝しています。貴女は私の……。この国の救世主です」


「そ、そんなこと……。照れちゃうなぁ。えへへ」


「困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね」


 最後にベネッサと力強く抱き合い、フェルリオルとも固い握手をして「また遊びに来るね」と言い残すと、配信スライムを連れて私たちはレティーナ城を後にした。


 ベネッサ達に会って心がほっこりした。

 弾む足取りのまま、門を出て城下町の入り口へ戻ってくると、お祭りの賑やかな喧騒が聞こえてきた。


 だけど、何かが私の心を不安にさせて、私はピタッと立ち止まった。私の足音が止まったことにカグラが気づき、振り向むく。


「どうした? 涼音」


「……ねぇ、カグラ。リナティスは、やっぱり生きてるのかな?」


 カグラは手を顎に当てると、少し悩んだ後にゆっくりと答えた。


「彼らの手前、他の可能性もあるから調査すると言ったが、我の予想ではリナティスで間違いないだろう」


「……だよね」


 リナティスの思想は本当に危険だ。自分勝手だし自分に不必要なモノは簡単に切り捨てる。《万物分断》は私が奪ったからもう持ってないと思うけど、それでも神剣カグラ・マサラを持たない私たちで勝てるのかどうか……。


「イステリナ王国には、いつ行くの? 明日?」


「そうだな。レティーナ王国の調査隊として正式に認可が降りれば、すぐに出発する予定だが……。まぁ、早くても一ヶ月はかかるだろう」


「そっか……。思ったよりあるね。なら私はその間に少しでも剣の腕を磨こうかな」


「ならば、肩慣らしにギルドで依頼でも受けてみるか」


「それいいね! 新しい人が仲間に入る前に、カグラと冒険したかったんだよね!」


「足を引っ張るなよ?」


「それはこっちのセリフだよ!」


 生誕祭で賑わう街の中を、私たちは笑いながら手を繋いで歩き出した。


―――――――――――――――

こんにちはー!

まめつぶいちごです!


公募にあたり150ページにギュッとまとめた『欲張り転生』ですが、記念に1話追加しようと書いてたら、涼音とカグラが勝手に話を広げ始めました...

これは2を書かなきゃ!ですね!


今作を書くのに二ヶ月掛かっているので、来年にはなってしまうと思いますが『欲張り転生2』は書きたいと思います!


カグラとは会えたけど神剣カグラ・マサラの無い涼音がどんな冒険を繰り広げるのか。いまから書くのが楽しみです!


また会いましょうー!

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欲張り転生★ダンジョン最下層へ落とされた悪役令嬢は、喋る剣と配信しながら地上を目指します まめつぶいちご @mametubu_ichigo

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